バーまなびのつくり方

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バーチャルバー「バーまなび」を開店してからおよそ2ヶ月が経ちました。「バーまなび」が、どうやって作られているのか、その舞台裏を紹介します。

 

 

「バーまなび」プロジェクト始動

 「バーまなび」は、キャリアコンサルタント板谷さんが、好きの実践者をゲストに迎えるラジオトーク番組です。ここには、発案者の板谷さんのこんな思いがこめられています。

「好き!」のパワーってすごいと思うのです。

ゲストの「好き!」に至るプロセス、今の思いを伝えることで、D動機(しなければいけない)よりB動機(したい)の面白みを伝えていきたい。

 

 コロナ禍でStay Homeを余儀なくされたことが引き金となって、仲間が集い、あたためていたアイデアが一気に具体化し、プロジェクトとして動き出しました。

 

 「バーまなび」の名前とうっすらとしたアイデアを真ん中にしてZoomでわちゃわちゃ話したのが2020年4月29日のことでした。そこで話した内容を企画書に落とした後は、すぐにプロジェクトとして動き出しました。細部はつくりながら考えることにして、ところどころで発生するひっかかりをオンラインコミュニケーションで解決しながら、1作目をつくって公開したのが2020年5月24日でした。自宅時間がたっぷりあった期間とはいえ、アイデアを1ヶ月経たずにカタチにできた時、私達は自分に”Good Job”と言いたい気分でした。

 

 

「バーまなび」の構成とチームの役割分担

 「バーまなび」の場面はもちろんバーの設定で、そこにはママとバーテンダーとピアニストがいます。そこに、毎回、ゲストが遊びに来てママと語り、ゲストが帰った後はママがバーテンダーと語りながら今宵の一杯を飲むのが基本的な流れになります。ですから、「バーまなび」の構成は「オープニング」「ゲストトーク」「エンディング」の3つのパートからなるものとしました。1回の時間を15分として、オープニング1分、ゲストトーク10分、エンディング4分を目安とすることも決めました。

 

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            バーまなびの構成

 

 3つのパート制作の役割分担は、それぞれができることに照らし合わせて自然と決まりました。

 

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          バーまなび制作の役割分担 

 

 「バーまなび」に遊びに来たゲストを迎えるのは、「バーまなび」のママの板谷さんです。「バーまなび」オリジナルBGMの作曲と演奏は岩倉さんが担当してくれました。全体の編集は私が担当し、毎回の予告グラレコは第1回のゲストでもある岸さんが描いてくれています。

 

 

「バーまなび」の制作プロセス

 「バーまなび」の制作プロセスは3つのステップからなります。

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         バーまなびの制作プロセス

 

 はじめの一歩で、収録したゲストトークパートが時間枠におさまるように編集します。次の一歩で、オープニングパートとゲストトークパートをつなげて編集して全体の雰囲気をつくります。最後の一歩で全体をつなげて完成形をつくります。

 

はじめの一歩

 はじめの一歩の制作プロセスは、さらに3つのステップにわかれます。

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          はじめの一歩の制作プロセス 

 

 1つ目のステップはゲストトークパート収録です。「バーまなび」のママ板谷さんとゲストがZoom上で楽しくおしゃべりをして、それを録画しておきます。録画記録から音声だけを取り出して、この後の編集で使います。

 

 ここで大事なのは、インタビューでも対談でもなく、おしゃべりであることです。インタビューや対談と思うと、ゲストは構えてしまって楽しく語れません。バーのママ板谷さんと楽しくおしゃべりしている中で自然とその人らしい言葉が紡ぎ出されます。全体の時間が決まっているので、できればおしゃべりもそれにあわせた時間内でと言いたいところですが、ゲストそれぞれの「好き!」を語っているので、どうしても長くなります。それだけたくさん話したいことがあるテーマを選ぶからこそ成り立つ番組でもあるので、時間はあまり気にせず話してもらうことにしています。

 

 2つ目のステップは編集準備で、編集用の共通言語を作成します。ゲストトークパートは10分程度の想定ですが、収録音声の長さは毎回それをはるかに超えた長さになります。ですから、どこかの部分をカットして時間内におさめるための編集が必要になります。カットする部分を決めるのは板谷さんで、音声データをカットするのは私です。ですから、2人の間で、カットする部分を表す共通言語が必要になります。

 

 双方ともに同じ音声データをもっているので、共通言語を時間にするやり方も試しました。つまり、「XX分XX秒~YY分YY秒まで」がずらりと並んだテキストをやりとりして、それをもとにカットするやり方です。このやり方には問題がありました。

 

