読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

重富ビールスタンドから何を学ぶべきか?

生き方 考え方 学び

11月26日に広島にある噂の重富ビールスタンドについに行ってきました。営業時間は17:00~19:00までの2時間だけ、飲めるビールは2杯まで、おつまみはなしという営業スタイル。美味しいビールの注ぎ方を極めた味を求めて毎日行列ができるそうです。

 

外見はごく普通の酒屋さん。畳三帖程度の広さにテーブルがわりの樽が3個。最近、講義用に壁掛けディスプレイを導入したそうで、なんとも不思議な空間でした。

 

そんな重富ビールスタンドで15:00~17:00まで貸し切りで広島生ビール大学飲食店学部の特別講義が企画され、東京、名古屋、大阪、福岡など全国から受講者が集まりました。私も受講するため瀬戸内海を渡って香川から広島入りしました。

 

No Beer, No Life

重富さんは、生ビール大学の講義の冒頭で「広島生ビール大学の講義ではビールの注ぎ方の話はしません。なぜビールが存在するのかを話します」と言いました。

f:id:n-iwayama:20161205001709j:plain

f:id:n-iwayama:20161205001451j:plain

 

実際、講義内容はビールの存在理由をビールの歴史やビールと人との関係から紐解く内容でした。ビールにそんな奥深い歴史があったのかと何度も驚かされ、それがビールへの興味関心を高めます。ビールと人との関係では、話の中に随所に身近な事例が盛り込まれ、聞き手はビールを自分ごと化していきます。会社でのストレスがビールの旨味スパイスになると言われると、ビールがあればやっていけるじゃないかと思ってしまうほどでした(笑)。講義を聞き終わった後には、この世にビールがあって良かったという空気がせまいスタンド内を漂っているのを感じました。

 

ビール講義の内容を一言で言うならば "No Beer, No Life" でしょうか。世界の中心はビールだという錯覚に陥りそうでした。

 

注ぎ方でここまで変わるビールの味

ビール万歳の空気がスタンドを満たしたところで、広島カープのユニフォームからビールスタンド重富のユニフォームに着替えて、いよいよ重富さんのビール実演が始まりました。

 

まずは水道の蛇口でコップを洗うことから。講義でも「手入れの行き届いたビール」を届けるのがミッションとおっしゃったように、きれいなコップに注ぐことに徹底してこだわっていました。

f:id:n-iwayama:20161205002038j:plain

 

そして、いよいよビールサーバーの蛇口をひねり、透き通ったグラスにビールが一気に注がれていきます。

f:id:n-iwayama:20161205002147j:plain

 

全国各地から集まった16人もの特別講義参加者のうち、初参加者は3人だけ、つまり残りの13人はリピーターという状況だったので、初参加者の代表として私が飲み始め式のビールを味わう光栄にあずかることになりました。両足は肩幅に開き、左手を腰にあて、右手でビールを持って、あごを上にあげて飲むのがビールを飲む正しい姿勢と教えてもらって、その姿勢でごくりと飲みました。

f:id:n-iwayama:20161205002243j:plain

 

以前に広島遠征に参加した孫子女子勉強会仲間から忘れられない味と聞いていたので、期待は高まっていました。さらに、重富ビールスタンドの秘密を知りたくて参加したものの、実は、私はビールはダメなんです。人間は期待に対する相対評価を下す生き物なので、普通に美味しいだけなら期待が高まっている分、ちょっと期待はずれと感じるものです。ビールがダメな上に期待が高まった状態で飲んだビール。「うまい!」もうこれ以外の表現はありませんでした。

 

次々にビールが注がれ、参加者に順番にビールがまわっていきます。あちこちで至福の笑顔がこぼれます。この瞬間に理解しました。重富ビールスタンドに行列ができる理由を。並びます、これは。

 

驚きはこれにとどまりませんでした。重富ビールスタンドでは、アサヒの樽生というオーソドックスなビールを注ぎ方を変えて4種類の異なる味で楽しめます。

f:id:n-iwayama:20161205002529j:plain

 

最初に飲んだのが一度つぎ。次が二度つぎで、いったんコップをビールで満たしてしばらくおいた後、さらにビールを注ぎます。コップからビールがこぼれ出ても惜しみなく注ぎます。そうしてできるのが二度つぎのビールです。一口飲んでみると、確かに違います。同じビールなのに明らかな味の違いがあります。

 

二度つぎの次は三度つぎです。コップにビールを満たした後、しばらくそのまま置きます。その後、さらにビールを注いで、またしばらく置きます。三度目にビールを注いでできあがりです。こちらもまたまた違った味です。

 

そして、最後が重富さんオリジナルの重富つぎ。これはビールが苦手な方でも飲めるものとのこと。カップのすべてが泡の状態のビールです。苦味が全く感じられないクリーミーな味わいで、これをビールと呼んでいいのかと思うくらいに飲みやすいビールでした。 

f:id:n-iwayama:20161205002342j:plain

 

手入れの行き届いたビールとは何かを実例で示すために、あまり洗浄されていないコップにビールを注いたものを見せてもらいました。ビールから気泡が出ています。これは、コップについた汚れをビールが洗い流している状況と聞いて愕然としました。

f:id:n-iwayama:20161205002818j:plain

 

