田中先生の本はなぜ面白いのか

 

田中先生の新刊が2023年1月26日に発売になりました。今回も期待通りに面白く一気読みしました。今回は、田中先生の本はなぜ面白いのかに迫ってみました。

 

 

ただの人にならない「定年の壁」のこわしかた

田中先生の新刊タイトルは、「ただの人にならない『定年の壁』のこわしかた」。タイトルからして定年本です。サラリーマンの定年後のお金と生き方への提案が書かれています。

 

定年後のお金と生き方

 

長寿社会になって定年後の期間が長くなった今の時代、定年後の老後資金への不安をもつ人が増えています。その不安に対しての田中先生の提案が、「定年後も働いて収入を得る」です。これがお金に関する提案。

 

ところが、定年のあるサラリーマンが「定年後も働く」を実行するためには、壁が立ちはだかります。サラリーマンは、定年になったらそこで働くのは終了というルールがあります。ですから、サラリーマンには、定年後は働けないという壁が立ちはだかります。これが「定年の壁」です。「定年の壁」に対しての田中先生の提案が、「定年後に雇われずにフリーランスとして働く」です。これが生き方に関する提案。

 

至ってシンプル、かつ合理的な提案です。その提案にのるとしたら、今までサラリーマンとして働いてきた人がどうやってフリーランスに転身すればいいのか。この本は、その道標を示してくれます。

 

「定年の壁」の正体

「定年の壁」のこわし方と言うからには、「定年の壁」の正体がわからねばなりません。

 

サラリーマンとフリーランスの違いは、「会社に雇われて働くか」と「雇われずに働くか」の雇用形態の違いではないというのが、田中先生の持論でした。この本では、サラリーマンとフリーランスの違いの本質を鋭く突いています。

定年の壁の正体

 

サラリーマンは、会社や上司から与えられた仕事を行ううちに、「好きな仕事=Bモード仕事」がわからなくなります。一方で、フリーランスは、やりたい仕事を自由に行う存在です。それができるのは、「好きな仕事=Bモード仕事」がわかっているからです。

 

サラリーマンとフリーランスの違いは、目に見える雇用の形態の違いではなく、好きな仕事がわかって仕事をしているかどうかのマインドの違いなのです。

 

サラリーマンの前に立ちはだかる「定年の壁」の正体は、定年後に働けないことではなく、好きな仕事がわからないことです。この本では、好きな仕事がわかって仕事をすることをフリーランスマインドと呼び、フリーランスマインドの身につけ方について、あらゆる角度から論じています。

 

 

田中先生の本はなぜ面白いのか

私は、この本にも出てくる「女性限定・孫子の兵法勉強会」に参加しています。ここしばらくの勉強会のテーマは定年や老後に関するものでしたから、この本には、その勉強会を通じてすでに知っていた内容も含まれていました。

 

全部ではないとはいえ、知っている内容もあったにも関わらず、田中先生の新刊を面白く読み進めることができました。読み終わって真っ先に頭に浮かんだのはこれでした。

「あー、田中先生の本はなぜ面白いのかを解明したい」

 

その目線でもう一度パラパラと読み返してみて、私が出した結論はこれです。

田中先生の本の面白さはキレとコクにある

 

料理でも、キレがいいとコクが足りなくなり、コクが強いとキレが悪くなると言われます。田中先生の本が面白いのは、「キレがあるのにコクがある」を成立させているからです。

 

 

 

キレのある表現

田中先生の本には、随所にキレのある表現があり、キレによって読者を新しい世界に誘ってくれます。

 

◆独自視点の洞察

なんといっても田中先生独自の視点による深い洞察を行った表現には、ハッとさせられます。

 

例えば、定年不安の正体をマズローの欲求五段階説と対比して作成した不安五段階説

 

欲求五段階説と不安五段階説

 

マズローの欲求五段階説は、人間の欲求を5つの階層構造でとらえ、欲求は下から上へと向かうことを表したものです。

 

田中先生が作成した不安五段階説では、年をとると不安が階層構造になって心を蝕んでくると説明しています。不安③~⑤が何かは、ぜひ本を手にとって確かめてください。そして、所属と承認欲求を会社に依存していたサラリーマンには、定年によってそれらを喪失することへの警鐘を鳴らしています。

 

◆絶妙な例え方

田中先生の絶妙な例え方によって、腹落ち度は爆上がりします。

 

例えば、商売が下手な人がやっていることを「まずいラーメンを山奥で売る」という例え方

 

これを読んだだけで、商売の基本である「売りもの」と「買ってくれる顧客候補を探す」の意味が一瞬にして腹落ちします。

 

 

