不機嫌になる人、ご機嫌でいる人

9月の孫子女子勉強会は、健康への意識を向ける宣言でもあった緊急事態宣言が解除される前夜の2021年9月30日に開催されました。この日の勉強会は、貝原益軒83才の時の著作「養生訓」から、健康で長生きするための秘訣を学びました。

 

 

健康の秘訣はご機嫌でいること

「養生訓」には、健康長寿であるための身体の養生だけでなく、心の養生についても書かれています。

 

勉強会では、田中先生から、心の養生にフォーカスした3つのポイントが提示されました。

  1. 乱されるな
  2. 悪い要素をさけよ
  3. 暇だと心を病む

 

3つのポイントについての簡単な解説がなされた後、田中先生にしては極めて珍しい発言が続きました。

いきなりの結論なんですけどね、一言で言うと、健康の秘訣はご機嫌でいることなんです。

もちろん不機嫌になることはありますが、それを人に見せたらダメなんです。

 

田中先生が話し終えた時、それぞれの脳裏には、機嫌にまつわるエピソードが渦巻いたに違いありません。

 

そこから先は、「機嫌」をキーワードに、勉強会参加者が機嫌にまつわるエピソードを紹介しあいました。田中先生のいきなりの結論で終わらず、そこから本格的な学びの時間が始まるのが孫子女子勉強会です。

 

機嫌にまつわるエピソード

セミナー講師を多数されている田中先生からは、こんなエピソードが紹介されました。

「俺はほんとはこんなセミナーに出たくなかった」

セミナー参加者の中には、こう公言して、あからさまに不機嫌をさらけ出す人がいるんですね。

不機嫌は伝播するんです。ですから、不機嫌の破壊力はあなどれません

 

こんなエピソードも紹介されました。

私の部署に新しい人が来ることになって、

「今度新しく入ってくる人は能力のある人ですよ」

と言われたのね。

私は、

能力のある人より、明るい人に来てほしいわ

と言ったの。明るいって大事じゃない?

 

機嫌とパフォーマンスのご機嫌な関係

紹介されたエピソードから、機嫌とパフォーマンスの関係が浮かび上がってきました。

 

まず、個人の機嫌とパフォーマンスについて考えてみます。私達は、高いスキルがあればパフォーマンスが高いと思いがちです。この日の勉強会で、パフォーマンスを左右する「機嫌」の重要性を見落としていることに気づきました。

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個人の機嫌とパフォーマンスの関係

 

パフォーマンスは、機嫌とスキルの掛け算で決まります。10のスキルを持っていたとして、その人がご機嫌で、機嫌を示す値が10であれば、100のパフォーマンスが出せます。

 

その人が不機嫌になって、機嫌を示す値が1まで下がったとすると、パフォーマンスは10になってしまいます。ご機嫌であれば、100のパフォーマンスを出せる人が不機嫌になることによって、パフォーマンスは10%まで落ち込んでしまうことがあり得るのです。

 

次に、集団での機嫌とパフォーマンスについて考えます。

 

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集団での機嫌とパフォーマンスの関係

10のスキルをもった人が5人いて、全員がご機嫌で、機嫌を示す値が10であれば、その集団のパフォーマンスは、10105=500になります。

 

5人のうち、1人が不機嫌になった場合は、不機嫌になった一人のパフォーマンスは10に落ち込みます。そうすると、はたして集団のパフォーマンスは10104+10=410になるでしょうか?

 

田中先生のエピソードを思い出してください。自分の周囲に不機嫌な人がいる時の気持ちを思い出してみてください。不機嫌は伝播するんです。

 

不機嫌な人の周囲にいる人の機嫌を示す値は大きく下がります。例えば、周囲にいる人の値が3まで下がったとしたら、その人のパフォーマンスは30になります。そうすると、集団のパフォーマンスは304+10=130になります。

 

1人が不機嫌になることによって、集団のパフォーマンスは26%にまで落ち込む計算になります。組織に所属している人なら、集団のパフォーマンスが約1/4になるインパクトがどれほどのものかは想像に難くないでしょう。これが、不機嫌の破壊力です。

 

集団での機嫌とパフォーマンスについて、さらに考察を進めます。

 

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集団での機嫌とパフォーマンスの関係その2

普通のスキルをもった人、つまりスキルレベルが5の人の集団の場合を考えます。全員がご機嫌で、機嫌を示す値が10であれば、その集団のパフォーマンスは、5105=250になります。

 

スキルレベルが10の5人の集団で、そのうちの1人が不機嫌になった場合と比べてみます。普通のスキルでご機嫌な集団より、全員が高いスキルでも1人の不機嫌な人がいる集団の方がパフォーマンスは低くなることがわかります。

 

これを見れば、

「能力のある人より明るい人に来てほしいわ」

が、いかに的を射た発言かがおわかりいただけると思います。

 

田中先生のいきなりの結論で勉強会が終わっていたら、機嫌とパフォーマンスについての関係について考察を深めることはできませんでした。雑談とも思えるおしゃべりの中に、本質をあぶり出すヒントが隠れているのが孫子女子勉強会なのです。

 

不機嫌になる人、ご機嫌でいる人

不機嫌がどれほどの破壊力をもつものか、ご機嫌でいることがどれほど大事かがわかると、その違いはどこから生じるのかを知りたくなるのが人情というものです。

 

その違いを考えるヒントも勉強会のおしゃべりの中にありました。

不機嫌になる人は思い通りにならない時に人のせいにするというのは、

「◯◯さんがモチベーションをあげてくれない」

と言う人と思考パターンが同じですね。要するに、自分でハンドルが握れてないんですよね。

 

この話を聞いた時、私はクレア・ルース・ブースの言葉を思い出しました。

絶望的な状況というものはない。人が状況に対して絶望的になるだけだ。

 

そして、この言葉を思い出すと同時に、「絶望」を「不機嫌」に置き換えても成り立つとも感じました。

不機嫌になる状況というものはない。人が状況に対して不機嫌になるだけだ。

 

不機嫌になる人と、ご機嫌でいる人の違いは、この言葉で言い尽くされます。

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不機嫌になる人、ご機嫌でいる人

 

おこった状況に感情を支配される人が、不機嫌になる人です。

 

ご機嫌な人は、同じ状況に遭遇しても感情を支配されることはありません。自分にとって不利な状況に見えても、おこった状況を客観視すれば、デメリットだけではないことが見えてきます。ご機嫌な人は、おこった状況をメリットとデメリットの両面から見ます。つまり、ご機嫌な人は、智者の慮は必ず利害に雑う」を実践する人です。

 

孫子女子勉強会は、長く続いている勉強会で、なんと9年目に突入しました。これだけ長く続いている秘訣は、ズバリ勉強会がご機嫌な場であるからです。

 

勉強会仲間にふりかかる出来事はハッピーなことばかりではありません。どう考えても不機嫌になるような出来事に遭遇しても、ご機嫌でいる人になれるのは、勉強会の恩恵によるところが少なくありません。

 

安全安心な場の勉強会で、自分の身にふりかかった出来事を語ることは、その状況を客観視する手助けになります。8年もかけて「孫子の兵法」について繰り返し学んできたのですから、意識せずとも「智者の慮は必ず利害に雑う」が実践できるようになっています。

 

さらに、勉強会仲間からのご機嫌が伝播して、どんな状況にあってもご機嫌になれるです。

 

8年以上続いてきた孫子女子勉強会は教えてくれます。不機嫌の破壊力が大きいように、ご機嫌な場の創造力もまた大きいのだと。