群馬県昭和村ツアーに学ぶ不確実な時代の生き方

 

孫子女子勉強会メンバーたちと行った群馬県昭和村でのトウモロコシの収穫体験。ランチを食べて、地元の名店での買い物を楽しむ。それだけのつもりで参加しましたが、得られたのは楽しみ以上のものでした。

 

 

「トウモロコシは朝採ると一番おいしい」噂は本当か?

8月の日曜日、朝5時前に起きて向かったのは「農園星ノ環・とうもろこし朝採りツアー」に向かう待ち合わせ場所。高速を走って群馬県昭和村にある農園星ノ環のとうもろこし畑に着いた時には、すっかり暑くなっていました。

 

毎年、孫子女子勉強会仲間のみっきーからお取り寄せしている農園星ノ環のトウモロコシの収穫体験企画が田中先生からもちあがった時には、もちろん迷うことなく参加に手を挙げました。

 

 

 

みっきーの案内でトウモロコシ畑に向かい、畑の環境、風のにおい、1本の茎の背丈などを身体で感じました。トウモロコシがどうやってできるのか、良いトウモロコシの見分け方、収穫の仕方の説明を受けました。この日は、勉強会のZoom上の画面越しで見るみっきーとは少し違って、とても頼もしい印象を受けました。いる場所によって、その人の見え方も変わるんだなと感じました。

 

この日、初めて知ったのは、1本の茎から出荷できるトウモロコシは1つだけという事実。1本の茎には何本かのトウモロコシがなるけれど、実がぎっしり詰まったトウモロコシは1つしかできないそうです。

 

 

 

みっきーは、その場で1本の茎から2つを収穫したトウモコロシの皮をむいて違いを見せてくれました。そのあまりの違いに、私たちはびっくり仰天でした。

 

 

 

収穫の方法を教えてもらった後は、各自が1本ずつ自分の手でトウモロコシを収穫して、その場で皮をむいてガブリとかぶりつきました。そうです。新鮮なトウモロコシは、生のままでいけちゃうのです。

 

これがトウモロコシなの?という驚きのジューシーさ。かじった実からジュワーッっと甘い汁が口の中に広がる新感覚の体験です。私たちは、無心になって丸々1本のトウモロコシをその場で生でかじりました。

 

「トウモロコシは朝採ると一番おいしい」噂は本当でした。

 

 

 

さらには、「ケモノ喰い」と呼ばれる食べ方も教わりました。トウモロコシを茎からもぎとることなく皮をむき、茎についたままでガブリとかぶりつきます。もうこれ以上の鮮度はないというトウモコロシ畑ならではの体験です。

 

畑で噂の真偽を確かめた後は、お持ち帰り用のトウモロコシを収穫しました。この美味しさをお持ち帰りしたい思いで、それぞれのクーラーバックにはトウモロコシが次々に詰め込まれてゆきました。解散場所から電車に乗って持ち帰る重さに気づいたのは、収穫し終わった後のことでした。

 

今回の日帰りツアーの最大の目的はトウモロコシの収穫体験。ですから、お昼になる前に旅の一番の目的は果たしてしまいました。その後は、お昼を食べて、昭和村近辺のお店で食べたり、飲んだり、買い物したりを楽しんでおしまい。

のはずでしたが、今回の旅の本当の魅力は、この後にぎっしり詰まっていました。

 

 

農園星ノ環が経営するムラノナカ珈琲とムラノナカ食堂

 

畑で朝採れのトウモロコシを丸1本かじった後に向かったのは、2022年6月10日にオープンしたばかりのムラノナカ食堂。

 

 

 

農園星ノ環が経営するムラノナカ食堂は、自社農園で採れたレタスや地元食材をつかったメニューを提供しています。ムラノナカ食堂では、食堂のしっかり者のおかみさんの顔をしたみっきーがとびきりの笑顔で出迎えてくれました。畑で見たみっきーとはまた違った顔に見えました。

 

 

 

群馬県産の小麦を使った自家製麺のうどんがおすすめだと聞いて、私は、季節の野菜かきあげ天ぷらざるうどんを注文しました。おすすめ通りに、コシがしっかりして食べごたえのあるうどんでした。運ばれてきた時には、野菜かきかげの大きさに驚き、食べ切れるかと心配になりました。何しろ、ついさっき、トウモロコシを1本食べたばかりでしたから。