コクのある表現

田中先生の本には、キレがある表現だけでなく、コクのある表現もあります。そして、コクのある表現にこそ田中先生らしさがあると私は見ています。コクのある表現によって、読者の興味を高め、読みものとしての面白さを増してくれるのです。

 

◆ユーモア

田中先生の本に挿まれたユーモアは、クスリとした笑いを誘い、緊張をゆるめてくれます。

 

例えば、「定年の前に諦念を学ぶ」の表現

 

「定年の前に諦めを学ぶ」でも意味的には同じですが、「諦念」の言葉を選んでいます。田中先生は、きっとニヤリとしながら「諦念」の言葉を綴ったに違いありません。

 

◆雑学

さり気なく挿入されている雑学には、「へえ~」という楽しい驚きがあります。雑学を披露して終わりではなく、その使い方の解説つきというところに田中先生らしい奇襲を感じます。

 

例えば、「風流」という言葉の由来

 

禅宗では、思い通りにならないときの心のゆらぎが「風流」とされたことが書かれています。それに続いて、レストランで注文とは違う品が届いた時には、心の中で「風流だなあ」とつぶやこうと書かれています。

 

例えば、名の知られていない画家の絵画

 

ヘンドリック・フランズ・ディアメールが描いた「年齢のステップ」の絵画の紹介。一体どこからこんな絵画の知識を仕入れているのでしょうか。「年齢のステップ」には、誕生してからの人生の前半が上り、人生の後半は下りで描かれているように、「50歳を過ぎたら下り坂のプロセスを歩んでいる」ことを自覚しましょうと書かれています。

 

 

この本は定年本であって定年本ではない

この本のタイトルには「定年」がついていますし、内容も定年後をどうするかが中心になっています。誰が見ても定年本と位置づけるでしょう。

 

それでも、私は、この本は定年本であって定年本でないと主張します。定年本の皮をかぶった幸せな生き方の本です。ですから、定年のことなど全く考えてもいない若いサラリーマンにこそ読んでほしいと思います。そう思う理由が2つあります。

 

1つ目の理由は、令和時代のサラリーマンには「令和サラリーマンの壁」があるからです。

 

これまでのサラリーマンは、会社や上司から与えられた仕事をこなし、評価されれば会社で昇進するというキャリアが用意されていました。

 

ところが、昨今では、「キャリアオーナーシップ」という名のもとに会社でのキャリアの考え方が大きく変化しました。キャリアオーナーシップとは、「個人一人ひとりが『自らのキャリアはどうありたいか、如何に自己実現したいか』を意識し、納得のいくキャリアを築くための行動をとっていくこと」です。

 

令和サラリーマンの壁

 

令和サラリーマンには、「好きな仕事=Bモード仕事」がわかっていることが求められるのです。今まで、会社や上司から与えられた仕事をしてきたサラリーマンが、突然に、これからは自分のやりたいことを考えなさいと言われているのです。

 

令和のサラリーマンには、定年など程遠い年代であっても、「定年の壁」と同じく「令和サラリーマンの壁」が立ちはだかるのです。この本に書かれている「定年の壁」のこわし方は、「令和サラリーマンの壁」のこわし方でもあります。

 

2つ目の理由は、令和時代のサラリーマンには健康不安リスクがあるからです。

 

サラリーマンの健康不安リスク

 

令和時代のサラリーマンには、会社から強制的に令和サラリーマンへの転換を求められます。長年しみついた「好きな仕事=Bモード仕事」がわからない状態から、強制的に令和サラリーマンに転換しろと言われることがストレスになることは十分に考えられます。そのストレスによって健康不安を生じるリスクがあるのです。

 

貯蓄や投資よりも大事な健康に不安を生じるリスクを減らすためにも、この本を読んで、「令和サラリーマンの壁」のこわし方を知ってほしいと思います。

 

 

 

この本を脱稿した直後の田中先生と会う機会がありました。お疲れだった田中先生は、こんな言葉を漏らしていました。

「1年前は児童書を書いて、今度は定年本を書いた。守備範囲が広すぎて、疲れるもの当たり前」

 

そう言えば、私も1年前に田中先生が書いた児童書の読書感想文を書いたことを思い出しました。

iwayama.hatenablog.com

 

それを読み返してみて、わかりました。1年前に田中先生が書いたのは、児童書の顔をした幸せな生き方の本。今回、田中先生が書いたのは、定年本の顔をした幸せな生き方の本。どちらも「プレイフルに生きようぜ」という愛あるメッセージにあふれた幸せな生き方の本でした。

 

ですから、田中先生は守備範囲が広いと言ったけれど、案外そうでもないんじゃないかなあ(笑)