Maker Faire Tokyo2017で感じたメイカーの意味

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2017年8月6日、痛いほどの真夏の陽射しが降り注ぐ中、東京ビッグサイトで開催されたMaker Faire Tokyo2017に行ってきました。メイカームーブメントを肌で体感したいと思っていたところ、ものづくり特化型メディアfabcrossの越智プロデューサーにMaker Faire Tokyoの招待状をいただく幸運に恵まれ、意気揚々と出かけていきました。

 

Maker Faire Tokyoはメイカームーブメントのお祭りで、選考された今年の出展者は約450組。受付でもらったプログラムガイドは15pからなり、記載された多彩な出展内容からもメイカームーブメントの一端を感じることができました。

 

 

Maker Faireから見えてくるもの

広大な会場には数多くの来場者が行き来していて熱気を感じました。展示内容は、出展者自身がMakeしてまだ世の中に出ていないものが多く、目新しいものと沢山出会えるのが特徴です。選考を経ているので一定のクオリティが保たれていて、こういう発想もありかという視点のインプットの場としても最適でした。体験型の展示が多く、言葉や写真よりも体験する方が何倍も対象物のことがよくわかります。体験する来場者と出展者との間には頻繁にコミュニケーションが生まれていました。

  

一堂に集まった出展内容を見ると、Makeの領域が実に幅広いことに気づきます。デジタルと掛け合わせることで新しく作り出されたものが出展されていて、ファッション、手芸、フード、モビリティ、音楽など、幅広い分野にデジタルMakeの波が押し寄せていることを感じました。

 

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         ファッション×デジタル

    身体の動きに合わせてデザインが変わるTシャツ 

 

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         モビリティ×デジタル

   回転にあわせてタイヤの見え方が変わる自転車 

 

また、ロボットとVRの展示物が目立ち、それらの流れがきていることも感覚的につかむことができました。VRはスマホタブレット3Dプリンタでつくった箱にはめこんで、回転の向きにあわせて表示される内容が変わるものが多くありました。中には段ボールで枠をつくっているものもあり、今あるものを組み合せるだけで、まだまだできることがあると知りました。

 

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      スマホを段ボールに埋め込んだVR装置

この装置を向ける方向によってスマホの画面で見える映像が変わる

 

 

大人から子どもまで

小学生以下の子どもも沢山来場していました。エデュケーション&キッズゾーンがあり、子どもが参加できるワークショップやプログラミング教室も開催されていて、子どもが楽しめる要素もふんだんに盛り込まれていました。

 

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       子ども向けプログラミング教室 

 

遊園地に行くより楽しそうだなと思うと同時に、Maker Faireが夏休みの時期に開催される意味がわかった気がしました。というのも、夏休みのお決まりの宿題の工作は、親にとっても子どもにとっても頭の痛いものでしたが、Maker Faireに来ると、つくることに対するモチベーションが喚起される気がするからです。

 

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   子どもの名前入りの型を真空成形でつくっている様子 

 

子ども向けのコーナーはあるのですが、キッザニアのように子どもだけが対象ではなく、大人も子どもも対象というのがMaker Faireの意義深さです。大人と子どもが同じ空間にいて、大人が楽しんでいる姿を子どもが見ることがMakeの意味を子どもに伝える最良の方法だからです。何度も迷子のお知らせを告げる会場内放送が流れました。人ごみの中で単純にはぐれたというよりは、子どもが興味のままにドンドン進んでさまよってしまったのか、大人が夢中になっている間に子どもとはぐれてしまったのかのどちらかではないかと私は推測しました。

 

子どもの教育格差は文化資本格差によるという報告があります。文化資本格差とは、例えば美術館や博物館などに連れて行って、文化的な素養を身につける機会の有無が格差となって表れることを指します。これからますますメイカームーブメントが広がるとしたら、Maker FaireのようなMakeする楽しさを知る機会の有無が教育格差となって表れることになるかもしれないという思いが頭をよぎりました。

 

 

テクノロジーの民主化の意味

メインステージでは、いくつかのプレゼンテーションが行われていました。私は「Prototype to Product ープロダクトをつくるということ」のパネルディスカッションを聴きました。

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情報科学芸術大学院大学の小林先生から、メイカームーブメントの背景にテクノロジーの民主化があるとの説明がされました。

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これまでは何かをMakeするのに必要なハードやソフトにアクセスできる人は限られていました。会員制のものづくり工房ができたり、マイコンボードの開発ソフトウェアが無償公開されたりと、Makeするためのテクノロジーは誰に対しても門戸が開かれるようになりました。これがテクノロジーの民主化です。これによって誰もが思いついたアイデアをプロトタイプすることができる時代になりました。

 

パネルディスカッションのテーマはプロトタイプからプロダクトとして世の中に送り出すハードルをどう乗り越えるかでしたが、私はテクノロジーの民主化が意味するところに興味をひかれました。テクノロジーの民主化によって、今まではアイデアのままに埋もれてしまっていたものをカタチにして見える化できるようになりました。つまり、私たちは、イデアをアイデアのままで終わらせずにすむ自由を手に入れたとも言えるのです。