 

が、そんな心配は御無用。トウモロコシの甘さと春菊の渋さの絶妙なハーモニーを奏でた天ぷらは得も言われぬ美味しさ。それに加えて、あげ物なのにさっぱり。気がつくと完食していました。

 

日曜日のお昼時とあって、お店には次から次へとお客さんがやってきましたが、きちんとオペレーションがまわっていることにも感心しました。

 

 

 

ムラノナカ食堂の隣には、2022年4月21日に一足早くオープンしたムラノナカ珈琲がありました。こちらも農園星ノ環が経営しています。厨房をはさんで併設されているので、食事の後に珈琲店に立ち寄ると、またしてもみっきーが、今度はやさしいカフェのお姉さんの顔で出迎えてくれました。

 

東京から農家に嫁いで10年の時を経たみっきーは、昭和村で本当にいきいきと働いていました。もちろん話には聞いていましたが、2ヶ月足らずの間に珈琲ショップと食堂を立て続けにオープンして切り盛りしているみっきーの進化を見ての衝撃は、現地で生の姿を見ることでしかわからなかったと思います。人は、それぞれに輝ける場所にいることが大事なんだと、みっきーを見て思いました。

 

 

久呂保のこんにゃく

 

みっきーとお別れした後に向かったのは、みっきーから紹介してもらったこんにゃくの加工製造販売を行う久呂保こんにゃく工場。みっきーからの紹介とはいえ、お休みだった日曜日にも関わらず、特別に工場をあけて迎えてくれたのは代表取締役の兵藤さん。

 

私たちは、こんにゃく加工品をいくつか買って帰るつもりで立ち寄ったのですが、まさかここに1時間以上も滞在することになるとは思ってもみませんでした。兵藤さんは、笑顔で私たち人数分のヘアネットを手渡してくれて、こんにゃく製造工場を惜しげもなく見学させてくれました。

 

工場見学をさせてもらったら、いくつかの商品を買って帰ることになるのかと思いきや、ここからが本番でした。兵藤さんは、私たちの目の前で次々にこんにゃく商品を袋から出し、こんにゃくに関する様々な知識を披露し、その知識を実際に確かめるために試食をさせてくれました。

 

例えば、おなじみの刺身こんにゃくの最高に美味しくなる食べ方を実演してくれました。その後に試食した刺身こんにゃくのとろけるような食感には「これが刺身こんにゃく?」と驚くばかりでした。

 

豆乳を投入したという豆腐こんにゃく、こんにゃくジャーキー、かみかみこんにゃく、こんにゃくわらび餅、フルーツこんにゃくと、あらゆる方向に展開したこんにゃく加工品についての解説と試食が続きました。どれもこれも今までに見たことのないこんにゃく加工品です。その発想に驚き、その味と食感にさらに驚きました。つまり、驚きっぱなしだったということです。

 

中には売れ行きが芳しくないものもあるとのことでしたが、そのことさえも兵藤さんは楽しんでいるようでした。私は、こんにゃくの試食もさることながら、兵藤さんのこんにゃく加工品へのあくなき探究心にすっかり魅了されました。こんにゃくにこんなにも夢中になれる人がいるんだなあと。

 

トウモロコシと道の駅で買った野菜で、分量的にも重量的にも持ってきたカバンはすでにオーバー気味なことを知りながらも、私たちは、あれもこれものこんにゃく加工品を購入しました。兵藤さんの語りのおかげで、頭の中がこんにゃく一色に染まってしまったものですから。

 

 

大利根酒造

 

久呂保のこんにゃくを後にして、急遽予定を変更して向かった先は左大臣の酒名をもつ大利根酒造。次は酒造に行く予定と告げた私たちに、兵藤さんがオススメしてくれたのが大利根酒造でした。

 

大利根酒造は小規模な酒造でしたが、女性が選ぶ「のみやすい日本酒 No.1を受賞したお酒も造っていました。兵藤さんのアドバイスに従ってここに来てよかったーと思いながら、小さな店内を見て回りました。

