アドラー心理学のライフスタイルから学ぶ点と線の生き方

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デパ地下がいつもと違う客層でにぎわった3月14日の孫子女子勉強会は、再び熊野さんを講師に迎えてアドラー心理学について学びました。年度末がせまっていることもあって欠席者がちらほらいて、こじんまりとした人数での開催となりました。私は、前回、不覚にも電車の乗り間違えによる遅刻という失態をやらかしてしまったため、今回は遅刻してなるものかと気合を入れて貸し会議室に向かったところ、なんと1番のりでした。

 

 

アドラー心理学とライフスタイル

孫子女子勉強会でアドラー心理学を学ぶのは2回目となり、アドラー心理学の基本的な考えは知った上で、今回は「ライフスタイル」という切り口から、幸せに生きることについて学びを深めました。

 

熊野さんは、ともにオーストリア出身のユダヤ人であり心理学者であるフロイトアドラーを対比して、アドラーの立ち位置を解説してくれました。

 

f:id:n-iwayama:20190330194117p:plain             アドラーフロイト

 

アドラーフロイトは二人とも第一次世界大戦を経験し、その経験からそれぞれの問いを生み出しました。フロイトは「なぜ人は戦うのか?」と問い、アドラーは「どうすれば人は仲間になれるのか?」との問いを立てました。フロイトは過去から現在を見ようとし、アドラーは現在から未来を見ようとしたとも言えます。

 

アドラーは、立てた問いを探求するために、自分自身と他者の心のクセや行動パターン、すなわちライフスタイルを理解する必要があると考えました。アドラー心理学の根幹をなすライフスタイルがこの日のテーマでした。

 

ライフスタイルは、その人特有の思考、感情、行動の特性のことを指します。別の言い方をすれば、パーソナリティであり、性格のことです。アドラー心理学では、ライフスタイルは自己の世界の現状と理想に関する本人の信念の体系とされ、次の3つの要素からなるとされています。

  • 自己概念
  • 世界像
  • 自己理想

 

「自己概念」は、「私って~」と思っているセルフイメージのことです。「世界像」は、「世の中って~」と思っている人生の現状のことです。「自己理想」は、「私は~でありたい」と思っている自分のありたい姿のことです。

 

この3つの要素のうち、ライフスタイルに一番影響を与えるのは「自己理想」であり、自己理想という妄想に突き動かされて性格が形成されると、熊野さんは付け加えました。

 

私は、新しい概念を学んだ時には、その概念を構成する要素間の関係を考えます。たいていの場合、単純に並列されるものではなく何らかの関係があり、その関係を考えることで理解が深まるからです。ライフスタイルの3つの要素の関係は、次のような関係であると私は理解しました。

 

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         アドラー心理学のライフスタイル

 

自己概念と自己理想は現在と未来の関係で、現在の自分が未来の自分を見据えて進んでいくイメージです。どのように進んでいけるかを象徴するのが世界像です。私達は一人の世界に生きているのではなく、社会という世界の中で生き、その社会環境の影響を受けているからです。

 

ライフスタイル診断

ライフスタイルとは何であるとの説明を受けるよりも具体的に自分のライフスタイルを知る方が、関心も理解もぐんと深まります。そのことを熟知している熊野さんがこの日の勉強会に用意してくださっていたのはアドラーバージョンのライフスタイル診断でした。30問の設問に○△で答え、答えを点数化します。さらに、ライフスタイルの分類でグループ化された設問ごとに点数を合計すると、自分がどのライフスタイルタイプの要素が高く、どのタイプの要素が低いかがわかるという仕組みです。田中先生も含めて参加者全員でこのライフスタイル診断を行いました。

 

アドラーバージョンのライフスタイルタイプは6つに分類され、それぞれのタイプに特徴解説がつけられています。解説は良い面と悪い面が両論併記されています。例えば、ライフスタイルのタイプには「エキサイトメント・シーカー」タイプがあります。このタイプは、好奇心旺盛なのが特徴で、元気で勢いもあるけれども自分自身でも訳がわからなくなったりすることもありそうというような解説が書かれています。

 

