AIに学ぶ「自分軸」の見つけ方

田中先生の異次元の勉強会準備対策のおかげで「自分軸」の見つけ方を明らかにすることができました。

 

 

珍しく出された宿題

3月の孫子女子勉強会は、2022年度も残りわずかとなった2023年3月27日にありました。

 

 

勉強会会場に向かう途中で見た夜桜がちょうど満開で、驚くほどきれいでした。この日は、福岡在住で東京出張に来ていた勉強会メンバーと対面で初めてお会いすることもできました。そんなこんなで、いつも以上にご機嫌な気分で勉強会の始まりを迎えました。

 

ところがです。勉強会が始まった途端に気分曲線は急降下。なぜなら、田中先生のこんな言葉から勉強会が始まったからです。

 

「今日は3月末ということで、いつもとは趣向を変えて新年度に向けた宿題を出そうと思います」

 

年度変わりの節目に出された宿題は、「自分軸」を考えることでした。「自分軸」とは、自分が何かをするか/しないかの判断軸であり、自分が大切にしていることです。

 

宿題を出すトリガーは国会中継

年度変わりの節目の時期でもあり、働くことに対する「自分軸」をこのタイミングで改めて認識することは悪いことではありません。が、田中先生がこの宿題を出そうと思うに至ったのは、単に年度末だからというだけではなかったようです。その思考プロセスは大変興味深いものでした。

 

どれくらい前のことだったか忘れましたが、この勉強会仲間の間で「就活の軸」について話題になったことがありました。大人が就活生に対して、「就活の軸」を見つけてから就活することが必要だとあおり、その結果、就活生は「就活の軸」を見つけなければという呪縛に苦しんでいることが話題になりました。言われてみればそんな話があったなあと思い出しましたが、言われるまでは忘却の彼方のことでした。

 

ある日、国会中継を聞いていた田中先生は、「ブレてるんじゃないか」と言う言葉に引っかかりを覚えたそうです。しかも、その言葉は攻撃的な意味として聞こえたというのです。国会中継の中で「ブレる」の言葉に反応するのも珍しいと思いますが、そこからの思考の展開がさらに面白いのです。

 

「ブレる」というのは、軸になるものがある前提の言葉である。「ブレる」が攻撃用語として使われるのは、「軸」があり、その「軸からブレてはいけない」というルールがある土俵での話である。

 

田中先生の思考をトレースしてみると、「ブレる」から「軸」を連想し、「軸」から、はるか以前に勉強会で話題になった「就活の軸」を思い出したということになります。そこからさらに思考を展開して、田中先生はこう言いました。

 

『自分軸』というものは、振り返って後づけでわかるものだと思うんですね。だとすると、働く前の就活生が『就活の軸』を見つけられないのは当然なんですね。

 

ですから、特に若い子に対して、『軸がない』『ブレている』という言葉を攻撃用語として使わないようにしましょう。

 

もう十分に働いてきた私達は、『自分軸』を今一度考えてみましょう。これを宿題として出します」

 

国会中継を聞いて「就活の軸」を思い出し、そこから「軸がない」「ブレている」の言葉が就活生には攻撃用語になる発想に展開するのは、凡人では考えられない思考プロセスです。国会中継がトリガーとなって「自分軸」を宿題に出す発想に至っては、異次元の勉強会準備対策と言えるのでは?(笑)

 

「自分軸」とAIは似ている?

次の勉強会の時には、田中先生は自分が宿題を出したことなど覚えていない確率が99.9%です。しかーし、私は田中先生が覚えている確率0.1%の可能性に賭けて、不本意ながら宿題をすることにしました。

 

そうは言ったものの、「自分軸」は何だろうと考えてみたところでなかなかすぐには答えられないものです。これだけ年を重ねても「自分軸」を即答できないのですから、自分の軸がわからないと悩む必要なんてないんですよ、そこの若い人(って誰のことだ?)。

 

軸という言葉からは一本の直線が思い浮かびます。もし、「自分軸」が一本の直線だとしたら、一言で言い表せるもののような気がします。

 

ですが、自分の判断軸は一本の直線のイメージとは合わない感じがするし、一言で言い表せるほど単純ではない気もします。そんなことを考えていたら、AIも何かを判断するものだし、後づけで判断軸を見つける点を考えても、「自分軸」とAIは似ているのではと思い至りました。

 

まずは、犬と猫を見分けるAIについて考えてみましょう。AIについて考える時には、AIモデルを作成する「学習フェーズ」とAIモデルを使って判断する「推論フェーズ」に分けて考える必要があります。

 

AIの学習フェーズ

 

まずは「学習フェーズ」です。犬と猫を見分ける「犬猫判別AIモデル」を作成するには、犬の画像データと猫の画像データを学習します。学習に使われた画像データは、アルゴリズムによって数値化され、それぞれの数値に応じた位置にプロットされます。プロットされた犬と猫を分ける境界線が「犬猫判別AIモデル」になります。良いAIモデルが作れるかは、どんなアルゴリズムを選択するかにもかかっており、アルゴリズムを選ぶAIエンジニアの腕の見せ所になります。

 

AIの推論フェーズ

 

次は「推論フェーズ」です。犬か猫かわからない未知の動物の画像データを「犬猫判別AIモデル」に入力すると、学習時と同じアルゴリズムで数値化され、数値に応じた位置にプロットされます。プロットされた位置と境界線との位置関係によって犬か猫かを推論し、その結果を出力します。

 

「自分軸」を見つけることは、AIモデルを作成する「学習フェーズ」に似ています。

 

「自分軸」を見つけるフェーズ

 