 

大利根酒造で私が一番驚いたのは、店頭に並べられた酒瓶の種類の多さでした。小規模酒造であれば、大量生産は難しいし、おそらくは人もそれほど多くない。ならば、少数の定番商品で勝負しているかと思いきや、そうではありませんでした。

 

そのからくりは、同じ純米吟醸の生原酒が熟成期間の違いで変わる味に着目し、春、夏、秋と時期限定で別商品として販売する手法にありました。

 

つくれる量に限りがあるため、基本的にはこの酒蔵で販売しているそうです。地元の人と尾瀬に来る観光客が主なお客さんだとか。つまり、ここでしか買えない。

 

このプレミア感で、トウモロコシとこんにゃくで、すでに重量オーバーの現実を都合よく忘れ去ろうとする心が働きます。こうして、それぞれが酒瓶をもってレジに並ぶことになりました。

 

 

群馬県昭和村ツアーに学ぶ不確実な時代の生き方

大利根酒造の後は、土田酒造にも向かいました。残念ながら予定していた桃のスムージーを飲みには行けず、土田酒造を最後に昭和村ツアーを終わりにし、帰路につきました。

 

帰りの車中では、昭和村ツアーの楽しかったことを振り返るおしゃべりに花が咲きました。私の心の中には、楽しかった以上に得られた大きな学びが、まだ言葉にならないままにひっかかりを残していました。

 

肩がちぎれそうになるくらいの荷物を抱えて、最寄り駅から自宅に向かう道でも、次の日からの散歩中にも、そのひっかかりは心の中から離れることはありませんでした。昭和村ツアーで学んだことは何だったのだろうと、その正体を探す日々が続きました。

 

とある瞬間に、「ああ、そうか」と、その正体がわかりました。「農園星ノ環」、「久呂保のこんにゃく」「大利根酒造」の3社に共通していたのは、現状に甘んじることなく、変わり続けていることです。

 

次なる問いは、「なぜ、変わり続けるのか」です。

 

久呂保こんにゃくさんは、こんにゃくを旅館やホテル、百貨店に卸しているとのことでした。一般消費者向け販売よりは安定した収入が得られるようにも思えます。

 

ならば、既存商品を既存顧客に安定供給し続ければいいのではと思ってしまうところです。けれども、そこにはとどまらず、新しいこんにゃく加工品を次々と開発し続けるのはなぜなのか。

 

農園星ノ環と大利根酒造の詳しい経営事情はわかりませんが、新規取り組みの理由が、既存事業が低迷している危機感からとは思えませんでした。

 

昭和村ツアーで出会った人たちが変わり続ける理由は、3社のホームページで見つけることができました。

 

 

 

変わり続ける理由は、経営理念にありました。この経営理念の実現に向かっていると考えれば、むしろ変わり続けない方が不自然だとさえ思えてきます。不確実な時代の生き方のお手本を見た気がしました。

 

事業内容では見えてこないものが、経営理念からは見えてくるのも今回の旅での発見でした。

 

考えるためのヒントをもらったら、そこから自分はどうするかを考えるのが孫子女子勉強会流です。その流儀に従って、昭和村ツアーで得た学びから、不確実な時代に自分はどう生きるのかを考え始めました。

 

 

事業内容をベースに経営理念に向かって変わり続けることは、個人で言えば、自分の現在地から長期的なゴールに向かって変わり続けることと同じ構図です。これは、勉強会に高橋さんがゲスト講師で来てくださった回で学んだゴールベース思考のことでした。

 

変わり続けるみっきー、兵藤さん、大利根酒造の方は、変わることを楽しんでいるようにも感じました。新規の取り組みは、知らない/うまくいかない/間違えるといった壁にぶちあたらないわけがありません。それでも楽しそうに見えたのは、きっとBモードで生きているから。これも孫子女子勉強会のある回で学んだことでした。

 

こうやって振り返ってみると、昭和村ツアーは孫子女子勉強会の実社会体験版だったということになります。

 

「農園星ノ環・とうもろこし朝採りツアー」と称して、こんな番外編の学びの場を企画した田中先生おそるべし。