こだわりと無形のはざまで

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コロナ禍で完全オンラインでの開催になってから、孫子女子勉強会の学びが深くなった気がしていましたが、今回は学びの次元がひとつあがったような勉強会でした。

 

 

新しくはじめる心構え

 2020年6月の孫子女子勉強会が開催されたのは、緊急事態宣言は解除されたものの、コロナウィルスが収束したわけでも、外出移動に不安がなくなったわけでもない6月15日のことでした。

 

 私は相変わらずの在宅勤務を続けており、勉強会への参加のための移動距離はほぼゼロにも関わらず、仕事の電話が長引いて遅刻しての参加となってしまいました。

 

 田中先生が新しく何かを始める時の心構えについて、こんな話をしている場面から私は参加しました。

 

「コロナ禍によって誰も予想していなかったことがおこったように、何が起こるかわからない。つまり、計画通りにいくわけがない。だからといって、孫子は計画するなとは言っていない。

 

計画、すなわち作戦を立てることは、考えたり、気持ちをひとつにしたりするためにも重要であるが、計画に縛られすぎてはいけない。いったん計画を立てた後は、計画を忘れて、目の前に集中することが大事」

 

 ここで、今回の孫子の兵法の一説が紹介されました。いつもはピンポイントの部分を抜き出して紹介してくれるのですが、今回はかなり長い部分が引用されました。

 

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 一段落目の意味はこうです。

 どこで、いつ戦うかを知っておかなければならない。さもなくば、味方同士で助け合えず、主導権を握ることもできない。

 

 二段落目のポイントはこうです。

 敵にこちらの態勢を察知させない究極の態勢は無形である。

 

 三段落目のポイントはこうです。

 軍の形勢は水の性質に似ている。水は岩があれば避けて流れるように、軍も時々の状況にあわせて戦う臨機応変が大事である。

 

 特に今回のキーワードである「無形」について、田中先生自身の言葉で解説してくれました。

こだわりを持つのはいいことのように思えますが、それは形をもつことなんですね。ですから、こだわりを持つのはマイナスになるんです。無形であればどんな状況にも対応できるんです。

 

切羽つまった状況の時は勝ちパターンにこだわるとだめなんです。

 

こだわりがダメというわけではなく、こだわりにはレベルがあるんです。こだわりのレベルを上げることが必要なんです。

 

臨機応変は何でもいいということではなく、何かのこだわりはいるんです。今まで考えなかったことへのこだわりが」

 

 このあたりから、いつもの孫子女子勉強会とは違う様相を呈してきました。いいことだと思っていたこだわりは形を持つことでマイナスなのかあと思ったのも束の間、何かのこだわりは必要とまた揺り戻され、そのこだわりとは今まで考えなかったようなこだわりであると、混沌の海へと放り出されたように状態になりました。

 

他人を気にしない

 そんな混沌の中で進んだ次の話題は「他人を気にしない」についてでした。田中先生から、またしても大きく揺さぶられる問いかけがなされました。

 

「共感と同調って似てるけど違いますよね。同調って聞くと、何か続く言葉が思い浮かびませんか?」

 

 誰もがすぐに「圧力」を思い浮かべました。そして、「共感」と「同調」は似ているけれど、「共感」はポジティブな言葉で、「同調」はネガティブな言葉という違いがあることを理解しました。

 

 田中先生が続けます。

「みんなと一緒に感じ合いたいけれど、みんなと一緒は嫌なんですよね」

 

 田中先生の言わんとすることはよくわかる一方で、この似て非なる「共感」と「同調」の境界線を自分の中で落とし込めない混沌さが残ります。

 

 混沌さが増す中で、さらに田中先生が続けます。

 

「お金と金額でしか人を見なくなると、何かが失われていきます。ですから、お金儲けと何かの両立が必要なんですが、それが何かはまだわかりません」

 

 これも田中先生の言っている言葉は理解できますし、きっとそれぞれにお金儲けだけではない大事な何かに思いをはせていたと思います。けれども、それをどうやって両立させるのかは混沌としていたと思います。

 

 時間が経つにつれて混沌さはどんどん深みにはまっていく感じでした。いつもなら田中先生以外からも何がしかの発言が飛び出すのですが、この日、Zoomのバーチャル空間で共有されていたのは、それぞれが混沌の中で沈思黙考する時間でした。

 

新しい価値観創造の姿勢

 私達の混沌を見通したかのように、田中先生が言いました。

「深い問題に対峙する時は悩んで当然なんです。大混乱の時は新しい価値観を創造する時です」

 

 この言葉を聞いて、ちょっと気持ちが軽くなって、その後に続く話を吸収する通り道ができたような気がしました。

 

 新しい価値観を創造するために必要なのは「姿勢」ではないかと田中先生は言いました。これまで大事だとされてきた専門性や方法論よりも姿勢ではないかと。

 

 特に2つの姿勢が大事と書かれたスライドが提示されました。

 

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 私達はつい2項対立でものごとを語りがちです。例えば、これからの働き方はサラリーマンがいいのかフリーランスがいいのかなど。田中先生は、2項対立の危うさを、3つ目の選択肢が消えることや、そもそもその問い自体に意味がない場合があることを指摘しました。簡単に答えを求めず、問いを問い直す姿勢の大切さを教えてくれました。

 

 自分が学んだことを誰かに教えてお金を稼ぐのが、田中先生を含めた講師や著者と呼ばれる人達です。会計という専門分野とは異なる分野のことを新たに学んで本を書いている田中先生は、十分に学んだ後にお金を稼ぐやり方は無理と感じているそうです。不完全な情報でも誠実に伝えて、学びながらお金を稼ぐ姿勢に変えようとしているそうです。

 

こだわりと無形のはざまで

 ここまできて、もう一度、田中先生は「無形」について語りました。

 

「イヤなこだわりを手放して無形になることが大事なんですね。勇気というのは動くことで、結果ではなくてやったことに価値があるんです。人が突き動かされるのはコンテンツだと思っていたんですが、そうではなくて姿勢なんですね。やったことがない分野でも声をかけてもらえる仕事をやっていきたいんです」

 

 毎回、この勉強会ってこういうことだったよねと、自分なりに咀嚼してブログを書こうとしているのですが、今回はそんなにスッキリとまとめることはできそうにありません。もうそんなこだわりは捨てて、今、考えられることだけを書き記しておこうと思います。

 

  • こだわりを手放して水のように無形になっても、水が高きから低きに流れる性質は変わらないように、変えてはいけないことがあること
  • 共感と同調のように似て非なるものの違いに意識を向けること
  • サラリーマンかフリーランスかのように2項対立のわかりやすい問いは問い自体を疑ってみること
  • お金儲けか大事なことかと対立軸で考えずに両立を考えること
  • 新しいことをやってみると、結果はどうであれ、誰かから応援してもらえたり声をかけてもらえたりと、仲間を得られること

 

 これらの新しい価値観を自分のものにするためには、同じ次元でものの見方を変えるのではなく、ものを見る次元をひとつ上げることが必要な気がします。

 

 勉強会の最後に田中先生はこう言いました。

「今日の勉強会ではうまく頭が整理できていないことを話しました」

 

 先生自身がまだ整理できていない内容を話してくれたわけですから、それを聞いた私達がスッキリわかるなんてことはあろうはずがありませんでした。よくよく考えてみれば、これはとても有り難いことでもありました。

 

 田中先生が学んだことを教えてもらうのではなく、田中先生自身が抱えている問いを共有してもらえるのです。こういう学びの場はなかなかありません。孫子女子勉強会の学びの次元もひとつあがったのかもしれません。