ものづくりイベントを成功に導くもの

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高知県富士通が官民恊働で行うものづくりイベントをこれまで3回開催してきました。ものづくりイベントはカタチのあるアウトプットが生み出されることが魅力ですが、同時に成否がアウトプットのカタチとなって見えるということでもあります。3回目となるものづくりイベントでも素晴らしいアウトプットが生まれました。その理由について考察しました。

 

 

ものづくりイベントの仕組み

3回目となる官民恊働のものづくりイベントを11月18日と12月2日に開催しました。イベント開催の目的は、ものづくりを通じて首都圏の人に高知県産品である土佐茶と高知トマトを知ってもらうこと、その取り組みの発信を通じてこれらの産品を知ってもらうことでした。ものづくりイベントの内容は、土佐茶と高知トマトの魅力を高知県で生まれたよさこい祭りの必須アイテムである地方車(トラックに装飾をしたもの)と鳴子をつくることでした。

 

ものづくりイベントは、インプット情報とものづくり環境を準備し、イベントの出口を設計し、インプットからアウトプットのアイデア発想に至るプロセスを設計することが運営サイドの行うことになります。

 

インプット情報として用意したのは、よさこい祭り、土佐茶、高知トマトのそれぞれに詳しいゲストの方からのトークに加えて、実際の地方車や鳴子の写真、土佐茶や高知トマトの試食・試飲でした。

 

つくるにあたって用意したものづくり環境は、高知県産の土佐材と土佐和紙、ものづくり工房であるTechShopの工作機械の教育受講権と使用権、ミニチュア地方車の設計図、鳴子の制作キットでした。あらかじめ用意された制作素材以外に参加者の素材持ち込みも可としました。

 

アウトプットはミニチュア地方車と鳴子とし、それらを高知県にあるよさこい情報交流館に展示して、来年よさこいチームを立ち上げる人達の参考にしてもらうことをイベントの出口としました。

 

これらをまとめると下記の図になります。地域と都市、行政と民間がそれぞれの資源を持ち寄って参加者のアイデアとスキルを発揮する場をつくり、そこから生み出したアウトプットを地域に活かすというのがものづくりイベントの仕組みです。

 

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          ものづくりイベントの仕組み

 

過去2回のものづくりイベントでもアウトプットの展示は行いましたが、今回は展示したアウトプットを来年のよさこいチームに参考にしてもらう目標を新たに加えました。この目標を加えたことで、アイデア発想のプロセス設計が思いの外難しくなりました。この手のイベントでは今までにない未来志向のアイデアを出すことが面白さであり、参加者も自由に発想することを楽しみに参加します。けれども、今回は未来志向のアイデアと来年に現実世界で参考になるアイデアという一見矛盾したアイデアを出すようにプロセス設計する必要がありました。一緒にプロセス設計したTechShopの担当者と一番議論をしたのは、自由度と制約をどう調整してこの矛盾を解くかという点でした。

 

ものづくりイベントのアウトプット

ものづくりイベントなので、まずはそのアウトプットがどうであったかが問われます。今回は先に書いた矛盾の懸念に加えて、ミニチュアのトラックをつくるというハードルがあり、アウトプットがどうなるのかわからないという不安を抱えてイベント当日を迎えました。

 

結果的には私たち運営サイドの懸念は全くの杞憂に終わり、3回のものづくりイベントの中でも最もクリエイティブなアウトプットが生まれました。どんなアウトプットであったかは、その制作過程も含めた動画で紹介します。

 

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ものづくりイベントの成功要因

今回のものづくりイベントはアウトプットからして成功と呼べる結果であったと言えます。その成功要因は何だったかというと、参加者に恵まれたことに尽きます。東京では毎日のようにどこかしらでイベントが開催されています。そんな中で2日間の参加が必須となるイベントの参加者を集めるのは並大抵ではありません。今回のイベントも集客が簡単だったかというと決してそんなことはありませんが、幸いにも定員を満たす方に集まっていただくことができました。さらに、無料のイベントにも関わらず、ドタキャンする人が一人もいなかったというのはすごいことでした。

