11月の孫子女子勉強会では、思いがけず第2のウィーン事件を目撃することになりました。事件のおかげで、大切な内容が長く記憶に刻まれることになるでしょう。
心・技・体の成長カーブ
この日の勉強会で取り上げられた孫子の兵法からの一説はよく知られたこれでした。
「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」
勉強会でも何度か取り上げられたことがある一説ですが、「またあの話ね」とは決してなりません。なぜなら、同じ一説を様々な角度から論じるのがこの勉強会の特徴だからです。
今回はこの一説からの論点は「相手を知ることよりはるかに難しい自分を知ること」についてでした。さらに自分を知る観点として「心・技・体」が提示されました。
心: 心の向き
技: 何ができるか
体: 健康
「心・技・体は3つそろってはじめてエネルギーが出るんですが、3つの成長カーブは重ならないんですね」
心・技・体の観点自体はとりたてて目新しいものではありませんが、それぞれの成長カーブという時間軸の視点と、3つを全体俯瞰した成長カーブの重なりの視点がもちこまれて、ぐいぐいと話に惹き込まれていきました。
心には浮き沈みがあり、カーブは波打ちます。体は右肩下がりに衰えていきます。技は年齢に関係なくコントロールできますが、体力による制約を受けるので、自分の技をどう定義しどう成長させるかは自分次第だと田中先生は言いました。
確かに3つの成長カーブは重なりません。
心・技・体のバランス
3つの成長カーブは重ならないけれども、エネルギーは3つそろって出るものです。体の衰えには抗えませんが、心と技は年齢に無関係にコントロール可能です。だとすれば、とるべき戦略は必然的にこうなります。
「体の衰えにあわせて心と技を磨き、いかに長期戦にもちこむかが大事です」
イメージ的にはこんな感じです。
若年期は体力がありますが、技はまだまだです。心は年代に関わらず、その時々で揺れ動く幅をもっています。
中年期は体力が徐々に衰えてきますが、技は磨かれてゆきます。
老年期は体力の衰えが顕著になります。体力に依存した技は、体力の衰えとともに技も衰えます。したがって、体力の成長カーブを考慮した手を打たなかった場合は、心・技・体をあわせたエネルギーが低下してしまいます。
体力の成長カーブを見越し、自分の技を再定義し、技を成長の上昇カーブにのせることができれば、体力が低下しても心・技・体の全体エネルギーは維持できます。
- エネルギーは心・技・体の全体エネルギー
- 心・技・体の3つの成長カーブは重ならない
- 体は右肩下がりに衰える
- 心と技は自分でコントロールできる
ここから導かれることは、老年期のエネルギーが上がるも下がるも自分次第であり、「心をどう成長させるか」と「技をどう磨くか」にかかっていることになります。
心の成長
ここで、孫子の兵法からの一説の2つ目が提示されました。
これも勉強会で何度か取り上げられたもので、「主導権を握る」ことの大切さを説いたものです。
「ストレスを抱えると主導権を握れません。イライラを取り除くという自己啓発本が山のように出版されていますが、それではストレスは解消されません。
自由自在に動くとはどういうことかと考えるとですね、心が成長できない原因は自分の中にあるんです。つまり、メンタルブロックがブレーキをかけているんです」
孫子の「善く戦う者は人を致して人に致されず」から、「心の成長を阻むものはメンタルブロックだ」につながる思考の流れが田中流です。
「メンタルブロックは、自分では気づいていないものなんです。だから、私のメンタルブロックは○○○ですと言えるなら、それはメンタルブロックではありません。
ひとつヒントになるのは、『自分は何と言われるのが嫌か?』を問うことです」
自分では気づけないメンタルブロックに気づくために必要なのは自己開示できる他者の存在です。孫子女子勉強会はまさにそんな他者がいる場です。
しばらくの時間、それぞれの心・技・体の自己認識について対話を行いました。その中で出てきたのが60才メンタルブロックでした。
「60才で終了なんてないです。60才まではバサロで、60才から再点火ですよ」
田中先生の力強く説得力のある言葉に、場のエネルギーが急上昇しました。
技を磨く
技とは、どんな専門性をもっているかと言い換えられます。ここで田中先生が専門性への大いなる誤解を語ります。
「資格をもっていれば専門家だと思っている人がいるんですが、資格イコール専門性ではありません。運転免許の資格をもっている人をプロのドライバーとは思わないですよね?」
あらためて専門性とは何かと問われると、言葉に詰まることに気付かされます。田中先生は専門性をこう表現しました。
「ある人の専門性は何かというのは語れないんですね。要素分解できないものなんです。だから真似できなんです。真似できないから強いんです」
語れず、要素分解できない専門性、それが技です。抗えない体の衰えに応じてそんな技を磨く。言葉にするのは簡単ですが、実行するハードルは低くなさそうです。けれども、60才まではバサロなんですから、技を磨くためにあれこれやってみようという空気が勉強会にみなぎっていました。
田中先生、背中で技を語る?
実はこの日、勉強会有志でウィーンクリスマスマーケットのオンラインツアーに参加することになっていました。コロナの感染拡大を受けてウィーンクリスマスマーケットは中止になり、したがってオンラインツアーも中止になってしまいました。
オンラインツアー中止を受けて、田中先生が勉強会内容はウィーン特別編にしますと予告していました。私達は、ウィーンの話が聞ける勉強会の日を心待ちにしていました。ところが、田中先生が最初に提示したスライドの表紙はこうなっていました。
孫子女子勉強会にとってウィーンは特別な意味をもちます。というのも、勉強会講師の田中先生と孫子女子の象徴的存在である板谷さんの出会いが、知る人ぞ知るウィーン事件に始まっているからです。
そのウィーンの話が聞けると楽しみにしていたはずが、田中先生の諸般の事情により幻と化してしまいました。私達は期せずして第2のウィーン事件に立ち会うことになったというわけです。
予告とは違っていましたが、いつものように楽しく深い学びを終えた後、さらに驚くべきことが待ち受けていました。勉強会仲間の松本さんが作成した2020年タナカヤスヒロカレンダーの11月の言葉がこれだったのです。
勉強会内容の変更は、このカレンダーを思い出させるために仕組まれたことだとしたら。。。これが技というものなのか!
勉強会が終わった後にも楽しい妄想が膨らんだことを付け加えておきます。