広島・落語&トーク3人会から見えたもの

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落語家の立川晴の輔さん、公認会計士の田中靖浩先生、重富酒店店主の重富寛さんによる落語・トーク3人会が11月25日に開催されました。開催場所は手入れの行き届いた生ビールを体験できる重富ビールスタンドのある広島市。参加者は東京をはじめとして、四国、九州、沖縄など全国から50名もが広島に集結しました。

 

重富ビールスタンドに14時に集合して生ビールを飲んで、トークと落語を聞いて、最後は懇親会でしめるという半日コースに参加するために私も瀬戸内海を渡って広島まで出かけました。大人の遊びとも学びとも区別のつかないゆるりとした会でしたが、振り返ってみると学びの要素が満載でした。

 

 

重富さんの生ビール大学

重富ビールスタンドでは今回も生ビール大学の講義から始まりました。私は昨年も生ビール大学の講義を聞いたのですが、去年から内容は進化していました。

 

昨年、初めて重富ビールスタンドに行った時のブログはこちらです。

iwayama.hatenablog.com

 

美味しいビールをつくるのはビール製造事業者の仕事であり、ビールを最高の状態で提供するのがビールの注ぎ手の仕事という話は昨年も聞きました。そのために重富さんはピカピカに洗ったコップにビールを注ぐことを実践しています。

 

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      グラスの向こうが透けて見えるビール

 

同じくきれいに洗ったコップでも、洗った後に乾いたコップと注ぐ直前に再度洗ったコップではビールの味が違うという内容が新たに加わっていていました。一般常識で考えると乾いたコップの方がいい気がしますが、洗いたてのコップの方がビールは美味しくなるそうです。夏にコップを冷凍庫で冷やしておくのもNG。夏場に冷えたビールを飲みたいなら、冷凍庫で冷やしたコップを一度水洗いする、または氷水で洗うのがおすすめとのことです。

 

乾いたコップと水洗いして濡れたコップの2種類のコップに入れたビールを飲み比べしましたが、確かに違いがありました。なかなか表現するのが難しいのですが、洗いたてのコップの方が滑らかにすーっと喉をすりぬけていくような感じがありました。

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       2種類のコップのビールを飲み比べて違いに驚く晴の輔さん 

 

「誰がはじめにその違いに気がついたんですか?」私はとっさに浮かんだ疑問を重富さんにぶつけてみました。重富さんは「乾いたコップと洗いたてのコップではビールを注いでいる時の感覚が違うことは経験を積んだ注ぎ手ならわかります。乾いたコップにビールを注ぐ時のひっかかりが洗いたてのコップではないんです。多分、時間がなくて乾ききらないコップにビールを注いだ時に発見したんでしょうね」と答えました。何杯もコップにビールを注ぎ続けていると、コップの状態によって注がれるビールの違いがあることがわかるようになるという人間の学習能力と身体感覚には驚きしかありませんでした。

 

広島市内の現在のPARCOがある場所には、かつてはキリンビアホールが建っていたそうです。原爆投下で建物の外壁は壊れなかったキリンビアホールは終戦の年の12月には営業を再開して、精神面で広島市民の復興を支えたそうです。PARCOの外壁の一部にキリンビアホールの壁が使われていることは広島市民でもあまり知られていないと重富さんは言いました。

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 生ビール大学の講義プレゼン資料

 

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PARCOの壁の一部に使われているビアホールの外壁

 

2回目の生ビール大学の講義でしたが、内容が進化していたこともあって飽きることなく新鮮な気持ちで聞けました。重富さんのビールに対するあくなき探求心には驚くばかりです。日本のビールに関することなら重富さんに聞けと言っても過言ではないでしょう。

 

生ビール大学の講義の後は、重富さんの芸の域に達したビール注ぎの実演を目の前で眺めながらビールを味わう時間になり、せまい店内に集まった参加者から次々に感嘆の声があがりました。ビール好きには生ビールの再発明のような感覚を、ビールが飲めない人には生ビールを味わえる楽しみをそれぞれに提供したからです。重富ビールスタンドで飲む飲み物を単に「生ビール」と呼ぶのはもの足りなく、「重富生ビール」と固有名詞で呼びたいくらいです。

 

生ビール大学は、実は3人会の前座的な位置づけで、3人会の会場は重富ビールスタンドの隣りのホテルの会議室に用意されていました。なんて豪華な前座だったんでしょう!