 

参加者がものづくりイベントで行うことは、インプット情報を得て、ものづくり環境を使って、定められた時間内に定められた条件を満たすアウトプットをつくり出すことです。アウトプットをつくり出す過程はアイデア発想と、メイキング(アイデアをカタチにすること)の2つに分けられます。どんなに斬新なアイデアが出ても実際にカタチにするナレッジやスキルがなければいいアウトプットにはなりません。どんなにナレッジやスキルがあっても貧相なアイデアではいいアウトプットにはなりません。つまり、いいアウトプットができるためにはアイデア発想とメイキングの両方の質が高い必要があります。

 

ものづくりイベントの運営者はアイデア発想のプロセス設計を行うので、アイデアの質はプロセス設計にも依存します。が、メイキングは完全に参加者に任せられます。つまり、ものづくりイベントの成否は参加者によって決まると言えるわけです。

 

参加者の何がものづくりイベントを成功に導くのか

ものづくりイベントの成否をわけるのは参加者であることがわかりました。では、参加者の何がものづくりイベントを成功に導くのでしょうか?チームで行うものづくりを観察していると、興味深いことが発見できました。

 

[チームマネジメント]

実際にメイキングの作業を行う過程になると、どうしても分業が必要になります。その日初めて会ってできたチームにも関わらず、それぞれができることをチーム内で共有してスムーズに役割分担を決めるチームマネジメントがどのチームでも自然と行われていました。中にはリーダー的存在がチームのパフォーマンスを最大化するように、それぞれに適したタスクに分解して振り分けるというマネジメントが行われていたチームもありました。チームで出したアイデアを実現するという共通目標と限られた時間という制約と創作意欲をもった参加者が揃うと、チームマネジメントがうまくいくように思います。

 

[ナレッジのシェア]

役割分担のもとに分業を行うとはいえ、実現に向けてそれぞれがもっているナレッジをチーム内でシェアして、いかにして実現するかを全員で考えようとする動きが見られました。さらには、各チームで共通に必要となるミニチュア地方車の設計図を一番先につくった参加者がイベント参加者全体に設計図をシェアしました。同じテーマのものづくりに取り組むことで、チームは違ってもイベント参加者がナレッジをシェアして全体としてよりよいものを生み出そうという雰囲気がありました。

 

[若手へのスキル伝承]

ものづくりは基本的に分業制で行われるため、制作時間は各自の作業に没頭するシーンがほとんどですが、今回は熟練エンジニアが若手エンジニアにナレッジやスキルを伝承するシーンがよく見られました。スキル伝承を受けて制作に取り組むことで若手エンジニアにも活躍の場面ができると同時に制作も進みました。

 

[オーバーアチーバー]

そして、特筆に値するのが、オーバーアチーブする参加者の存在です。今回のイベントはコンテストでも何でもなく、賞金が出るわけでもありませんでした。にも関わらず、11月18日と12月2日の間の試作期間中に、就業後や休日にTechShopや自宅で制作を進めたり、中には徹夜で制作を進める参加者もいました。オーバーアチーブする参加者を特徴づけるのは成長意欲と貢献意欲です。素晴らしいアウトプットを生み出しても、次回はさらによりよいものを生み出したいという無限の成長意欲をもっています。自分のスキルや生み出すもので社会の役に立ちたいという純粋な思いをもっています。こうした参加者の熱が同じチームの参加者にも伝播してアウトプットの質があがり、イベントが熱量を増しました。

 

最後に、参加者の創作意欲をより引き出したのは、アウトプットを展示する場を調整した主催者である高知県の功績にもあることを付け加えておきたいと思います。組織の縦割りが色濃い自治体において、イベント主催部署とは異なる組織に対して展示の調整を行うのはそう簡単なことではありません。

 

お披露目の場を用意した主催者と、誰一人ドタキャンすることなく自分の時間をものづくりに費やす創作意欲をもった参加者の両方が揃ったことで、いいイベントになりました。参加者からの「次回も楽しみにしています」の声は、参加者にとってもいいイベントであったことを物語っていました。