続・勇気の世界史 Day1

新刊発売を記念して開催された続・勇気の世界史 Day1のタイトルは「おいしいイタリア」。今回は「勇気の世界史」の面白さに迫ってみました。

 

 

新刊発売を祝して

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 春のStayHome期間中の楽しみだった「勇気の世界史」連続セミナーのアンコール講演終了からわずか2ヶ月後の7月30日に、田中先生の新刊「名画で学ぶ経済の世界史」が発売になりました。この新刊誕生のきっかけになったのがオンラインセミナー「勇気の世界史」であり、新刊の内容も田中先生が「勇気の世界史」で話した内容がベースになっています。

 

 今回の「続・勇気の世界史」は、新刊発売の感謝をこめて開催されました。そういうわけですから、もちろんお話は新刊の話題から始まります。

 

「絵については素人なんですが、その分、素人として感動し、新鮮な気持ちで書くことができました。

 

読者の方から一気読みしましたと言っていただきますが、読みやすさを追求したんです。勇気の世界史セミナーをやった時の雰囲気そのままに講義しているように書きました。かなり読みやすいと思いますが、書き手としては苦労しました」

 

 私はどうかって?もちろん私も田中先生の新刊を一気読みしました。小説ならば続きが気になって一気読みすることがありますが、「名画で学ぶ経済の世界史」は各章独立です。なのですが、スーっと滑らかに読み進められて、気づいたら最後の269ページにたどりついていました。それは、田中先生が苦労した工夫のおかげだったんですね。

 

 7月末に新刊が出たばかりだというのに、9月2日には田中先生の次の新刊が出ます。今度の新刊は東京画廊の山本代表との対談本。対談相手の山本さんは70歳を過ぎていらっしゃいますが、田中先生がかくありたいと思う先輩だそうです。なぜかというと、それはいい具合に気配が消えているからだとか。気配を消すというのは、存在感がないことではなく、若い人に場を譲りながら周りをもりたてることだと田中先生は言います。

 

 気配を消す。うーん、わかったようなわからないような。「気配を消す」という言葉だけはしっかり印象づけられて、いよいよ絵画の話へと展開していきます。

 

新刊本に入り切らなかったカラヴァッジョ

 新刊本に入りきらなかった画家カラヴァッジョが、この日のメインテーマとしてとりあげられました。

 

「カラヴァッジョは狂気の塊のような人で、本名はミケランジェロ・メリージと言います。カラヴァッジョというのは彼が生まれた地名で、ミラノから電車で30~40分離れた場所にあります。著名な画家なんですけど、カラヴァッジョの町にはカラヴァッジョの気配がないんですね」

 

 私はカラヴァッジョのことはほとんど知らなかったのですが、この「気配がない」の一言で、さきほど印象づけられた「気配を消す」と結びついて、一気に関心が高まります。こういうところが田中先生の話の巧みさです。

 

 ここからカラヴァッジョの生涯が1枚のスライドを提示しながら紹介されます。

 

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 スライド1枚に要約されたカラヴァッジョの生涯が、田中先生にかかると生き生きとしたストーリーとして展開しはじめます。

 

①人生の始まり

 カラヴァッジョが6才の頃、イタリアにペストが流行し、父と祖父はペストで亡くなりました。

 

②故郷の隣町のミラノで画家修業

 カラヴァッジョが13才の頃、故郷の隣町のミラノで画家修業を始めます。飲んで暴れて、博打にもはまります。ミラノで母親も亡くしました。

 

③芸術の本場ローマに出る

 カラヴァッジョはミラノを出て芸術の本場のローマに出ます。

 

 ここで、カラヴァッジョの描いた絵を紹介しながら、絵については素人と言った田中先生の絵画解説が始まります。

 

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「カラヴァッジョは果物の絵をたくさん描いています。見てください。このぶどうのつや加減を。私の想像なんですが、果物を食べたいという欲望からカラヴァッジョは果物の絵を描いたんじゃないかと思うんです。当時のローマ絵画は人物画が中心だったんです。果物を描くというのは掟やぶりなんです」

 

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「繊細な描写はフランドル的です。『果物籠を持つ少年』の背景の影を見てください。左から斜めにさす光は、後の画家に大きく影響を与えました」

 

「カラヴァッジョの絵にはデッサンが残ってないんですね。あらかじめ描いた下絵の通りに描いていくフレスコ画は描きませんでした。キャンバスに下絵なしで本物をズバリ描いていったんです」

 

 「えっ、これだけ絵画について語れても素人?」と、思わず心の中でツッコミをいれたのはここだけの話です。

 

④殺人を犯してナポリシチリアへ逃走

 田中先生は、カラヴァッジョの画家としての才能について玄人はだしに語った後、今度はまるで自分の目で見てきたかのようにその奔放な私生活について語ります。

 

「カラヴァッジョは、絵が売れる、お金が儲かる、荒れる、を繰り返した人です。何にでも怒る人で、ある時、4対4の決闘をして、相手の一人を殺してしまったんです。カラヴァッジョを見つけたら殺してもいいという処刑令まで出たくらいです。

 

それで、ローマにはいられなくなり、雑然とした町ナポリに逃げました。そこでもトラブルをおこして、今度はシチリアに逃げました」

 

 ここまでは史実にもとづいた語りですが、田中先生の本領が発揮されるのはここからです。

 

「カラヴァッジョはおそらく逃走資金を稼ぐために絵を描いていたんじゃないかと思うんです。それがどういう気持か想像してみてください

  

