学びの面白さとは何か

2021年はじめの学びの場は9時間超えの新春オンラインセミナーでした。田中先生と仲山がくちょのコラボによる異例の長時間セミナーのおかげで、学びの面白さとは何かを言語化できました。今年1年の幸先の良いスタートがきれました。

 

 

新春長時間オンラインセミナー

田中先生と仲山がくちょの新春コラボセミナーに参加したのは、2度めの緊急自体宣言発令中の1月9日(土)のことでした。

 

セミナー開催案内を見て最初に浮かんだ言葉は、「時間を間違えてるんじゃない?」でした。なぜなら、セミナー時間が10:00~18:00になっていたからです。

 

講師が2人とはいえ、さすがに8時間はないんじゃないかと思いました。ところが、時間が訂正されることもなく、参加方法、参加費の支払い方法、参加に向けた手順のお知らせが次々になされていくのを見て、本当に長時間のセミナーなんだなと理解しました。

 

理解した後にわいてきた感情は「8時間も集中力がもつのか?」でした。場所の変化による気持ちの切り替わりがないオンラインのセミナーでは、特に、集中するのにエネルギーを要するからです。

 

このセミナーに関して参加者が事前に知ることができたのは、時間とテーマ「良い値決め悪い値決め withコロナバージョン」と講師の情報でした。プログラムは事前に公表されず、まるで演目が当日に発表される落語会のようでした。

 

自室のない私は家族と交渉して、長時間専有する場所を確保しました。お昼休み時間の情報も一切なかったので、家族とは別にお昼ごはんを食べることにしてセミナーに臨みました。

 

終わってみたら、懇親会も含めると、なんと9時間以上も集中力が全く途切れることなく参加していた自分に驚嘆しました。なぜこんなことが可能だったのかと興味が猛烈に湧き上がってきて、それを探求せずにはいられなくなりました。

 

集中できた理由は一言で言えば、面白かったからです。だとすれば、立てるべき問いは「学びの面白さとは何か」になります。

 

学びの面白さは講師の技による?

学びの面白さは講師の技によるものでしょうか。確かに、講義が上手いと思う講師がいます。今回のセミナーでも技ありと思ったことが3つありました。

 

1つ目は、例え話の絶妙さです。例え話は、概念を理解しやすくする効果的な技です。

 

田中先生が、考える前提が同じになっている例え話として出してくれたのが、P.F.ドラッカーの「マネジメント」に掲載されている3人の石切職人の話です。

 

一人の旅人が町を通りかかったとき、石を運ぶ石切り職人に出会いました。

「あなたは、何をしているのですか?」

旅人が1人目の石切職人に尋ねると、彼は「生活のために働いている」と答えました。

 

2人目の石切職人にも尋ねると、彼は「この石で壁を作っている」と答えました。

 

3人目の石切職人にも尋ねると、彼は「大聖堂を作っている」と答えました。

 

3人の石切職人はいずれも石切職人をやる前提に立っていると田中先生は指摘し、4人目の石切職人の回答を紹介しました。

 

4人目の石切職人にも尋ねると、彼は「この仕事を辞めようと思っている」と答えました。

「長年続けた仕事を辞めるなんてもったいない、あなたは変わった人だね」と旅人。

 

これに4人目はこう答えました。

「大聖堂は密だからな。もっと『ありがとう』と言われる新しい仕事を探すことにした」

 

4人目の石切職人の回答は、考える前提が変わっている事例になっているだけでなく、オチまでついている贅沢さです。

 

2つ目は、説得力抜群の経験談です。例え話が講師自身の経験談になると、話のリアリティさが増して、理解に加えて説得力も増します。

 

その人から買おうと思う理由をつくった経験談として田中先生が話してくれました。

「会計研修の提案書に『効果は◯◯円満』を加えたんです」

 

これを聞いた私達は、会計研修を田中先生に頼みたくなる気持ちをその場で味わいました。知識として知っただけでなく経験もできたのです。

 

3つ目は、端的な構造化です。仲山がくちょが、この日の重要なキーワードをそれぞれ1枚で構造的に表したスライドを提示してくれました。さらに、田中先生の話に呼応して、仲山がくちょからすぐさま対応スライドが提示されるので、理解の進むこと進むこと。