 私は、まず、もともと1つのファイルだった音声データを音声編集ソフトを使ってカットしながら複数のファイルに分割します。その後、音声編集ソフトとは別の動画編集ソフトを使って分割した音声ファイルを1つの音声ファイルにつなげて、板谷さんにもどしていました。

 

 編集作業は1回で終わることはまれで、少なくとも2回はやりとりが発生します。1回目の音声編集時は、板谷さんと私が共通の1つの音声ファイルを対象にしているので、編集用の共通言語が時間でも問題ありません。ところが、2回目の音声編集時は、板谷さんは私がもどした1つの音声ファイルを対象にしていますが、私は複数に分割された音声ファイルを対象にしてさらに編集することになるので、編集用の共通言語が時間になっていると、編集対象となる分割された音声ファイルを探すのが大変になったのです。

 

 編集用の共通言語としては、音声を文字おこしした原稿がやりやすいという結論になりました。今どきは音声データを文字おこししてくれるソフトウェアがあるので、もちろんそれを使いました。が、文字おこしの精度は感覚的に7割程度です。ソフトウェアで音声を文字おこしした状態の原稿を板谷さんに送って、それをもとにカット部分をマーキングして返してもらうやり方も試しました。こちらも、1回目の編集時はなんとかなっても、2回目の編集時はより細かい部分の編集になってくるので、やはり正確な原稿があった方が作業が進みやすいという結論になりました。

 

 なので、今は、ソフトウェアで文字おこしした後に人手で文字おこし原稿を修正して、ほぼ正確な原稿を共通言語として使うことにしています。人手での文字おこし原稿修正は、それなりに時間がかかる作業ですが、時々クスっと笑いながら行っています。それは、ソフトウェアでの文字おこしが人間ではあり得ないような変換をしているからです。例えば、「岸さん」を「決算」に変換したり、「歌舞伎」を「武器」に変換したり。なるほどこう変換するかーという面白さが、修正する単純作業も楽しみに変えてくれます。

 

 編集用の共通言語を原稿とした場合、2回目の編集時に編集対象となる分割された音声ファイルをどうやって探せるのかと思われるかもしれません。分割された音声ファイルの出だしの言葉をファイル名としているので、原稿とファイル名を見比べるとすぐにあたりをつけられるのです。

 

 3つ目のステップは、時間枠におさめるための編集作業です。板谷さんが編集用の共通言語としての原稿にカット部分をマーキングをつけて送ってくれます。その原稿を見ながら、音声データをカットしていきます。

 

 音声は編集用ソフトウェアでこんな風に波形として見ることができます。

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 時間軸を拡大表示することができるので、単語の切れ目はわりとくっきりと見えて、そこにマークをつけるときれいに音声をカットすることができます。

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 残す部分の始点と終点にマークをつけると、その区間の音声データを1つのファイルとして取り出すことができます。

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 こうやって1つの音声データに対して残す部分にマーキングをすることを繰り返し、複数の音声ファイルに分割します。

 

 カット区間を指定してその部分をカットしていって最終的に1つの音声ファイルに出力するやり方もできますが、このやり方では、2回目の編集時に1回目の編集でカットした部分を復活させることがやりづらくなります。ですから、私は、もとの音声を複数のファイルに分割する方法をとっています。ゲストトーク部分だけでも、多い時には約50個の音声ファイルに分割します。

 

次の一歩

 次の一歩の制作プロセスで全体の雰囲気をつくるので、だいたいのカタチが見えてきます。Zoomで収録した板谷さんのひとり語りのオープニングパートを板谷さんが送ってくれます。はじめの一歩と同じように編集での対応もできるのですが、板谷さんが真夜中の孤独な収録を何度かやり直して、編集なしでOKのものを送ってくれます。

 

 オープニングパートが届いたら、音声データとBGMと効果音を組み合わせて編集していきます。はじめの一歩での音声データ編集は、自然な切れ目を探してカットする正確さが要求されます。次の一歩での音声データ編集は、つなぎあわせる間合いのとり方やBGMや効果音との組み合わせの妙を演出するセンスが要求されます。

 

 次の一歩での編集は、間のとり方の違いでこんなにも感じが違ってくるんだなあと、話し方の学びを得られる時間でもあります。ゲストトークパート用のBGMは3種類あります。同じトーク内容でも、BGMを変えると聞き手の感情移入の仕方が変わります。ですから、3種類のBGMをどの部分でどれを使うかの試行錯誤をするのも編集の楽しみのひとつです。

 

最後の一歩

 最後の一歩で完成形をつくります。Zoomで収録した「バーまなび」のママ板谷さんとバーテンダーのエンディングパートが板谷さんから送られてきます。エンディングパートは4分想定ですが、今宵の一杯にまつわるエピソードが短時間では語りつくせず、この部分も時間オーバーになることがしばしばおこります。なにしろ、バーテンダーはゲストトークにマッチする一杯を選ぶために、お酒について日夜の研究を重ねているのですから。