重富さんが丁寧に洗ったコップに注いだビールには気泡は出ていません。美味しいビールの秘密は注ぐ前のコップの手入れにも隠されていたのです。

f:id:n-iwayama:20161205002945j:plain

 

16:30頃になるとスタンドの外にはすでに列ができ始めていました。

f:id:n-iwayama:20161205002708j:plain

 

そんな待ち行列を尻目に、待つこともなくスタンドに入って、しかも特別講義ということで4種類ものビールを一度に味わうことができて、ビールスタンドの中は No Beer, No Life 状態でした。みんなで撮った集合写真からもその様子が伝わってきそうではありませんか?

f:id:n-iwayama:20161205002721j:plain

 

 

生ビール大学の講義の構成

広島生ビール大学の講義は次のように構成されています。

1. ビールの存在理由についての講義

2. ビールの注ぎ方の実演

3. ビールを味わってもらう

 

これは、サイモン・シネックがTEDスピーチで提唱したゴールデン・サークル理論そのものです。

1. Why  なぜビールを提供するのかを話す

2. How  どうやってビールを提供するのかを実演する

3. What  どんなビールを提供するのかを実際に飲んでもらう

 

人はなぜに動かされるというゴールデン・サークル理論にそっているので、講義を聞いた時点でビールが飲みたくなるというわけです。その状態で、目の前で注ぎ方の実演があり、実際に飲んだなら、間違いなく重富ビールスタンドのファンになります。

 

生ビール大学の戦略PR

広島生ビール大学の特別講義を受けて、真っ先に私の頭に浮かんだのが「これは戦略PRだ」ということでした。戦略PRは商品が売れるような空気づくりをするPR手法のことです。ネットの出現、情報洪水、消費市場の成熟という3つの条件によって、ほとんどの広告はスルーされ、消費者の商品を見る目は厳しくなりました。こういう状況の中では、消費者に気づきを与えて「買う理由」を生み出す必要があります。

 

戦略PRで与えるべき気づきは、商品自体への気づきではなく、なぜ商品が必要かという「ニーズへの気づき」です。広島生ビール大学の講義内容はビールの注ぎ方やビールの美味しさではなく、ビールの存在理由についてでした。これはまさに戦略PRそのもです。

 

生ビール大学の目的

ここまでなら、ビール業界に限らず、他にも同様なアプローチをやっている人はいると思います。重富ビールスタンドの何が素晴らしいかというと、その目的の大きさです。広島生ビール大学の目的は「広島を日本一生ビールの旨い街にする」です。「重富酒店を広島一売上高の高い店にする」ではないのです。

f:id:n-iwayama:20161205003420j:plain

 

紺野登先生著作の「利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか」の中にこんな記述があります。

 

「第一の顧客」と「支援してくれる顧客」の2種類の顧客が存在する。「第一の顧客」はその活動によって生活が改善される人々、「支援してくれる顧客」はボランティア・メンバー、パートナー、資金提供者、委託先、職員、その他の人々である。

「第一の顧客」と「支援してくれる顧客」を創造し維持することによって、「社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たす」

 

重富酒店にあてはめてみると、「第一の顧客」は広島市内の重富酒店の納入先飲食店であり、その飲食店のお客さんということになります。広島市内の飲食店が、広島生ビール大学で学ぶことによって手入れの行き届いたビールを提供できるようになり、その飲食店の顧客は旨いビールを飲めるようになります。

 

重富ビールスタンドの最大のポイントは「支援してくれる顧客」の創造です。重富酒店が売上や利益を目指して活動していたとしたら、果たして支援してくれる顧客は創造できたでしょうか?支援してくれる顧客の創造ができたのは、目的が自身の利益にとどまらない社会的な目的「日本一旨い生ビールの提供で広島を元気にする」だったからです。この社会的な目的が多くの人の共感をよんで支援してくれる顧客を創造し、その支援してくれる顧客が重富ビールスタンドの価値を自ら発信することで、さらなる支援してくれる顧客を創造するという正のスパイラルがまわっていきます。私を含め、ビールがダメな人がわざわざ遠方から重富ビールスタンドにやってくる人は、第一の顧客ではなく、支援する顧客としてやってくるのです。

 

重富さんから学ぶべきこと

戦略PRや目的の大切さはもちろんですが、それはそれは幸せそうに重富さんが語った「こんなに楽しい50代がやってくるとは思わなかった」の意味するところこそが、私たちが重富さんから学ぶべきことだと思うのです。

 

会社員ならそろそろ定年の先が心配になる50代。50代からが楽しいなんてどういうこっちゃ、やっぱり自営業は定年がないからええなあという話ではありません。重富さんが楽しいと言ったことの意味するところも、同じく「利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか」に書かれている次の一節で理解できるでしょう。

 

社会的な目的に目覚めることが幸福な人生につながる

 

重富さんが50代を楽しんでいるのは、自身の生きる目的を「生ビールで広島を元気にする」という社会的な次元に引き上げたからでしょう。幸福な人生を送りたいというのは万人に共通する願いです。重富ビールスタンドから学ぶべきは、幸福な人生を送りたいのなら自分の生きる目的を社会的な次元に引き上げろということではないでしょうか。