血液型や星座をはじめとして、世の中には人をいくつかのタイプに分類するシステムがありますが、数個のタイプに分類できるほど人は単純でないことは、孫子の教えをテーマにもう何年も勉強会を続けている私達は十分に承知していました。それでも、ライフスタイル診断にはおおいに盛り上がりました。

 

ライフスタイル診断で、いつもとはまた一味違った盛り上がりを見せている最中に遅れて勉強会に参加したメンバーがいました。そのメンバーが席につくと、熊野さんはライフスタイル診断の用紙を差し出して設問への答え方を説明しました。点数計算の段階になると、「俺がやってやる」と、隣に座っていた田中先生が診断用紙を自分の手元に引き寄せて計算を始めました。熊野さんの心配りと田中先生のタスク分担のおかげで、遅れて参加したメンバーも含めて全員がライフスタイル診断を行うことができました。

 

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ライフスタイル診断の計算をする田中先生

 

各自の診断結果にひとしきりわいた後で、熊野さんはこうおっしゃいました。

「ライフスタイルに優劣はありません。100人いれば100通りのライフスタイルがあるほどに人間は多様性にとんでいます。でも、面白いことに、コミュニティにはライフスタイルの特徴が同じ人が集まる傾向にあるんですね

 

そういう話を聞けば、もちろん孫子女子勉強会メンバーの特徴は何か?と知りたくなるのが人情というものです。そうしたらやっぱりありました。全員が「エキサイトメント・シーカー」タイプの要素が高かったのです。まあ、言われてみれば当たり前です。仕事が終わってから貸し会議室に集まって、孫子をテーマにした勉強会に参加しようというメンバーですから、好奇心が旺盛に決まっています。

 

早期回想

ライフスタイルについて体感的に理解した後で、熊野さんは、私達に質問を投げかけながら、ライフスタイルについての学びを進めていきました。

 

はじめの質問は

「ライフスタイルが形成されるのは何歳だと思いますか?」

でした。私は「12歳」と答えました。ドンピシャではなくてもかなりいい線を言っているはずという確信をもって。なぜなら、3人の子ども達のことを思い浮かべると、小学生の間にはっきりとそれぞれのライフスタイルが確立されていたと思えたからです。

 

私の他には、「25歳」や「40歳」と答えた人がいました。きっと、そう答えた背景には、そう答えるに至った何がしかの経験をもっていたのだと思います。

 

アドラー心理学では、はじめのライフスタイルが形成されるのは10歳と考えられているそうです。生まれてからライフスタイルが形成されるまでの10年を長いとみるか短いとみるかは捉え方次第ではありますが、人生100年と考えると、かなり早い段階でライフスタイルが形成されることになります。

 

熊野さんからの次の質問は、

10歳くらいまでのエピソードで強烈に覚えていることは何ですか?

というものでした。

 

これに答えたのが、孫子女子勉強会の誰もが大好きな板谷さんでした。

私、すごく覚えていることがあるの。ピアノを習いたくて習いたくて。それもお友達が習いに行っていた同じ先生に習いたかったの。だけど、うちにはオルガンしかなかったから、その先生に「オルガンしかないからあなたはダメ」と言われて、すごく悲しかったの。

 

大人になった私達にとっては、「そうそう世の中ってそういう不条理なことがあるのよねえ」ですませるかもしれませんが、この世に生を受けてから10年に満たない時の経験としては、人生の生きづらさがどれほど深く心に刻まれることでしょう。ああ、いつ見ても満面の笑顔でいる印象の板谷さんでもそんな経験があったんだなあと思ったのですが、このエピソードには続きがありました。

それからしばらくしてから、家にピアノが届いたの。その嬉しかったことは今でもはっきり覚えているわ。

 

いつものように華が咲いたように明るい笑顔で板谷さんは言いました。板谷さんの身におこったドラマチックな展開に、その場にいた誰もの口元が思わずほころびました。願いが叶わない深い悲しみから一転して、願いを叶えてくれるピアノが届いた時の喜びはどれほどだったか。

 