何しろ「自分軸」ですから、学習のもとになるのは自分の経験です。何かの経験をした時に、その経験に「好き・得意」か「嫌い・苦手」かのラベルをつけて自分の中に蓄積してゆきます。

 

そうすると、自分の中でAIモデルを作成する時と同様な学習がおこります。学習時にどんなアルゴリズムを選択するかを考えなくても、経験をいい感じにプロットしてくれます。ここが人間の素晴らしいところです。プロットされた「好き・得意」な経験と「嫌い・苦手」な経験を判別する境界線が「自分軸」というわけです。

 

こうしてみると、やはり「自分軸」は一本の直線じゃないという直感はあたっていましたねえ。

 

「自分軸」を使った判断フェーズ

 

「自分軸」が見つかれば、たとえそれが未知の事柄でも、「自分軸」に照らし合わせて、それを行う前に「好き・得意」か「嫌い・苦手」かがわかります。

 

いやあ、AIと人間の学習と推論の仕組みはそっくりですね。学習しなければAIモデルを作成できないように、働いた経験のない就活生が「自分軸」を見つけられるはずがないんです。田中先生が言うように、就活生を含む若い人に対して「軸がない」と責めるのは、あまりにも酷な話ですよね。

 

AIに学ぶ「自分軸」の見つけ方

「自分軸」の見つけ方はAIモデル作成と似ているとは言いましたが、これだけでの情報では「自分軸」を見つけるのはやはり困難です。さらにAIに学んで、「自分軸」の見つけ方を深堀りしていきましょう。

 

AIモデルを作成するには、アルゴリズムとデータが重要です。「自分軸」を見つける際には、人間はよきに計らったアルゴリズムを選ぶ能力を備えているので、データが成否を握ることになります。成否を握る良いデータとは何かということもAIから学べます

 

良いデータであるためのポイントは3つあります。

 

(1)データの量

AIモデルの作成にはある程度以上のデータ量が必要です。少なすぎる量のデータでは、AIモデルは作成できません。

 

(2)データのバリエーション

データのバリエーションも大事です。たとえ量が十分であっても、そのデータがほとんど同じものであれば、違いを判別するAIモデルは作成できません。

 

(3)データの粒度

犬猫判別AIモデルの場合は、学習用のデータが画像なので粒度は問われません。ですが、時系列データの場合や広がりのある面のデータの場合は、どんな粒度でデータを取得するかがAIモデルの精度に影響します。

 

例えば時系列データであれば、1秒単位のデータ、1分単位のデータ、1時間単位のデータと、どの粒度のデータを使うかでAIモデルの精度は全く違ってきます。推論したい対象によってデータの粒度を適切にコントロールする。これが良いデータになるかどうかを決定づけることになります。

 

同様に、「自分軸」を見つけるためのポイントも3つです。

 

(1)経験の量

ある程度の数の経験を積まなければ、自分の「好き・得意」と「嫌い・苦手」を分ける精度のよい「自分軸」は見つかりません。

 

(2)経験のバリエーション

経験の量も大事ですが、経験のバリエーションも大事です。やってみたら「好き・得意」だった経験だけでなく、やってみたけど「嫌い・苦手」だった経験がないと、学習できないんです。無駄な経験はないと言うのは本当にそうなんです。

 

「好き・得意」の経験も「嫌い・苦手」の経験も両方ともに、できるだけ多様な経験をした方が望ましいです。経験のバリエーションが増えるとプロットされる点が散らばって、「好き・得意」と「嫌い・苦手」を分けるいい感じの「自分軸」が見えてくるからです。

 

(3) 経験を学習する粒度

一口に経験を学習すると言っても、一体どのような粒度で経験を学習すればいいのでしょうか?ある業界の会社で働いて自分には合わないと感じた時、その業界が「嫌い・苦手」と学習すればよいのでしょうか?

 

自分の気分に注意を向けて、気分が動く粒度で、気分が動いた(ご機嫌になった/不機嫌になった)要因となる経験を学習の単位とするのがよいと私は考えています。そうすれば、自分がご機嫌でいられるかどうかを分ける「自分軸」が見つかるからです。

 

経験を学習する粒度を調整する重要性こそAIに学べる最大のポイントだと思います。

 

宿題の答え

AIの学習と推論になぞらえてわかったことは、「自分軸」は一本の直線ではなく、したがって簡単に言い表せるものではないということです。私は「自分軸」を言葉では表現できませんが、未知なる経験を前にした時にそれをやりたいか/やりたくないかは判断できます。ですから、私には「自分軸」があると言えます。

 

そう言えば、勉強会が始まった途端に気分曲線が急降下した理由は「宿題」というキーワードが出たからでした。このキーワードがこんなにも気分に影響を与える言葉だったとは自分でも驚きでした。宿題は誰かから指示されて行う行為です。それが私にとっては気分が降下する理由でした。

 

勉強会後にこんなブログを書いているくらいですから、勉強会後に何かの作業を行うことが嫌なわけではないんです。ブログは、誰かからの指示(=Dモード)で行うわけではなく、自分の意思(=Bモード)で書いているから気分が上がるんです。

 

ああ、ここまで書いたらわかりました。「自分軸」を言葉で表現できないというのは誤りでした。私の「自分軸」は、ご機嫌でいられるかどうか、Bモードで行えるかどうかです。やっぱり最後はBモードか否かに行き着きました。

 

「自分軸」に従ってブログを書いていたら、いつの間にか嫌だと思っていた宿題もできちゃいました。これでスッキリした気分で新年度の勉強会を迎えられそうです(にっこり)。