正しい健康情報を知って賢く生き抜く

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年の瀬も押し迫った2019年12月21日(土)の午後、発信する医師団主催のイベント「このプロに聞け!健やかに生き抜く方法」に参加しました。参加者は女性の方が多く、医療情報への女性の関心の高さに少しばかり驚きました。医療関係者が登壇するイベントでしたが、難しい専門用語は少なく、和気あいあいとした和やかな雰囲気のイベントでした。医師といえば病院で白衣を着て難しい専門用語を使う堅苦しい人というイメージが大きく変わりました。健康への関心が高まる中、市民が正しい医療情報を知ることの重要性は増すばかりです。テクノロジーによって誰もが情報を発信でき、情報があふれる時代。専門家も市民も変わらなければ生き延びられない時代になったのかもしれません。

 

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イベントが始まる前の中山先生とけいゆう先生

 

発信する医師リレートーク

イベントの第一部は発信する医師リレートーク「武器としての健康情報」でした。

 

「上手な病院のかかり方」外科医 山本健人先生

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 山本先生は外科医けいゆう先生のニックネームでTwitterやブログで正しい医療情報を積極的に発信し、2019年11月末には書籍「医者が教える正しい病院のかかり方」の出版もされています。この日の話題は、書籍には書けなかったという、医師からみた困る患者さんの話題が提供されました。

 

 医師の上から目線でこんな患者は困る!という話ではなく、医師の事情を知ってもらうという内容でした。患者側から見えない医師の事情を知ることは、医師と患者のコミュニケーション改善につながります。正しい情報を知らずに思い込みのレンズで医師を見ていると、医師と患者のコミュニケーション不全により信頼関係が築けず、治療がうまくいかず、結果として患者が不利益を被ることをよく理解された話題選択でした。

 

病院の待ち時間はなぜ長い?

 予約しているのになぜこんなにも待たされるのかと疑問を感じた人は多いのではないでしょうか。自分の前の患者さんの診察が終了したのに、なかなか自分が呼ばれないことを不思議に思っている人は多いのではないでしょうか。けいゆう先生はその疑問にズバリ答えてくれました。

 

 病院の外来の担当医師は、病棟に入院している患者さんを5~10人受け持っています。担当の入院患者さんの様態が急変すると、担当医師に連絡が入ります。外来診察中に連絡が入った場合は、看護師が連絡を受け、外来患者さんが診察室を出た後に医師に伝言をします。それを受けた医師は病棟看護師に指示を出すそうです。病棟看護師と電話で会話することもあるでしょうし、場合によっては病棟に直接出向くこともあるでしょう。

 

 その他にも、依頼された診断書や紹介状を書くことにも時間をとられます。診察自体が長引く原因のひとつには、患者さんの話が長いこともあるそうです。

 

 これらを知らなければ、医師の怠慢で時間がかかっているのではと思ってしまいますが、実際には医師の怠慢である場合は10%にも満たないというのが実態だそうです。

 

医師の質問に対する患者の答えがあさっての方向にいく

 高齢の患者さんによくあるケースだそうです。医学的な観点からの質問にとっさに的確に答えることは難しいものです。けれども、特に初診の際に医師から必ず聞かれる質問に「病歴、アレルギー、飲んでいる薬」があることを知っていればそれらは前もって答えを準備しておくことができると教えてくれました。

 

 一方的に患者が悪いと決めつけるわけではなく、医師が話す内容は専門的で理解するのは難しいことも十分に承知した上で、患者側にできることを提示してくれるところに、けいゆう先生が患者視点でものごとを見ようとしていることがわかります。

 

「上手なかかりつけ医の見つけ方」森田洋之先生

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 森田先生はプライマリ・ケア指導医であり、このイベントのためだけに、なんと鹿児島からはるばるお越しくださったお医者さんでした。

 

 医師と言えば、消化器外科、循環器外科、内科、小児科など、専門がわかれているスペシャリストだと私も思っていました。もちろんそのおかげで珍しい症状に対しても診断をくだせるのだと思いますが、患者側からすると、この症状の時にはどこを受診すればよいのかわからなくさせているのも専門別にわかれているがゆえです。

 

 ところが、スペシャリストではなくゼネラリストである医師がいるそうです。小児から高齢者まで、予防、治療からお看取りまで、すべての疾患を診てくれる総合診療医と呼ばれる医師がいるそうです。家庭医療専門医、プライマリ・ケア医とも呼ばれます。そんなお医者さんがどこにいるかというのは、このページから自分の住んでいる地域を指定して調べることができます。

 

 この症状は何科を受診すべきかと悩まずに、家庭医療専門医に身体のことで心配なことがあればまず相談できるかかりつけ医になってもらっていたいものです。

 

 人によっては自宅で在宅医に診てもらいながら療養したいと思う人もいるでしょう。そんな時は、「最後まで自宅で診てくれるいいお医者さん」というムックに掲載されている在宅医の一覧が参考になるそうです。

 

 医療技術の進歩だけでなく、社会の変化にあわせて医師の制度も大きく変わっていることを知りました。

 

「社会的処方とはなにか」西智弘先生

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 西先生は緩和ケア医であり、暮らしの保健室の運営を行う一般社団法人プラスケア代表理事でもあります。