 

3人会の会場に現れた重富さんは、重富ビールスタンドでの正装からスーツ姿に着替えていました。ここでは、ビールの伝道師としてのこれからの構想が語られました。重富さんは、今、映画学校を卒業された娘さんと一緒に全国各地を巡って取材撮影を重ねて、日本のビールの原点を伝える動画をつくっているそうです。生ビール大学ではパワーポイントを使った講義が行われていますが、紙芝居的講義では面白くないと感じているからだそうです。

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  日本ビールの原点の動画制作について語る重富さん

 

田中先生のトーク

重富さんの壮大な構想の後にバトンを受け取った田中先生は「重富さんは自分の世界をつくっていますね。もうビール道と呼んでもいいんじゃないでしょうか」と話を始めました。

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     絶妙なつなぎトークをする田中先生

 

田中先生は日本人の道(どう)について語られました。ご存知のように同じ茶葉が製法の違いによって紅茶になったり緑茶になったりします。イギリスは紅茶の国として知られていますが、紅茶をどう扱ってきたかの歴史は決して優れたものではありません。ボストンティーパーティ事件しかり、アヘン戦争しかり。一方の日本は、お茶を平和をもたらす茶道へと昇華させたと、外国と日本の飲料に対する姿勢の違いに言及しました。

 

「泡立てるドリンクには抹茶やぶくぶく茶があります。ビールは泡に苦味をこめます。泡を楽しむのは日本だけです」と、お茶とビールが泡という共通点でつながることを田中先生はさらりと語りました。さらには「茶道をみればわかるように、味をひきだすまでの様々なことを含めて、ともにお茶を味わうのが日本の文化なんです。ヨーロッパでは味だけを求めます。味だけでない注ぎ方や運び方や器までを含めて日本流の発展を遂げたのが日本の茶道です」と、飲食を考える時には通底する日本の食文化にまで考えを巡らせる必要があることをいつもの軽快な口調で語りました。

 

そして「ということで、そろそろ晴の輔さんにご登場いただきましょう」とバトンを晴の輔さんにつなぎました。

 

晴の輔さんの落語

着物姿に着替えた晴の輔さんはどこから見ても落語家さんの風情で、さきほど重富ビールスタンドで一緒にいた人と同一人物とは思えませんでした。会場につくられた高座にあがり、よく通る声で、「さきほどお茶の話が出ましたが」と田中先生の話を受けてのマクラを語り始めました。

 

マクラは、静岡県の深むし茶発祥の地である菊川市で晴の輔さんが婚活イベントをプロデュースして15組ものカップルを誕生させたという話でした。落語家さんは実に幅広い仕事を手がけるんだなあと思いながらマクラのお話にぐいぐいひきこまれていきました。

 

この日の演目は「茶の湯」。マクラから、羽織をぬいで流れるように自然に演目が始まりました。「茶の湯」は、茶の湯のことを知らない隠居が知ったかぶりをして、青きな粉とムクの皮の粉で泡立てたお茶を飲んでおなかを下し、空き足らずにそのお茶で茶会まで開くというお話。話の中のキーワードに泡が含まれているところがみそでした。観客は晴の輔さんの話芸が作り出す想像の世界にひたりながら、ここぞというポイントでは高らかに笑い声をあげ、会場は不思議な一体感に包まれました。

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トーク&落語3人会から見えたこと

トーク&落語3人会の2時間はあっという間に過ぎました。落語が終わった後に、高座の仕掛けを見せてくれました。会議室の机の上にビールケースで底上げされ、ちょうどいい高さの高座がつくられていました。落語家さんにとって高座の高さは決定的に重要な要素なのだそうです。

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        高座の仕掛けの種明かし

 

当日は、伝説のビールとトークと落語に酔いしれて、「あー、楽しかった」という何の味気もない感想しか言えなかったのですが、後から振り返ってみると、ジャンルが違う3人が揃った3人会だったからこそ見えてくるものがありました。

 

3人の共通点は、ジャンルは違えどそれぞれがその道を極めていることです。日本の文化に深く根付いている「道」は技術のみならず精神性をも含み、どこに向かうのかというプロセスを指すものです。これで完成ということがなく、永遠に探求していくものでもあります。要するに、3人が道を極めているというのは、それぞれのジャンルにおいて常にアップデートを続けているということです。