 

 送られてきたエンディングパートをつけて一度完成形をつくりますが、これで完成となることはまずありません。たいてい時間がオーバーしています。全体を15分程度におさめるべく、エンディングパートのみならず、時には再度、ゲストトークパートも含めて、板谷さんがカット部分を探してくれます。私も板谷さんが探してくれたカット部分をカットすることに加えて、ちょっと間が長いと思う部分の間を縮めたり、1秒でも縮められるところがないかと探します。読書感想文をなんとか3枚の原稿用紙におさめようと、必死で文字数を削っていた時と同じ気分を味わいながら。

 

 本当に大事なところは残しながら、削りに削って、ようやく完成形ができます。完成形を聞いてみると、まるで最初からこうトークが繰り広げられていたかのように、違和感なく話がつながって聞こえるから不思議です。

 

BGMと予告グラレコ

 BGMはピアニストの岩倉さんがオリジナルで作曲、演奏してくれました。1作目をつくった際に、岩倉さんがオープニングパート、ゲストトークパート、エンディングパートの音声編集したものを聞いた後で、それぞれのパートの雰囲気にあうBGMを作曲してくださいました。それぞれのパートのおよその時間構成も共有していたので、BGMの長さもその時間にあうように計算されています。

 

 1作目の完成形ができて、公開とお知らせをどうしようかと話していた時のことでした。プロジェクトメンバーにグラレコひめの岸さんがいたので、ジャストアイデアとして、

「グラレコで予告動画をつくったらどうかな」

と言ってみたところ、速攻で岸さんが予告グラレコをつくってくれました。こうして、毎回の予告グラレコが「バーまなび」の特徴のひとつになりました。

 

「バーまなび」のオリジナリティ

 ここまで書いたものを読んでいただければわかるように、「バーまなび」は、特殊な機材やソフトウェアやスキルを使ってつくっているわけではありません。やろうと思えば、同じようなものが他の人でも作れると思います。

 

 同じようなものは作れても、他にはない「バーまなび」のオリジナリティがあるとも思っています。それは「バーまなび」の雰囲気です。

 

 「バーまなび」の雰囲気は「バーまなび」のママ板谷さんと「バーまなび」のバーテンダーにしかつくれません。ゲストが思わず話してしまうことがあるのは板谷さんとのおしゃべりだからです。その語りをキャリアコンサルタントの視点で端的にまとめて語ってくれるのは板谷さんにしかできません。その語りにぴったりな今宵の一杯を選んで素敵なエピソードを紹介してくれるのは、「バーまなび」のバーテンダーの視点によるものです。

 

 「バーまなび」のBGMは、板谷さんやバーテンダーの語りの雰囲気にあわせて作曲・演奏されています。ですから、このBGMもまたバーまなびの雰囲気づくりに大きく貢献しています。全体の編集も、「バーまなび」の雰囲気を意識して効果音を選び、つなぎ合わせています。

 

 予告グラレコは、「バーまなび」の雰囲気にふくらみをもたせてくれています。

 

 たとえ、オープニングパート、ゲストトークパート、エンディングパートという構成や、つくり方を真似できたとしても、「バーまなび」の雰囲気という掴みどころのないものを真似ることはできません。

 

 「バーまなび」の雰囲気をつくりあげているのは、制作チームのメンバーに他ならず、これは決して代替することはできません。すなわち、バーまなびのオリジナリティがどこにあるかといえば、制作チームであると言えます。

 

 「バーまなび」のプロジェクトが始動した時、「バーまなび」の構成とだいたいの役割分担は決まっていました。が、制作チームが共通ゴールとしてもっていたのは「バーまなび」のイメージでした。言語化できないイメージという曖昧な共通ゴールをそれぞれに解釈して、それぞれが担当する部分で具体化し、最終的にできたのが「バーまなび」です。

 

 制作チームは、オンラインコミュニケーションによって、イメージという曖昧なものをだんだんと共有できるようになっていきました。そして、1作目が完成した時、それぞれは部分を担当しながら、全体としては誰もがイメージするものができたと感じました。これがチームで創造する醍醐味です。

 

 制作チームをとりまとめるマネージャー的人物は存在せず、それぞれの範囲は担当者に任せ、担当した分については誰に言われずとも自主的に動いています。かといって各自がバラバラに動いているわけでもなく、必要な情報はきちんと共有されています。こういう動きができるのは、チームメンバーがB動機で動いているからです。

 

 B動機の制作チームでつくっている「バーまなび」ですから、これからも遊びに来てくれるゲストがいる限り「バーまなび」は続いていくと思います。
 

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