 

今回は8時間超えのZoomセミナーでしたが、ブレークアウトルームは一切使いませんでした。時折、参加者からの発言を拾う場面がありましたが、基本的には講師からインプットする形式でのセミナーで、この点に関しては参加者を飽きさせない技は一切使われていませんでした。

 

隠れた技としては、田中先生と仲山がくちょは同じマイクを使って、2人の音量と音質に差が出ない工夫をしたと聞きました。

 

講師の技を洗い出してみましたが、これで学びの面白さが十分に説明できるかと言われると疑問が残ります。

 

D講師とB講師

次に学びの面白さの可能性として考えられるのが、講師の心(=マインドセット)です。

 

セミナーの冒頭で田中先生はこう言いました。

「このセミナーで何か答えを得られることはありません。むしろ皆さんの混乱が深まるだけになると思います。ただし、どう考えればいいのか、悩むべき方向性は見えると思います。今日は皆さんに宿題を出す1日になります」

 

セミナーは4部構成になっていました。

第1部: 再構築しよう

第2部: 値決めが重要

第3部: 元をとろう

第4部: 見本となろう

 

第4部では、D人間(=欠乏を埋めたい動機で動く人)とB人間(=かくありたい動機で動く人)の話題も提供されました。一見すると、D人間とB人間が、セミナーのテーマ「良い値決め悪い値決め withコロナバージョン」とどう関係するの?と思えますが、第1部~第4部までの内容すべてがつながっていました。

 

D人間とB人間がいるなら、D講師B講師がいると言えます。その違いとなる講師のマインドセットを整理するとこうなります。

f:id:n-iwayama:20210111230803p:plain

 

D講師は「学びとは不足を埋めること」と考え、B講師は「学びとは視野を広げること」と考えます。

 

したがって、D講師は専門知識を提供し、B講師は専門知識をベースに多面的な視点を提供します。

 

こう整理してみると、受講前には想定できなかった多面的な視点こそが学びの面白さの本質だとわかります。

 

田中先生と仲山がくちょは、間違いなく、D講師ではなくB講師です。

 

D学習者とB学習者

講師の技とマインドセットに注目して学びの面白さに迫ってみましたが、学びの面白さをまだ説明しきれていません。なぜなら、学びは講師と学習者の相互作用としておこるからです。

 

D講師とB講師がいるなら、D学習者B学習者がいるはずです。こちらも講師の場合と同じく、その違いはマインドセットにあるはずで、その違いを整理するとこうなると想像できます。

f:id:n-iwayama:20210111230738p:plain

 

D学習者は「学びとは不足を埋めること」と考え、B学習者は「学びとは視野を広げること」と考えます。D学習者は「学びとは知識を与えられること」と考え、B学習者は「学びとは与えられた知識を自分で解釈すること」と考えます。

 

したがって、D学習者は提供された専門知識を吸収し、B学習者は提供された内容をベースに自分の興味分野に広げて解釈します。

 

学習者は、受講前には想定できなかった自分なりの解釈に学びの面白さを感じることになります。

 

面白く学びたいならB学習者になろう

学びは講師と学習者の相互作用ですから、D講師とB講師、D学習者とB学習者のそれぞれの組み合わせで学びを捉える必要があります。それを整理するとこうなります。

 

f:id:n-iwayama:20210111233615p:plain

 

学びの面白さは、B講師から得られる想定外の視点であり、B学習者の想定外の解釈にあります。つまり、学びの面白さとは想定外の学びにあるのです。

 

想定外の学びが得られるのは、B学習者に限られます。D講師とB講師の違いは、B学習者が得られる学びの多さに関係します。

 

面白く学びたいなら、自分がB学習者になればいいのです。面白い講師や面白い講座内容から面白い学びが得られるのではありません。講師にも講座内容にも関係なく、もちろんリアルかオンラインかにも関係なく、面白く学ぶ主導権は学習者が握っているのです。

 

新春長時間オンラインセミナーで語られた内容ももちろん面白かったですし、セミナーでは一言も語られなかった「学びの面白さとは何か」を学べたのですから、超絶に面白いセミナーでした。

 

以上、B学習者によるセミナー受講録でした。