この10歳くらいまでの、ある日あの時の強烈な思い出のことは「早期回想」と呼ばれて、ライフスタイルの世界像の形成に影響を与えるのだそうです。ある出来事をどう捉えるか、どうストーリーに組み立てるかの語りから、その人の世界像がわかると熊野さんから解説がありました。

 

その解説を聞いた板谷さんが再び言葉を発しました。

あー、私がなぜ私なのかがわかったわ!私、「人生って面白いわー」と思っているけれど、この経験があったからなのねー。

 

きっと誰にでも早期回想があるはずです。私にもあります。私の早期回想はこんなエピソードです。

 

確か夏休みの最終日だったと思います。どういういきさつだったのかの記憶は定かではありませんが、宿題の絵画ができていなかった私を見かねた母が、床の間に生けてあった花の絵を描いてくれました。絵を描き終わった母が出かけた後、私は一人、床の間の前に立って母が描いた絵を見つめていました。

 

その時の私の気持ちはどうだったかというと、「ラッキー、これで宿題ができなかったと言わずにすむわー」などというものでは全くなく、ただひたすらに悲しい気持ちでいっぱいでした。

 

それから大急ぎで新しい画用紙を取り出し、自分の手で絵を描きました。うまくは描けませんでした。けれども、その絵に自分の名前を書くことには微塵の後ろめたさも感じることはありませんでした。

 

このエピソードから、私は、自分の手を動かしていないものに自分の名前をつけることは自分のアイデンティティを放棄することだと深く心に刻みました。

 

10歳までの強烈な体験がライフスタイル形成に影響し、10歳頃にはライフスタイルが決まっている。10歳までがライフスタイル形成のひとつの大きな区切りであることが明らかになりました。

 

「何歳までならライフスタイルは変えられるか?」

という弟子の問いかけに対して、

「死ぬ直前まで変えられる」

アドラーは答えたそうです。

 

アドラーは、自分の人生の脚本家は自分であり、ライフスタイルは固定化されたものではなくいつでも自己決定できると説きました。不完全な自分を知って、変わりたいという思いを誰しもが持っています。ライフスタイルは死ぬ直前まで変えられるとするアドラー心理学は、変わりたいと願う人にとって希望を与えてくれるはずです。

 

ライフスタイルの自己決定性

いつもは明るく笑っている田中先生が、この日の勉強会では途中から神妙な面持ちで何か考え込んでいることに気づきました。その理由は田中先生のこの一言に凝縮されていました。

「今日の内容は親としたらドキッとしますね」

 

確かに、10歳までにはじめのライフスタイルが形成され、その形成への親の影響の大きさは計り知れません。それは板谷さんの早期回想エピソードからもわかります。私も子をもつ親として、親が子に与える影響の大きさを思うと、その責任の大きさに立ちすくんでしまいそうになります。

 

その一方で、たとえ子どもが小さくとも親が子どもに与える影響力はそんなにないのではないかとも思っていました。もし、親の影響が大きいのなら、同じ家庭に育った子どもは似通ったライフスタイルが形成されてもおかしくありません。けれども実際には、同じ親から生まれ、同じ家庭環境で育っても、こんなにも違いが出るのかと思うほどに、3人の子ども達は3者3様に個性あふれるライフスタイルが形成されました。

 

この勉強会でライフスタイル形成という重要なキーワードを得たのですが、あと一歩、つかみきれないモヤモヤを抱えてしまったのです。その日から、私は無意識下のうちに、いつもライフスタイル形成のことを考えていました。少しずつ言語化できる見通しが立って、ようやく書けるようになりました。

 

早期回想は、自分が経験したある出来事からライフスタイルが形成されることを教えてくれます。このことを紐解いてみると、まず始めに動くのは感情です。その後で意識的/無意識的に考え、行動にいたります。感情から行動までの一連の流れは経験と呼ばれるものです。そして、ライフスタイルとはその人特有の思考、感情、行動であるという定義を思い出してみると、経験とはライフスタイルそのものです。さらに、私達は経験をするだけでなく、遭遇した出来事に意味づけを行います。板谷さんの早期回想の例で言えば、「人生って何がおこるかわからない面白いものなんだ」というような意味づけがされるようなイメージです。

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         出来事と経験

 

