孫子女子的ゴールベース思考

2020年9月の勉強会は、地方銀行を対象にコンサルティングを行っている高橋昌裕さんをゲスト講師に招いての勉強会でした。珍しく孫子の兵法の一説が紹介されない勉強会になったことには理由がありました。

 

 

孫子の兵法に書かれていないこと

 勉強会が始まると、田中先生からゲスト講師である高橋さんの紹介を含めたお話がありました。高橋さんは、銀行員向けのマニアックな著書にも関わらず、八重洲ブックセンターの週間ベストセラー1位になった『「ゴールベース」法人取引』の著者でもあります。

 

 田中先生は、戦争におけるゴール設定の重要性は増していると言います。戦争におけるゴール設定とは、言い換えれば「勝利とは何か?」を決めることです。戦争での戦い方のバイブルともいえる「孫子の兵法」に勝利とは何かについては書かれていません。なせなら、孫子の兵法が書かれた2500年前には、戦いに勝つことがゴールだったからです。

 

 けれども、今の時代は、核の脅威が前提にあり、自国の勝利よりも地球の維持を考えた勝ち方が重要になります。2500年前は戦いに勝つことがゴールでしたが、今は戦争におけるゴールとは何かをまず考えなければなりません。

 

 孫子の兵法に書かれていないゴール(=勝利とは何か?)がテーマでしたから、今回は田中先生から孫子の兵法の一説が引用されることなく、ゲスト講師の高橋さんにバトンが渡りました。

 

 孫子の兵法に書かれていないテーマと割り切ってゲスト講師の話が始まるのではなく、孫子の兵法になぜ書かれていないテーマかの解説をするところが田中先生の心憎い演出です。

 

ゴールベース思考

 高橋さんのお話はご自身の趣味の自己紹介から始まりました。輝かしい経歴の紹介の前に趣味の紹介があったことで、銀行向けのコンサルタントと身構えることなくお話が聞けたことは言うまでもありません。

 

 「『ゴールベース』法人取引」の本を書きませんかと言われた時、高橋さんにとってはゴールベース思考は3ページもあればこと足りる当たり前のこと過ぎて書けませんと一度はお断りしたそうです。

 

 実際には当たり前のことができていないことが多く、目先のことばかりに目を向けている人が多いと高橋さんは警鐘を鳴らします。特に、今のような危機の時は下を向きがちであり、目先にとらわれがちになるので、こんな時こそゴールを描こうと、孫子女子勉強会でもゴールベース思考について紹介してくれました。

 

 ゴールベース思考とは、一言で言ってしまえば、ゴールを描きましょうということです。ゴールを描くことの大切さを高橋さんはこう説明しました。

「富士山の頂上にたどりつきたいのなら、富士山に登るというゴールを決めなければなりません。歩いていたらいつの間にか富士山の頂上についていたなんてことはありません」

 

 気がついたら思いもつかないところにたどり着いていたということはありますが、それが富士山に例えられるようなたどりつくハードルが高い場所であることはありません。ゴールは自分の想像を超えて遠くに行くために必要なものなのでしょう。

 

 さらに、ゴールベースの3つの要件はこうです。

1.ゴール(ありたい姿)を描く

2.達成の仕方を考える

3.成否を測れるようにする

 

 どこかで見た記憶のある3つです。目標を決め、目標達成の方法を考え、目標達成のKPIを決める。そうです、目標管理制度にそっくりです。

 

 ゴールベース思考を図解するとこうなります。現在地から決めたゴールに向かって直線的に進もうとし、時々に振り返ってどこまでゴールにどこまで近づいたかを測るイメージです。

 

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         ゴールベース思考のイメージ

 

 高橋さんはゴールベース思考の本質を理解するために、こんな図を提示してくれました。

 

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 ゴールはココロでつくるもので、それを達成するのがカラダというわけです。アタマではなくココロとなっているところにおおいに共感します。

 

 高橋さんはこの図をもとに、ゴールベースの3つの要件についてさらにこんな説明をしてくれました。

ゴールを考えるときには何を大事にしたいのかを考える

・ゴールに大義があれば人に応援してもらえる

ビジネスゴールはゴールではない

・達成の仕方を考える時には、ココロとカラダをつなげて考える

 

 この説明を聞くと、短期で設定する目標管理制度の目標とゴールは似て非なるものだと理解できます。

 

当たり前を問い直す

 孫子女子勉強会らしさが発揮されるのはここからです。高橋さんのお話を受けて、田中先生が補足的な解説をしてくれます。孫子女子仲間が自分の感じたこと、自分の経験に照らした解釈などを話してくれます。高橋さんの話にそれらのインプットがかけあわさって、当たり前に思えたことの問い直しがおこりました

 

「先が読める将来が嫌いで転職した」

「幸せのイメージとして自分の時間の使い方をイメージしていた」

「女性の方がふわっとしたビジュアルを描くのが得意な気がする」

 これらのインプットから、ゴールとは何かの問い直しがおこりました。ゴールベース思考を図的にイメージした時には、ゴールは具体的な点のイメージでしたが、もっとあいまいでふわっとしたものでいいんじゃないかと思えてきます。

 

 高橋さんが「自分は不確実な方を選ぶ」と言ったのを聞いて、ゴール達成の仕方への問い直しがおこりました。ゴール達成への道筋はあらかじめ決められるものと思っていましたが、分岐点で意思決定しながら近づいていくものかもしれないと気づきました。

 

 高橋さんの「数字目標を達成しても幸せになっていない場合がある」という言葉を聞いた時、成否を測ることについて、はっと気づかされました。測る=数値化指標という囚われがあったのではと、KPIに対する問い直しがおこりました。KPIを数値化指標に限定して考えると、測れないけれど大切にしたいことがこぼれ落ちてしまって、ゴールにつながらないことに気づきました。

 

孫子女子的ゴールベース思考

 当たり前を問い直して、ゴールベースの3つの要件を孫子女子的に言い換えてみました。

1.自分の幸せのイメージを描く

2.意思決定時に幸せのイメージを思い出す

3.自分の判断軸をもつ

 

 孫子女子的ゴールベース思考のイメージはこうなります。

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      孫子女子的ゴールベース思考のイメージ

 ゴールははっきりしたものでなくても幸せの方向がわかればいいと思います。あらかじめ達成の仕方を考えなくても、分岐点にさしかかったときに幸せのイメージを思い出し、幸せのイメージに近づくための自分の判断軸にそって判断していけばいいと思います。そうすれば、幸せのイメージであるゴールに近づいていけるはずです。

 

 私がKPI=数値化指標に囚われていたことの気づきを話した時、田中先生が「孫子女子的KPIをつくりましょう」と言いました。孫子女子的KPIとは自分の判断軸のことです。例えば、「心地よいと思う」だったり、「面白いと思う」だったり、「意味を感じる」だったり、数字のように明確ではないけれども意思決定の判断軸になるものじゃないかと思います。もっと言うと、自分の判断軸とは美意識だとも言えます。

 

 高橋さんのお話を他ならぬ孫子女子勉強会で聞けて良かったと思います。孫子女子勉強会でなかったら、当たり前を問い直すこともなく、その結果として孫子女子的ゴールベース思考という発想にたどりつくこともできなかったと思いますから。