2022年10月の孫子女子勉強会のテーマは「啐啄同時」でした。この意味するところを自分なり咀嚼できたのは、銀座ライオンでの経験からでした。
久しぶりの会場参加
コロナ禍になる前の孫子女子勉強会は、貸し会議室に集まり、遠地からの参加者とはZoomでつなぐ形で開催していました。それぞれの事情で会場に行けない関東圏在住者は泣く泣く参加をあきらめていました。
コロナ禍後は、全員オンライン参加の形に切り替わりました。私は在宅勤務になったため、勉強会のある日は、勉強会への移動時間はゼロ、仕事のPCを閉じたら個人のPCでZoomを立ち上げて勉強会に参加していました。かれこれ2年半程この状況が続いたため、自宅からZoomで勉強会に参加するスタイルにすっかり馴染んでいました。
ワクチン接種も進み、少し落ち着きも取り戻してきたということで、2022年9月の勉強会から会場開催が再開されました。9月の日程は期末の時期と重なっていたため、私は相変わらずZoomで参加しました。
10月の勉強会参加に関しても、Zoom参加でもいいかなという思いが一瞬頭をよぎりました。在宅勤務を終えてから、勉強会のためにわざわざ出かけることへの躊躇いを感じたからです。けれども、このチャンスを逃す手はないと思い直して、会場参加を宣言しました。
あまりにも久しぶりの会場参加で、何が必要だったかなと思い出すのに時間がかかりました。ああ、そうだったと真っ先に思い出したのが、みんなで食べるお菓子のことでした。何を買っていこうかなとあれこれ思いをめぐらす時間もなかなかに楽しいものでした。
ぬかりなくお菓子を購入してカバンに入れ、時間がきたら業務用のPCをシャットダウンして、足取り軽く会場に向かいました。
会場に着いて、はたと気づきました。筆記用具を持ってくるのを忘れたことに。ブログネタの記録に筆記用具は必須だったにも関わらず、2年半のブランクで会場参加の段取りがすっかり意識から抜け落ちていました。ああ、なんたる失態。
そんな私を見て、勉強会仲間がペンと用紙を貸してくれました。おかげで、勉強会のメモをとることができ、今回もブログを書くことができました。
啐啄同時
この日の勉強会はレジュメもスライドもなく、「啐啄同時」をテーマに発散的に語る形式で進みました。
「啐(そつ)」は、卵から生まれようとするヒナが中から殻をつつく音
「啄(たく)」は、親鳥が外から殻をつつく音
「啐啄同時」は、「啐」と「啄」のタイミングがピッタリ合って殻が割れてヒナが生まれること。「二度と来ない、大切な機会」を意味します。
田中先生から、中学生の時にある先生から作文を褒めてもらったエピソードとともに、褒めてほしいことを褒めてほしいタイミングで褒めてもらったことが今につながっているとの紹介がありました。
この日の勉強会は雑談的な場になったので、ブログは書けないなと思ったのが勉強会終了直後の正直な感想でした。せっかくペンと用紙を借りたけど、そんな時もあるさと開き直ってもいました。
そこから、やっぱりブログを書こう、書きたいとなったのは、勉強会後の懇親会に参加して、「啐と啄の2つの行為のタイミングがピッタリ合う。それは偶然に起こることなのか?」という問いが浮かんでしまったからです。
子どもがお世話になった高校の先生から、ことあるごとに「待つ」ことの大切さを教わったことを思い出しました。手は離すけれども目は離さずに「見守る」ことについても教わりました。このことと合わせて考えると、啐啄同時が起こる必然のメカニズムが見えてきました。
はじめにことが起こるのは「啐」の兆しです。この兆しを見過ごさないためには、よく観察することが大事です。観察して「啐」の兆しを見つけたら、ここぞというタイミングをはかって「啄」を起こしてはたらきかける。「啄」に応えて「啐」が本格起動する。これが「啐啄同時」のメカニズムです。
観察することは見守ることであり、タイミングをはかることは待つことです。見守ることと待つことを実践する先生達がいた子どもの高校で、子ども達が伸び伸びと成長していったのは、「啐啄同時」が何度も起こっていたからだと腑に落ちました。
啐啄同時がおこる場所
勉強会が終わった後、会場参加のメンバーが向かった先は、会場からは微妙に離れた距離にある銀座ライオン。歩いていけない距離でもないけれど、急げとばかりにタクシーに乗りこみました。
店に到着したのは午後9時。告げられた10時閉店にも迷うことなく入店。何しろ、銀座ライオンは孫子女子勉強会の原点とも言える場所でしたから。
入店して席についた私達は、急いで注文をしました。運ばれたグラスを手にもち、乾杯でグラスがぶつかる音を聞いた時、懐かしさがこみ上げてきました。
勉強会仲間と食事しながらの会話を楽しむ。銀座ライオンでの時間がそれだけにとどまらないことを知ったのは、そこで啐啄同時がおこる瞬間を目撃したからです。
私達は食事を味わいながら、純粋に会話を楽しんでいました。それはどこにでもある光景です。違っていたのは、勉強会後というシチュエーションであり、参加者の中に共通したテーマがあったことでした。
このシチュエーションで、はじめにことが起こるのは「啐」の兆しです。勉強会のテーマが頭に残った状態で、何気ない会話から自分の経験が想起されます。一方、勉強会後のいつもの場所でいつもの仲間という場が作り出す雰囲気から、直感的につい質問するという「啄」が起こります。質問の「啄」に対して、その場だからと、想起した経験をつい話してしまう「啐」が起こります。こうして、銀座ライオンでは会話の「啐啄同時」が起こります。
もちろんZoom上での懇親会も楽しいものです。けれども、画面越しに受け取れる場の雰囲気には限りがあります。やはり、その場に身を置いて受け取る場の雰囲気や、目の前にいる人から受け取るものがあって初めて、つい質問するという「啄」が起こります。
銀座の貸し会議室で孫子の兵法をテーマに学び、銀座ライオンに場所を移して、そこで生まれる「啐啄同時」の会話を楽しむ。乾杯してこみあげてきた懐かしさの理由もはっきりとわかりました。銀座ライオンでの懇親会までが孫子女子勉強会だということを思い出したからです。
次の勉強会からは、わざわざ出かけるのかと躊躇うことはありません。会場参加を即決して、いそいそと出かけようと思います。その場でしか味わえない「啐啄同時」の会話を楽しむために。