「今の時代にあわせて『孫子の兵法』の1箇所だけを書き換えるとしたらどこを書き換えたいですか?」
これは、5月の孫子女子勉強会で、孫子が今の時代に生き返ったとしたら、田中先生が聞いてみたい質問として紹介されたものです。
こんな質問が紹介された5月の孫子女子勉強会のテーマは、「恵まれないとき、どう生きるか」でした。
強者と弱者
戦争やビジネスで戦う時、大きなくくりで捉えると強者と弱者に分類することができます。
大企業 と ベンチャー企業
若い時 と 体力が落ちてきた時
男性 と 女性
恵まれている時 と 恵まれていない時
強者であっても常に強者であり続けるわけではなく、一夜にして弱者の側に転じることもあります。そして、弱者に転じた不幸の原因は去らない可能性があります。
体力、思考、先立つものがないというのが弱者です。こう書いてしまうと、弱者が強者と戦って勝てるわけがないと思えます。けれども、そういう状況で何とかするとのが弱者の戦略です。
ここまで聞くと、私たちの興味関心は、弱者の戦略はいかなるものかにぐいっと引き寄せられます。しかし、田中先生の講義は、弱者の戦略とはこうですという話の進め方にはなりません。
2つの戦略
田中先生から、戦略には「消耗戦」と「機動戦」の2つの戦略があることが紹介されました。
弱者向きなのは「機動戦」です。機動戦は心理戦でもあり、根本には「孫子の兵法」があるとも付け加えられました。2つの戦略を対比して示されることで、弱者の戦略がより理解できます。
弱者向きの戦略は「機動戦」であり、付加価値向上を目指すのが良しとされます。それにも関わらず、うまくいかない時には、短期的儲け、すなわち値下げ競争に走ってしまいがちだと田中先生は警鐘を鳴らします。
ここで、この日の孫子の兵法の一節が紹介されました。
「迂を以て直となし、患を以て利となす」(迂直の計)
「迂回することが結果的に近道になることがあり、不利を有利に変えられる」の意です。
弱者の戦略的には、迂直の計を心得として、目先の利益ではなく、長期的なゴールを目指すことが必要です。機動戦の根本に「孫子の兵法」があると田中先生が言った所以はここにありました。
マニューバー
機動戦は、英語では “Manuevar warfare” と呼ばれます。Manuevarという聞き慣れない用語を田中先生はこう解説しました。
「マニューバーは、サーファーの世界では、『波の上でボードの方向を変えること』の意味です。波を待って、波に乗るのが機動戦。サーファーは足元で動く波に合わせて臨機応変に動くんですよね」
さらに、田中先生は続けました。
「かつての自分は消耗戦だったんですよね。今はマニューバー。解き放たれたようないい感じです」
この言葉を聞いて、恵まれない弱者の戦略が、自由に生きる波乗りというプラスなイメージに転換されました。私たちは、サーファーのように時代の波に乗って軽やかに動く姿を想像して、すっかり弱者の戦略に魅せられてしまいました。「患を以て利となす」とは、こういう気持ちの変化を指すのでしょうか。
この時点で、「マニューバー」が、今年の孫子女子流行語大賞のトップ候補に躍り出たことは言うまでもありません。
強者の戦略と弱者の戦略
弱者の戦略について、おおよその理解はできましたが、学んだことを自分のものにするためには、自分なりの理解に落とし込む必要があります。
その時に大きなヒントになったのが、
「今の時代にあわせて『孫子の兵法』の1箇所だけを書き換えるとしたらどこを書き換えたいですか?」
に対する田中先生の答えでした。
それは、「用間編」にあると田中先生は言いました。用間編は、情報の重要性を説いた章です。孫子の兵法では、敵の情報は、人間が直接動いてつかむことによってのみ獲得できると説かれています。
今の時代では、データ(=情報)は人を介さずともいくらでも収集する方法があります。
2500年前も今も情報が大事であることに変わりはありません。情報の収集方法や量、種類は変わりましたが。
強者の戦略(=消耗戦)と弱者の戦略(=機動戦)の違いは、動を扱うか静を扱うかの違いであると私は考えました。
強者の戦略は、静的な過去の情報を分析して計画を立てます。短期的ゴールの達成に向けて静的な計画通りに確実に実行します。人的資源が十分にあるので、分析する人と実行する人は別の人である場合も多々あります。自らの強みを磨いて、分析力や計画通りの実行力を上げるのが強者の戦略です。
弱者の戦略は、今の情報の動きを見て波を待ちます。長期的なゴールを目指して、動く波に乗ります。波を待つ人と波に乗る人は同一人物です。波を待つのに必要になるのは観察眼で、波に乗るのに必要なものは機動的に動けることです。
こう整理すると、どちらの戦略をとるかで、求められる能力は全く違うことがわかります。
恵まれないとき、どう生きるか
一瞬、強者の戦略と弱者の戦略が整理できた気になりましたが、何かしっくりこないのです。しっくりこない理由が見つかるまでにずいぶんと時間がかかってしまいました。
しっくりこない理由は、この弱者の戦略を見ても、自分で使えるレベルにまでブレイクダウンできていないことでした。特に、「波を待つ」について。
どんな波でもいいのか、波を選ぶのだとしたら何をもっていい波とわかるのかなど、頭の中でぐるぐるが渦巻いて、「波を待つ」だけでは、自分の納得感が得られませんでした。
日課の散歩をしながら、「波を待つ」の混沌に対する答えを探す日々が続きました。そして、ようやく納得解にたどりつきました。
「波を待つ」は、自分と調和する波を待って、その波を選択することです。自分に不釣り合いな波には乗れません。自分と調和する波であるからこそ、波に乗れるのです。
自分と調和する波をいかにして選択するかの鍵は、情報だけではなく、長期的ゴール達成に向けた自分的KPIにあります。自分的KPIは、自分なりに意思決定する判断軸のことです。これは、2020年9月の孫子女子勉強会で学んだ孫子女子的KPIと同じものです。
恵まれないとき、どう生きるか?
私の答えは、
「長期的ゴールと自分的KPIをもとに、自分と調和する波を待つ」
です。
今が恵まれなくても、今にあわてず、おろおろせず、波を待つ気持ちの余裕をもつために、長期的ゴールと自分的KPIを常日頃から意識しておくことが大切です。
8ヶ月前の孫子女子勉強会で学んだことがつながって、「波を待つ」の混沌から抜け出すことができました。孫子女子勉強会は学び続けてこそ価値があるのです。
これからも学び続けるぞー!と力まなくても、孫子女子勉強会は面白いから学び続けてしまいます。学び続けることを阻む唯一の壁は健康を害することです。ですから、健康維持を目指して、これからも日課の散歩を続けるぞー!