 

3人のパネラーは、それぞれのきっかけをもとにアイデアを思いつき、それをカタチにしたメイカーでした。この3人はMakeできる自由の権利を行使した人達です。今の時代でもアイデアを思いついたけれどカタチにまではしない人は沢山います。その理由はカタチにするハードルが高いからではありません。人間は自由を求めますが、自由を手に入れても、行使することに伴う覚悟をもって自由になる人と自由になることを放棄する人がいます。テクノロジーの民主化は誰もがメイカーになれることをもたらしたと同時、メイカーになる人かならない人かを浮かび上がらせる意味も持っていると思いながら、パネルディスカッションを聴いていました。

 

メイカーになるために必要な条件には学ぶこともあげられます。ハードにもソフトにもアクセスは容易になりましたが、実際にアクセスするためには、そのための基本スキルを学ばなければなりません。テクノロジーは常に進化を続けているので、それにあわせて学び続けることも必要です。学び続けることを良しとできなければメイカーになるのは難しいでしょう。

 

 

メイカーという生き方

このパネルディスカッションでは、自分のためにものづくりをするメイカーではなく、他者が使うためにものづくりをするメイカーを対象にしていました。そのため、プロトタイプからプロダクトにジャンプアップさせる視点がテーマでした。興味深かったのは、プロトタイプができたら応援してくれるコミュニティをつくるという考え方でした。

 

小林先生が注目しているメイカーは辺境にいる人という提示がありました。

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辺境にいるメイカーは、プロモーションのために人やお金を十分にかけることは難しいに違いありません。プロトタイプができてから実用化や量産化には、ものづくりの面でもさらなる壁があります。メイカーが頑張って壁を乗り越えてプロダクトとして世に送り出すのではなく、「クラウドファンディングなどのプロセスを経る過程で、応援してくれるコミュニティをつくってコミュニティと一緒にプロダクトに育てていきたい」と言ったのは、株式会社OTON GLASS代表取締役の島影さんでした。それを受けて、小林先生が、クラウドファンディングで製作にこぎつけた映画「この世界の片隅に」に言及して、「映画のシーンの中で一番感動したのがエンドロールで流れたクラウドファンディングの支援者の名前だった。あれを見て、自分も支援したかったと思った」と言いました。

 

Makeの先には使ってくれる人に届ける必要があります。Makeが完成する前段階から、届けたい人とつながれるのもテクノロジーの民主化のおかげです。ものがあふれる時代、必要不可欠なものは一通り行き渡りました。そんな中でさらに手元におきたいものがあるとしたら、誰かの手によってMakeされたものではなくて、自分もMakeの一端を担ったものかもしれません。自分が一端を担ったものであれば、周囲に語りたくなるのではないでしょうか。応援者の語りによって少しずつ認知が広がり、いつの間にか多くの人が知るところとなり、結果として多くの人に届けられるというのが今の時代のプロモーションのあり方だと思います。

 

今の時代にメイカーとして生きるためには、Makeするだけではなく、周囲を巻き込む力が必要だと言えるのではないでしょうか。辺境にいるメイカーにとっては特に。

 

 

メイカースペースの価値

メイカーの拠点であるメイカースペースの価値についても考えてみたいと思います。

 

多くのメイカーはものづくりの拠点としてメイカースペースを使っていると思います。私もTechShopというメイカースペースに行くことがあり、そこでメイカーの人達が工作機械を使って熱心にMakeしている様子を見かけます。

 

一見すると、メイカースペースは工作機械へのアクセスだけを提供しているように見えますが、実際にはメイカーに必要な学びの支援も提供しています。メイカーが参加するオンライングループは、自分が得たMakeに関する知識を共有したり、質問を投げかけたりと、メイカー同士で相互に学び合う場になっています。自分のノウハウとして独占しようという雰囲気はなく、ノウハウをオープンにすることでメイカームーブメントを盛り上げていこうという雰囲気があります。

 

工作機械へのアクセスと学びの場の提供に加えて、プロモーション支援をメイカースペースができれば、メイカーにとってのメイカースペースの価値がより上がると感じました。考えてみれば、Maker Faire Tokyo2017もメイカーのプロモーション支援の場でもありました。

 

 

メイカーの時代の到来

「メイカームーブメント」の言葉は随分前から聞いていましたが、単なる言葉の流行ではないことをMaker Faire Tokyo2017の会場に実際に足を運んで実感しました。

 

メイカーは、テクノロジーの民主化によって手に入れた自由を謳歌する生き方を選んだ人達です。自由に覚悟が伴うことは承知の上で。自由を謳歌しながら学び続けるメイカーが確実に増えていることを肌で感じました。

 

今はまだメイカーの台頭のインパクトを認識していない人もいるかも知れませんが、メイカーの時代は確実にやってくるでしょう。メイカーとして生きる人が珍しくなくなって、メイカームーブメントという言葉がなくなった時、その時の世界は今よりも面白くなっているに違いない。そう確信させてくれたMaker Faire Tokyo2017でした。