勇気の世界史 ①ペストとルネサンスと虹と

フリーランス塾主宰の田中先生と塾生によるオンラインセミナー「勇気の世界史」7回シリーズが今日からいよいよ始まりました。初回のゲスト講師はヒューストン在住の大加瀬さんでした。

 

 

オンラインセミナー

開始時刻にはちょっと早いけれど、聴講のスタンバイができたのでZoom会議室に10分前に入ってみたら、なんとすでに50名が参加していてびっくりしました。そして、まるで会場で幕開けを待つ時間のように、田中先生が軽い話で場をあたためていました。

 

 そうこうしているうちにぞくぞくと参加者が増えてゆき、開始時刻には参加者は100名に。マイクのミュートと同時に映像をオフにしていた参加者が多かったようで、Zoom参加者ウィンドウにはID名を示すアルファベットがちらほら。

「顔出し大丈夫な人は顔を出してくれませんか。アルファベットに向かってしゃべるのは辛いです」

と、田中先生からの悲痛とも思えるお願いがなされる一面も。

 

参加者のレディ状態が確認された後、いよいよセミナーの本題に入るかと思いきや、田中先生の問いかけは

「みなさんの中で落語を聞いたことがある人はいますか?」

でした。

 

 続いて、

「落語を聞いたことがある人も多いようですね。落語の演目でお経を唱えながら小言をいう『小言念仏』というのがありましてですね。人間は歳をとると、ものに対しても小言を言うようになるんですね」

と、オーディエンスの意識を小言へ、ものに対してぶつぶつ言うことへとするりと向けてゆきました。

 

 なにゆえにこの流れ?と思っていたら、オンラインセミナー中の田中先生の心境は、オーディエンスに向かって話をしているのではなく、PCに向かってぶつぶつ言っているような感じというつながりでした。

 

 落語の枕のようなこのお話を、田中先生は即興で考えて話したのか、それとも用意周到に準備したのか、気になるところです。

 

ペストとルネサンスと虹と

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 いよいよ今日の本題に入って、「ペストとルネサンスと虹と」のタイトルが画面で共有されました。そもそも田中先生のお話でパワポが提示されること自体が珍しいのですが、今回はパワポの背景がブラックなのは今の世界を覆っている気分を表しているようでした。

 

 コロナウィルスにより世界をとりまく事態は日に日に深刻さを増している中で、明るくて元気が出るコンテンツを届けたいのだと、「勇気の世界史」セミナーの企画意図が紹介されました。

 

 ルネサンス人間性への復活として知られていますが、実はペストからの復活でもあったというのが今回のテーマであり、それがタイトルに表れています。タイトルについている、一見不思議な組み合わせに見える「虹」は、雨上がりの明るい陽射しをうけて空にかかるもので、暗闇から抜け出した時の象徴の意を考慮してつけられたとのことでした。

 

 ペストとルネサンスのつながりには幾重にも連なる連鎖をたどる必要があります。その複雑な連鎖が田中先生の緻密な調査によって解き明かされました。

 

 ペストの流行によって不安になった人々は救いを求めて教会へ集まります。いつの時代にもどんな職業にもいい人と悪い人がいます。ペストが流行した14世紀の神父さんもその例外ではありません。いい神父さんは人々の話を聞き、不安をやわらげるよう懸命に尽くし、その結果、ペストに感染してこの世を去っていきました。一方、逃げ隠れた神父さんは生き残りましたが、説教がうまくありません。

 

 ちょうどその頃、キリスト教会は権威を失い、ペストの流行がおさまった時には教会の権威を取り戻すべく策を練っていて、目をつけたのが絵画でした。

 

 教会というパトロンを得た画家たちは宗教画を描くことになります。生き残った神父さんは画家が描いた宗教画のビジュアルの力を借りながら、聖書の物語を説教しました。つまり、宗教画は中世にパワポの役割を果たしていたというわけです。宗教画をパワポと見立てるのが田中先生の鋭さであり、この見立てが田中先生の話の面白くします。

 

 ここからさらに話は勇気の核心へと迫っていきます。宗教画「受胎告知」は何人もの画家が描いたモチーフです。

 

 フラ・アンジェリコは人間の目で見たものを描こうと遠近法を使って奥行きのある表現で「受胎告知」を描きました。

 

 ヤン・ファン・エイクの「受胎告知」は2種類の絵がZoom画面で共有されました。1枚目はワシントン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されているもので、服のしわや影がクレイジーなまでに詳細に描かれています。2枚目は、ティッセン=ボルネミッサ美術館に所蔵されているもので、思わず息をのむような驚きを与えてくれるものでした。まるで、彫刻を写真で撮影したかと見間違うような絵でした。

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 最後にレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」の絵について紹介があり、田中先生の話が終わりました。受胎告知シリーズの後に、なぜか「最後の晩餐」だけが紹介されたのはちょっと驚きましたが、その謎はほどなく解けました。

 

 

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 田中先生の最後のスライドがこれだったからです。落ちにつなげるために、「最後の晩餐」の紹介があり、最後のスライドには「今は晩餐はダメ」のメッセージにあわせて加工された絵をもってくるところに芸の細かさを感じます。

 

 オンライン孫子女子勉強会の時の田中先生は背景に本棚を背負ってZoomに参加していますが、今日の田中先生が背景に背負っていたのは絵画でした。この心憎いまでの演出をする芸人魂こそが田中先生たらしめているに違いありません。

 

 オンラインセミナーという名前はついていますが、これは田中先生のオンライン創作落語以外の何ものでもありませんでした。枕から始まり、ちゃんと落ちがついていましたから。

 

絵本紹介コーナー

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田中先生からのお話が終わった後は、今回のゲスト講師の大加瀬さんからの絵本紹介コーナーになりました。大加瀬さんは、昨年、田中先生と一緒に英語の絵本の翻訳をした経験をもつ方です。


 大人にとっての絵本はミントタブレットのように、短時間のうちに気分をさわやかにしてくれるものと紹介されました。さらに興味深いことに、世の中にあるものごとで絵本になっていないものはないほどに絵本のカバー範囲は広いんだそうです。

 

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 大加瀬さんからのオススメの絵本の1冊として「はじめての絵画の歴史」が紹介されました。その本の中でヤン・ファン・エイクの紹介もされているそうです。大加瀬さん本人が「これを選んだ私、めっちゃすごい」というように、今回のセミナーで紹介する絵本としてこれ以上ピッタリなものはないでしょう。

 

勇気の世界史

「勇気の世界史」オンラインセミナーで、ペストという人類史上まれに見る疫病を乗り越えた中から、想像力の翼を広げ、新しい絵画技法を切り開いて立ち上がってきた画家達の話を聞いて、私達が勇気づけられたことは言うまでもありません。

 

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 そして、田中先生もまた、この時間に勇気づけられたに違いありません。なぜなら、オンラインセミナー「勇気の世界史」が始まった頃の先生の表情はちょっと心配になるほど疲れているように見えましたが、終わる頃には、心に虹がかかったかのように晴れやかな表情になっていましたから。