「元気をもらえた」それが高松市で行われた大谷由里子さんの講演会終了直後の感想でした。よく使われるありふれた言葉です。でも、その言葉が一番ピッタリな表現でした。確かに、90分の講演のはじめから終わりまで、大谷さんのお話に惹きつけられました。けれども基本的には、お話を聞いただけです。それが元気をもらえたと感じたのはなぜでしょう?今回は「元気をもらえた」の理由を探求しました。
笑いの力
大谷さんの講演を聞いている間、ほぼ満員の会場は何度も笑いに包まれました。大谷さんの講演の特長は、笑う場面がいっぱいあることです。さすが、元吉本興行のマネージャーです。笑いのツボはしっかり押さえています。
大谷さんが新人向けの研修会でのエピソードを紹介した時も笑いがドッとおきました。
平成生まれの人とは明らかに価値観が違うんです。新人研修をした時のことです。
「電話が鳴ったら、新人が真っ先に電話をとりましょう」って言ったら、
「なんで明らかに自分にかかってきてないとわかってる電話をとらないといけないんですか?」という反応なんです。
平成生まれにとって、電話と言えば個人のものという認識なんです。
皆さんも自分の携帯を人に見られたら嫌ですよね?私も嫌です。
例え夫でもそんなことされたら離婚にさえ発展しかねません。
スマホの電話のマークのアイコンだって、「なんであんな形なん?」って、平成生まれの人にはわからないんです。
それくらいジェネレーションギャップがあるんです。
お互い何がわかっていて、何がわかっていないのかのすりあわせをすることがコミュニケーションの前提なんです。
紹介されるエピソードは、大谷さんが登場人物になりきってセリフでお話されるので、もう今目の前で新人研修が繰り広げられているかのように感じました。それがより一層、笑いを誘うのです。
笑いは場の空気をやわらげます。一種のアイスブレークです。それによって、大谷さんの話が頭を通って入ってくるというより直接的に身体にしみこんでくる気がしました。
言葉の力
何度も笑いがおきた講演でしたが、単に面白おかしいというだけでなく、ところどころにグっと心をつかまれるような格言とも言える言葉が織り込まれてもいました。
「食べたもので身体がつくられると言いますが、聞いた言葉で心がつくられるんです。話した言葉で未来がつくられるんです」
「人生の長さは神様が決めるかもしれないけれど、人生の幅は自分で決められます」
言葉はその瞬間だけでなくずっと心に残ります。笑いを呼ぶ話とは対照的に、ストレートに表現された言葉はより際立って響いてきます。
笑いと言葉が人を元気にする理由
「元気だから笑うんじゃない。笑うから元気になるんです。行動、考え方を変えると感情も変わります」と大谷さんが言ったように、笑うと気分がスカっとします。人間誰しも大小の差はあれ悩みを抱えているものです。いつも物事がうまくいくわけではなく落ち込むことがあるのは当たり前です。そんな時は、なかなか自分だけの力で笑うことはできません。笑えるシチュエーションに身をおいて、声をあげて笑うことで、沈んだ心も元気になることができます。
「言葉の力」とはよく聞きますが、わかったようで案外わからない言葉です。自分の中でモヤモヤしていたことを誰かがズバっと言語化してくれると、何にモヤモヤしていたのかわからないという気持ち悪さから解放されます。モヤモヤの原因が解消されるわけではないけれど。言葉は考え方でもあります。言葉を聞いて、その言葉の意味を自分の中に落とし込んで考え方が変わると、感情が変わって、やっぱり元気になるのです。
大谷さんの講演を聞いた人が元気になる理由
大谷さんの講演は、笑いの力と言葉の力がかけあわさってできています。どちらも人を元気にする力を持っているので、それがかけあわさると、元気さも倍増されます。
笑いと言葉は、その力を引き出すための演出があって初めて、笑いの力になり、言葉の力になります。大谷さんは、その演出がまた見事なのです。
大谷さんの話し方はリズムがあって耳に心地いいのです。大事なところはゆっくりと力強く話すので、大事なところが自然と入ってきます。
どんなにリズムとテンポがあるお話でも、ずっと聞きっぱなしでは、集中力が続きません。周囲の人とハイタッチをしたり、周囲の人との共通点を話し合ったり、聴衆が動く場面をつくることで集中力を途切れされないだけでなく、気分があがるような場にデザインされていました。
パワポは一切使いませんでした。パワポがあると、ついついスライドに目がいってしまうのですが、視覚的な情報は何も与えられずに言葉だけで表現されると、自分の頭で想像する余地ができて、頭がより働きます。そうすると、発せられる言葉への集中力が増します。
大谷さんの講演を一言で表現するならばエンターテインメントです。エンターテインメント仕立ての演出が、笑いと言葉の力をより一層引き出し、それが講演を聞いた人をより一層元気にするのです。大谷さんの講演を聞いた人が元気なる理由は、このエンターテイメント仕立ての演出にあったのです。