 

もうひとつの共通点は、視座を一段あげて俯瞰し、それぞれの領域の技を昇華させて別の領域にも適用していることです。重富さんはビールを注ぐことからビールを提供するシチュエーションをつくることに昇華させて、ビールの原点を伝えることにも領域を広げています。晴の輔さんは落語家の話芸を昇華させて、コミュニケーションのプロデュースをする婚活プロデューサーとしても成果をあげています。

 

さて、田中先生はというと、後から振り返ってみてそのすごさに驚愕しました。私たちは重富ビールスタンドでたっぷりと重富ワールドにひたった後、さあ落語だ落語だと意気揚々と3人会の会場へと移動しました。ビールと落語がセットになったお得な会くらいにしか考えていませんでした。3人会とはいうものの、ビールと落語に気をとられ過ぎていました。当日も、田中先生のトークは、重富さんの話から晴の輔さんへの中継ぎのMCぐらいの気持ちで聞いていました。これが大きな間違いであったと気づいたのは、このブログを書き始めてからでした。

 

田中先生のつなぎのトークによって、ビールと落語という一見無関係なものが、3人会というひとつの作品に結晶化されたのです。おそらくは、当日の演目を何にするかは晴の輔さんと田中先生の間では打ち合わせがされていたと推測できます。田中先生のトークは、ビールとお茶を泡という共通点でつなぎ、重富ビールワールドから晴の輔さんの「茶の湯」へと違和感なく移行できるようにしました。また、茶道を例にひいて味を引き出すまでを含めて、ともに楽しむ日本文化を紹介しました。つまり、田中先生のトークは、落語という日本文化の味をより引き出す演出の役目を果たしていたとも言えるのです。

 

懇親会にて

今回の3人会はセミクローズドに人数制限ありで実施され、3人も参加しての和気あいあいとした懇親会もセットになっていました。懇親会で晴の輔さんが隣の席に来たチャンスに、ちょっとした裏話を聞くことができました。

 

この日は晴の輔さんも重富ビールスタンドから参加していました。他の参加者と同じように晴の輔さんも重富さんの注いだビールを飲みました。落語の一席の前にビールを3杯も飲んだのは初めてのことだそうです。ちょっとまずいと思った晴の輔さんは、ビールスタンドからすぐのところにあるコンビニにこっそり行ってミントを買ってなめたといいます。出されたビールを飲まないわけにはいかない、しかし、その後の本番に備えたフォローを怠らないところにプロ意識を感じました。

 

「マクラはあらかじめ準備しておいた話をするんですか?」の質問に対しては、「準備はするけど、実際に使うのは2割くらい」との答えが返ってきました。目の前にいるお客さんの反応を見ながら、マクラの話はその場で組み立てるのだそうです。マクラのネタを仕入れてストックしておくことが必要で、アウトプットするには相応のインプットが必要なことは落語家さんも変わらないようです。

 

「落語を聞いた聴衆がどうなることをイメージして話すんですか?」の質問に対しては、「落語の中に自分の生活と重なる部分を見つけたり、自分の身近な人と登場人物の重なりに気づいたりと、そういう視点をもってもらえればいい」と答えてくれました。面白おかしい話として聞くだけでなく、その中から何かをつかみとってほしいという願いがこめられていると思うと、落語を聞く姿勢も変わる気がしました。

 

懇親会では晴の輔さんにちょっとしたハプニングが発生しました。相当に焦りを見せる晴の輔さんの口から出た一言に、落語家さんにとっての師匠の存在の影響力を垣間みることができました。ハプニングの内容に関してはここには書けませんが、写真だけは貼っておきたいと思います。後から見返すたびに、焦った様子の晴の輔さんを思い出すことでしょう。

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  懇親会でハプニングに見舞われた晴の輔さん

 

今回は、この3人会に出席するためだけに広島に行き、観光をすることもなく帰ってきました。広島で訪れた場所といえば、重富ビールスタンド、3人会会場、懇親会会場の3ヶ所のみです。けれども、気心の知れた孫子女子勉強会仲間と広島で集結し、遊びの中にある大人の学びを体験したことで、広島が特別な思い入れのある地になったような気がします。

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 重富ビールスタンドに集結した孫子女子勉強会のメンバー