 

 西先生からは、「社会的処方」という聞き慣れないアプローチについてお話がありました。社会は富裕層と貧困層の格差が広がっていると言われますが、貧困を放っておくと富裕層の健康も壊れることがデータで示されているそうです。現代社会の病ともいえる孤立に対して、孤立した人を地域社会の資源とつなげる社会的処方を行うアプローチによって、孤立から派生して生じる病気の改善効果にも期待されています。

 

 医師の診断を受けて治療することでは解決しない病が確かにあり、人とのつながりの処方に効果があることにはうなづくことしきりでした。実運用は難しい面もあると思いますが、社会的処方が社会に根付いてほしいと思います。

 

健康情報は力

健康情報は誰にとっても関わりがある重要な生活情報です。が、今回、このイベントに参加して、知らなかったことの多さに驚きました。しかもその内容は、それを知っていれば、いつか自分が必要になった時に大きな力になるであろう内容であるのにです。健康情報を知ることは力になるのです。武器としての健康情報という第一部のタイトルはまさしくでした。

 

 健康情報に関しては知ること以外にもうひとつ大事な視点があります。それは、正しい健康情報を知ることです。巷にはエセ医療情報があふれています。こと健康情報に関しては、うっかり信じてしまうと、だまされた自分が悪かったではすみません。なぜなら、命の危険にさらされることにもなりかねないからです。

 

 この日、唯一、医師ではない登壇者が日経メディカルの記者さんでした。

「健康情報の見極め方」増谷彩さん

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 新聞、雑誌、書籍、インターネットなどあらゆるメディアに嘘の健康情報があふれています。しかも嘘の健康情報は強い表現がゆえに拡散してしまう傾向があります。健康情報を信じた人が健康被害にあったとしてもメディアは責任をとってくれません。では、どうすればいいのか。各自がヘルス・リテラシーメディア・リテラシーをつける以外に方法はないと増谷さんは言います。

 

 病気で不安になっている心理につけこんで、エビデンスのない高額な健康食品や治療法を販売する不安商法は残念ながらなくならないでしょう。そんな不安商法にだまされないためには、正しい健康情報を知る必要があります。

 

 あふれる健康情報の中から正しい健康情報を一般の人が見極めるのは困難ですが、できることはあります。医学的な正しさとはエビデンスにもとづくものという基本をおさえることです。つまり、エビデンスのない治療は選ばないこと、治療を受ける際には標準治療(科学的根拠にもとづいた世界中で一番良い治療)を選ぶことです。

 

 私達は病院にかかる必要ができた時には、いい医師にかかりたいと思うものです。食べログのお医者さん版というアイデアは何人もの人が思いつくそうですが、どれもうまくいかないそうです。なぜならば、食事は利用者の主観で評価できるけれども、医師の評価すなわち治療の適切さの評価は患者の主観で決められるものではないからだそうです。こうした医療情報の特殊性を知ることもヘルス・リテラシーのひとつです。

 

正しい健康情報を知って賢く生き抜く

ITの進歩によって健康情報がたやすく手に入るようになった反面、ヘルス・リテラシーメディア・リテラシーをつけなければいけなくなりました。ヘルス・リテラシー格差が命の長さを決めることにもなりかねません。賢く生き抜くためには、高額な治療費を支払える経済力よりも、正しい健康情報を知ることの方が重要なのです。

 

 それほど重要なヘルス・リテラシーを私たちは一体どこでどうやって身につければいいのでしょうか。それに対する答えとして、発信する医師団が生まれたのだと思います。

 

 医師が発信する情報であれば正しいと信じてもよいのかと言うと、そうではないところが正しい健康情報を知ることの難しさです。

 

 今回のイベントに登壇した医師は、どの先生も誠実で信頼できると思える人達でした。しかも人間味が感じられました。それを感じたのは、イベント第二部で、聴衆がスマホから質問した内容を外科医でありベストセラー作家でもある中山祐次郎先生が拾い上げ、それに4人の登壇者が答えるパネルディスカッションを聞いた時です。

 

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   会場参加者からの質問が映し出されたスクリーン  

 

「やっている健康法は?」

米食糖質制限、よく寝る、食事を減らしておやつを増やす

 

「もし医師になっていなかったら何になっていた?」

建築家、ミュージシャン、化学者、ミュージシャン

 

「ストレス解消法は?」

お酒、対話、料理、買い物

 

死因は何がいい?」

消化器系がん、がん、大腸がん、老衰

 

 普段なかなか医師に聞くことのない質問に対する回答を聞けたのも興味深かったのですが、その回答に付随した話を聞いていると、その人の背景や人間味が垣間見えます。そして、この医師たちが発信する内容なら信頼できると思えたのです。

 

 治療の適切さは医学的な専門知識がなければ判断できませんが、信じられる人かどうかは専門知識がなくても判断できます。プロが発信する情報を信じればよいのではなく、この人ならというプロが発信する情報に耳を傾けることが正しい健康情報を知る方法のひとつでしょう。今回のイベントのタイトル「このプロに聞け!健やかに生き抜く方法」には深い意味がこめられていたことに、今、気づきました。