経験する時にはまず感情が動くとすると、この感情はどうやっておこってくるのかという疑問が次にわいてきます。例えば、嬉しいという感情は、嬉しいと思おうと思っておこってくるものではありません。思考はコントロールできても感情はコントロールできません。私は、感情はその人のライフスタイルからおこるのだと思います。同じ出来事に遭遇しても、人によって異なる感情を抱くのはそれぞれがもつライフスタイルの違いからくると考えられます。

 

経験の後に行う意味づけが、ライフスタイルをカタチづくる元となってその人に還元されます。こうやって、私たちは様々な出来事を経験し、意味づけを行い、それによってライフスタイルを少しずつ更新しながら生きているのではないでしょうか。

 

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    意味付けとライフスタイル

 

だとすれば、子どもが遭遇する出来事に対して親は影響力をもち得ますが、意味づけには影響力をもち得ないのではないでしょうか。反面教師という言葉があるように、客観的には望ましくない出来事に遭遇したとしても、その出来事をプラスの経験として意味づけすることはできます。アドラーが言うように、自分のライフスタイルは自分で決めているのです。それはたとえ年齢がどんなに小さくてもです。

 

強烈に覚えているエピソードが早期回想でしたが、板谷さんのエピソードにしても私のエピソードにしても、出来事そのものは特殊なものではなく、ごくありふれた日常の出来事です。おそらく、私達は日々の出来事を経験する積み重ねによって、意識的であれ無意識的であれ意味づけを行い、日々、ライフスタイルを更新し続けているのだと思います。板谷さんにしても、早期回想されたエピソードだけが板谷さんたらしめているのではなく、これまで生きてきたすべての経験が板谷さんのライフスタイルをつくりあげたのであって、どんなに真似ようとしても板谷さん以外の誰も板谷さんのライフスタイルに近づくことはできないのです。板谷さんに限らず、私もあなたも誰もが自分にしかないライフスタイルをもっていて、そのライフスタイルは自分で決めたものなのです。

 

時間的展望という点と線の生き方

ここまで書いて、アドラーのライフスタイルについてのモヤモヤは晴れたのですが、もう少し探求できそうな気がしたので、もうしばらく自分の中でこのテーマを抱えることにしました。そして、アドラーのライフスタイルの理論は、ユダヤ系心理学者であるクルト・レヴィンが築いた時間的展望理論と根幹は同じであることに気づきました。時間的展望とは、現在から再構成された過去や現在から予期された未来を含んで統合した「今」を指します。私達は点としての今を生きているのではなく、過去と現在と未来をつないだ線としての今を生きているという考え方です。

 

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     時間的展望

 

ライフスタイルが過去の出来事の意味づけによって形成され、ライフスタイルには未来の自分である自己理想を含むということは、ライフスタイルもまた、現在の点としてあるのではなく、現在と過去と未来をつなぐ線としてあることを意味しています。これは、時間的展望の考え方と同じです。

 

時間的展望は、現在の行動に深く関わっています。意味ある過去と未来の目標という視点で今を見つめることで、困難な状況にあってもそれを乗り越える行動をとることができると考えられています。つまりは時間的展望の考え方をもつことは、行動への後押しになるということです。どんな状況であっても、その状況の捉え方は自分の考え方次第であり、それが行動に反映されるということです。

 

私達は、今という点を精一杯に生きながら、過去と未来をつなぐ線としての今をも生きることで、自分の行動もライフスタイルも変えることができるのです。

 

アドラー心理学のライフスタイルを学んだことで、自分の行動がどうやって生み出されているのか、自分の過去の経験を今にどういかしていけるのか、目標をもつことがなぜ大切なのかがわかりました。

 

今回は自分の中でアドラー心理学のライフスタイルを消化するのに時間がかかって、なかなか言語化できませんでしたが、あきらめずにテーマを抱え続けてよかったと思います。思うようにはならない事情は色々あっても、先人が残してくれた考え方を学ぶことで、すべてのことには意味があると希望をもって生きていけます。いくつになっても学び続けて、考え方をアップデートしていこうと決意をあらたにしました。

発見と学びの旅は死ぬ直前まで続けようと思います。