「色々と恨みをかっていたカラヴァッジョは寝る時も剣を離さなかったそうです。想像してみてください。片時も剣を離さず、剣と一緒に眠る気持ちを。精神に異常をきたしますよね」

 

 私達は画家というと、ついその天賦の才能や描かれた作品に目を奪われがちです。田中先生は、おかれた状況での画家の気持ちに想像の翼を広げて、一人の人間としての生き方に目を向けるように誘ってくれるのです。

 

⑤ローマに戻る途中で病死(享年38才)

 殺人の罪で追われていたカラヴァッジョですが、ローマで恩赦嘆願運動がおこり、ローマに戻れることになりました。ところが、結局はローマに戻ることは叶わぬままにこの世を去りました。

 

 カラヴァッジョの劇的な生涯を語り終えた後、田中先生は言いました。

「後世の画家に大きな影響を与えたカラヴァッジョの生涯を知ると、従来の枠にはまらなくてもいいと思えますよね。元気出ました?」

 

なぜピザがアメリ国民食になったか?

 カラヴァッジョの生涯に続いては、ペストから始まるピザの歴史のお話です。

 

 14世紀に流行したペストはヨーロッパのワインにも危機をもたらしました。感染者が次々と亡くなり、ぶどうを摘む働き手が減少し、農耕が続けられなったのです。農民は農耕のかわりに放牧地で牛を飼い、絞った牛乳でチーズをつくるようになりました。

 

 効率化がお得意のイギリスではチェダーチーズの大量生産が行われるようになりました。ピルグリム・ファーザーズが牛を引き連れてイギリスからアメリカに渡ったことで、チーズとピザもアメリカに上陸しました。

 

 アメリカ人は冷凍ピザや宅配ピザという新しいビジネスを始めます。こうしてピザはアメリカの国民食になったのです。

 

「美味しい食べ物は南ヨーロッパで始まり、ヨーロッパ北部で効率生産され、アメリカに渡ってビジネスとして花開くのです」

と、田中先生の話は締めくくられました。

 

ナビコさんのクスクス開発物語

 「勇気の世界史」ではすっかりおなじみになった岩ちゃんこと岩倉さんの生演奏つきの休憩をはさんだ後は、今回のゲストである沖縄でイタリア料理店toricoを営むナビコさんにバトンが渡ります。

 

 沖縄ではコロナ禍の影響が勢いを増し、8月1日から緊急事態宣言が出されています。ナビコさんのお店もその影響を受けて、テイクアウトと通販を始めたそうです。ピザはテイクアウトOKだけど、パスタは美味しい状態でテイクアウトできないのでNG。

 

 そこで、新たにテイクアウトできるものはないかと考えてメニュー開発したのがクスクスです。まずは、本を読んでクスクスについて調べたところ、土地によってクスクスも様々であることがわかったそうです。それらを知った上で、ナビコさんのお店でも複数種類のクスクスを用意したそうです。

 

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 歴史や世界に目を向けて学び、目の前の課題に向き合うことを「勇気の世界史」で学んだナビコさん。大変なことが山のようにあるであろう中で、とても明るく元気に話してくれました。その笑顔に私達が勇気づけられたことは言うまでもありません。

 

「勇気の世界史」の面白さ

 久しぶりの「勇気の世界史」でしたが、やっぱり面白くて90分があっという間に過ぎました。一体何が面白いのか、今回ようやくわかった気がします。

 

 「カラヴァッジョ」、「ピザの歴史」、「ナビコさんのクスクス」という一見まるで関係のないものたちが、それぞれの背景に目を向けると、イタリア画家カラヴァッジョのおいしそうな果物の描写、イタリア生まれのピザ、イタリア料理店のナビコさん、と、「おいしいイタリア」というキーワードでつながります。

 

 おそらくは、新刊に入り切らなかったカラヴァッジョの話をすることがはじめに決まり、イタリア料理つながりでナビコさんのゲストが決まり、カラヴァッジョからナビコさんの話へつなぐものとして、ペストに始まるピザの話をすることが決まったのだと思います。話の展開もゲストも、意味のある繋がりとしての必然だったのです。

 

 「勇気の世界史」の面白さは、こうした必然のつながりが仕組まれたストーリー展開にあります。滑らかにつながって話が展開されるがゆえに、90分を長いと感じることなく話に耳を傾けられるのです。

 

 「名画で学ぶ経済の世界史」が一気読みできたのは、語り口調で書かれていたからだけではなく、「勇気の世界史」同様に話の展開が滑らかだったからです。

 

 ようやくわかりました。「勇気の世界史」や「名画で学ぶ経済の世界史」が面白いのは、田中先生がストーリーテラーだからです。このことに気づけたのは、私もコンテンツ制作をお手伝いしている「バーまなび」と共通的な面白さがあるからです。

 

 バーまなびは、ゲストが自分の「好き」について板谷ママと語り、そのトークに合うお酒をバーテンダーの田中先生が選んでくれる展開になっています。

 

 私もゲストとして参加した時には、どんなお酒を選んでくれるんだろうとワクワクしたものです。でも、本当に楽しみにしていたのは、田中バーテンダーが選ぶお酒そのものではありませんでした。一見何のつながりもなさそうないゲストの話とお酒が、見事につながるストーリーが楽しみだったのです。

 

 ゲストがどんなトークを繰り広げても、トークとお酒がつながるストーリーの中にこめられたゲストへの愛あるメッセージには毎回聴き入ってしまいます。

 

 田中先生のストーリーテリングを聞きたい方は、グラスを片手に「バーまなび」に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

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