目に見えない背景を見抜く技術

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10月の孫子女子勉強会のテーマは「五感を磨く方法について」。コロナになってデジタル化が進んだ今こそ五感で感じることが大事であると設定されたテーマでした。心惹かれる回だったにも関わらず、なかなかブログが書けませんでした。

 

 

テーマは「五感を磨く方法について」

 五感を磨くをテーマに田中先生から語られることは、巷でよく聞くように、これこれこういう体験をしましょうという話であろうはずがありません。五感とは一見無関係に思える孫子の兵法が前提とするものに始まり、いつものように流れるように次々と話題が移りながら進んでゆき、最後にはちゃんとテーマに着地します。

 

 今回の勉強会の中で私が一番強く惹かれたのは、目に見えない背景を見抜く技術についてです。もともと、何かを見たり聞いたりすると、その裏側にあるものを知りたい欲がわきあがってきます。ですから、「目に見えない背景を見抜く技術」という言葉は、文字で言えばそこだけ太字になったように、音声で言えばそこだけ音量が上がったように、くっきりと浮かび上がって飛び込んできました。

 

 「目に見えない背景を見抜く技術はどうやって身につくかですが、うんぬんかんぬん」などと、ノウハウちっくなことが語られるような野暮なことは孫子女子勉強会ではおこりません。けれども、この勉強会で学ぶ中でその手がかりを見つけることはできます。だから私はこの勉強会が大好きなんです。

 

孫子の兵法と論語

 「孫子の兵法は2500年前に書かれたもので、最古の戦略古典と言われているんですがね、戦いにいかに勝つかについて書かれたものなんです」

 

 こう話し始めた田中先生の言葉を聞いて、もう7年も前から孫子女子勉強会に参加している私は、「うん、知ってる」とうなづきました。

 

 「つまりね、一歩先には死がある前提の話なんですよ

 

 田中先生はこう続けました。孫子の兵法は何かを知ってるつもりでしたが、その前提についてはっきり認識していなかったことにハッとさせられました。

 

 「同じくらいの時期の中国古典の論語は、死なない前提の話なんですね。平和な時の道徳や正論を説いているんです」

 

 孫子の兵法と論語をその前提の違いに目を向けてみると、同じく古典から学ぶといっても学べることが違ってきます。「なるほど、そういう風にものごとを捉えればいいのか!」と、この日は勉強会が始まったばかりの時点で膝をうちました。

 

今と2500年前

 「孫子の兵法が書かれた2500年前と今の違いを考えてみるとですね、技術、つまり兵器があるかないかなんですよ」

 

 今度は、孫子の兵法が書かれた時代と今という時代の違いに目が向けられます。

 

 「2500年前は人と馬だけしかなかったんですね。そうすると、自然を味方につけるしかないんですね」

 

 なるほどー。技術(兵器)がない前提で、相手より優位に立つには何を使うかを考えるわけかと、ここで再び膝をうちます。

 

位置エネルギーと天候

 「味方につけるのは天候や位置エネルギーなんですね。孫子の兵法には地理的記述が多いんですよ。なんでかなあと思ってたんですけど、天候は選べないんですね

 

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 いつもより多めに引用された孫子の兵法の一説が書かれたこのスライドを提示しながら田中先生は続けます。

「鳥や獣や土埃の状況を知って、そこから敵の動きを推測せよということなんですね。情報という言葉は敵情の報知を縮めたものと言われていて、相手のことをよく読むことが大事なんですね」

 

 選べることと選べないことを区別する考え方に、またしてもなるほどーです。それにしても、孫子の兵法を読んで、地理的記述が多いことに気づき、そこから天候が選べないからだと結論づけられる田中先生のような思考方法を身につけたいものです。

 

五感を磨くことと五感を損なうこと

 すっかり孫子の兵法のことで頭がいっぱいになっていたところで、今回のテーマの「五感を磨く」につながってゆきます。

 

 「読み取り力が大事なわけですが、それには五感をフル活用して情報を得なければならないんですね。お客さんや時代の空気、競合のことを知るのに、本を読んだり人から教わったりするのでは遅いんです。それでは2周遅れになります。耳をすまして変化の音を聞く。みんなの向かう足音を聞く。そのために感覚を磨かなければなりません

 

 10月の勉強会から2週間経った今でも、田中先生の言葉が脳内再生されるほどに深く残っています。

 

 「相手をよく見ることが基本なんですが、観察するには技術がいるんですね。目に見えない背景を見抜く力が必要なんです

 

 ここで私が注目した「目に見えない背景を見抜く力」が出てきますが、それ自体を深く掘り下げることなく話は流れてゆきました。

 

 「五感を磨くコツというのはなかなかわからないんですが、五感を損ない創造性を失うコツはわかるんですね」 

と、提示されたのがこのスライドです。

 

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 具体的でわかりやすいものは、遊びの部分がありません。わかりやすさを求めてあまりにも分析的になりすぎると、味わうことがなくなると言います。

 

 考えたことを言葉にすることを生業としている田中先生ですが、言葉にならない感情こそが武器になると力説します。すべてを言語化しようとすることは危険であり、言葉にした瞬間に言葉にならなかったものがこぼれ落ちてしまうという話には大きくうなづきました。誰もが同じようにうなづいていたと思います。

 

 そして、最後に、iPhoneiPodに頼りすぎると、街の音が聞こえなくなると警鐘をならします。

 

 「外に目を向けよう。風の匂いをかごう。耳をすまそう」

 

 最後に歌詞のような言葉で私達に呼びかけて、田中先生の話は終わりました。

 

背景を見抜くための対比と前提

 膝をうったり、うなづくことしきりの勉強会でした。田中先生は背景を見抜く技術について明には語りませんでしたが、後から振り返って田中先生の思考をトレースしてみると、背景を見抜くための技術が見えてきました。

   

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 「孫子の兵法と論語」、「今と2500年前」、「位置エネルギーと天候」はすべて、ある対象を何かと対比して捉えようとしています。さらに、ある対象の前提になっているものが何かを考えています。対比と前提。ここに対象の背景にあるものを見抜く技術がありそうです。

 

 対比と前提という考え方を応用すると、感性を損なうコツとして挙げられた3つから、感性を磨く方法もわかりそうです。

 

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 感性を損なうコツの前提は、「わかりやすさを求める」と「技術に頼る」です。だとすれば、感性を磨くコツの前提はその逆で、「わかりやすさを求めない」と「技術に頼らない」になります。ここまでわかれば、感性を磨くコツが具体的に何かわからなくても、感性を磨くコツの前提に従うかどうかを考えれば、その考え方や行為が感性を磨くものかどうかを判断できます。

 

 この回の勉強会はことさらに心に惹かれる回だったにも関わらず、何に惹かれているのかがわからないままに時間が過ぎてゆきました。いつものように勉強会後に振り返りをしても、勉強会ブログが書けずに悶々として、言葉にならない感情だけが渦巻く日々を過ごしました。

 

 コロナ禍になってから日課にしている散歩をしながら、風の匂いをかぎ、落ち葉が散る音に耳を傾けているうちに少しずつ整理がされてきて、ようやくブログが書けました。

 

 心惹かれる回だったにも関わらずブログが書けなかったのではなく、心惹かれる回だったからこそ書けなかったのだと思います。