迂直の計

2022年最後の孫子勉強会が行われたのはクリスマスが近づいた12月21日のことでした。コスパやタイパが重視される時代に、立ち止まって考える機会をもらった回でした。

 

 

迂直の計

この日にとりあげられた孫子の兵法からの一節はこれでした。

 

「迂を以て直となす」(迂直の計)

 

孫子の兵法では、遠回りしたり時間をかけたりして敵を油断させたところで、突撃して有利な状況をつくり出す戦略を迂直の計として説いています。

迂回した方が結果的には近道になることがあるという教えであり、迂直の計の迂は回り道すなわち曲線を、直は直線を意味します。

 

2500年以上も前に書かれた孫子の兵法の考えを現在の知恵に読み替えるのが孫子女子勉強会。迂直の計と言われればわかった気にはなりますが、我が身の血肉とするには言葉を知っただけでは足りません。その段差を埋めてくれるのが田中先生の解説です。

 

ToDoリストにみる迂直の計

迂直の計を現在の知恵に読み替えるために、田中先生はToDoリストを引き合いに、こう語りました。

 

ToDoリストに今日やることを書くのはダメです。ToDoリストに書くのは3年後までにやるべきことです。忙しくなると目の前のことに囚われて、直線経路を考えるようになります。

 

3年後までにやることは、すぐに結果を出そうとせずに試行錯誤をする猶予があります。その過程で思わぬ方向での結果につながることもあります。長期視点で考えると、直線経路以外の選択肢を選ぶことができます。

 

一方で、今日やることは、そもそもやる必要があるのか、やることの意味は何かを問う余裕もなく、今日のうちにこなしていくことに集中してしまいます。短期視点に陥ると、決まりきった直線経路だけを選ぶので、相手を驚かせるような意外な結果はおこりません。

ToDoリストにみる迂直の計

ToDoリストに3年後までにやることを書くのは長期視点をもつ迂であり、今日やることを書くのは短期視点に陥る直であるというわけです。

 

2500年前の迂直の計と、現在に生きる私たちの生活に溶け込んでいるToDoリスト。この一見関係なさそうな2つをつなげた解説で、迂直の計の意味するところが浮かび上がってきます。

 

TVドラマにみる迂直の計

田中先生にならって、私も現在に馴染んでいるものを引き合いに、迂直の計の理解を探求してみました。迂と直の対比ができるものとして思い浮かんだのがTVドラマです。

 

TVドラマは、見逃し配信で視聴できるようになりました。うちの子どもは、タイパ(タイムパフォーマンス)重視で、見逃し配信で早送りしてドラマを見ています。ところが、2022年に大ヒットしたドラマ「Silent」だけは通常再生で見ていました。

 

「Silent」だけは通常再生で視聴した理由は、至るところで散々書かれているように、丁寧に描かれたひとつひとつのセリフとシーンをじっくりと味わいたくなるコンテンツだったということに尽きます。ストーリーの結末よりもプロセスを重視して視聴していたということです。

 

怒涛のような展開で、その結末がどうなるのかを知りたいと思わせるドラマの場合は、結論の方に意識が向いて早送り再生で見た方がよいことになるのでしょう。

TVドラマにみる迂直の計

 

通常再生で視聴するようにプロセスを重視することが迂であり、早送り再生のように結果を重視することが直であるというわけです。

 

孫子女子勉強会のあり方

「迂直の計」を現在の知恵に読み替えると、長期視点をもち、プロセスを重視することだとわかりました。こう言ってしまえば、わざわざ「迂直の計」と言われなくてもわかりそうな話です。

 

「迂直の計」の話を聞いて、湯川秀樹博士が残した言葉を思い出しました。

「自然は曲線を創り、人間は直線を創る」

 

自然がつくった曲線と人間がつくった直線

日課の散歩で自然に囲まれた公園を歩いている時にも、湯川博士の言葉を象徴する光景に出会います。悲しいかな、人間は直線をつくってしまう生き物であるからして、「迂直の計」という教えが出てくるのでしょう。

 

実はこの日の田中先生の話は、迂直の計にとどまりませんでした。この日の話に出たキーワードにはこんなものがありました。

サンタクロース、幽霊、未来予測、OODA、迂直の計、区切り、遍歴職人、機動戦

 

そうです、田中先生の話題はいつも曲線的に展開するのです。

 

勉強会で基本的に扱うテーマは、会の名の通りに「孫子の兵法」です。2500年たっても色褪せない長期視点の考え方を学ぶ場です。

 

この勉強会の特徴は、何といっても勉強会の時間そのものを楽しむことです。ここで何か役に立つことを得ようなどと結果を求めている人は誰一人いません。

 

孫子女子勉強会のあり方をまとめると、こうなります。

・田中先生の話題は曲線的に展開(回り道)

・扱うテーマは「孫子の兵法」(長期視点)

・勉強会の時間そのものを楽しむ(プロセス重視)

 

なんと、孫子女子勉強会のあり方は「迂直の計」そのものではありませんか。10年続く勉強会の秘訣が「迂直の計」にあったとは!孫子女子勉強会の奥深さよ。

 

2023年も、学ぶ時間の楽しさを味わうために、勉強会に参加し続けようと自分に誓ったことは言うまでもありません。