4月の孫子女子勉強会開催からブログを書くまでにずいぶん時間が経ってしまいました。『勇気の世界史』オンラインセミナーに気をとられて、孫子女子勉強会ブログが後回しになってしまいましたが、孫子の兵法を中心に据えたこの勉強会はやはりただものではありませんでした。
待ち遠しかった勉強会
4月の孫子女子勉強会は、もちろん完全オンラインで開催されました。3月の勉強会から4月の勉強会までの間に、緊急事態宣言が出され、外出制限は強まり、田中先生は「勇気の世界史」オンラインセミナーをすでに3回も開催するなど、目まぐるしい変化がありました。
孫子女子勉強会仲間の多くが「勇気の世界史」にも参加しているので、田中先生とは画面越しに頻繁に会っている気がするのですが、この勉強会で気心のしれた仲間と一緒に会うと、また違った印象を受けました。
「アウェイからホームに返ってきた感じがしますね」by 田中先生
「勉強会までの一ヶ月が待ち遠しかった」by 参加メンバー
田中先生にとってもメンバーにとっても、孫子女子勉強会は特別な場であることが、コロナ禍のおかげでより鮮明になりました。
田中先生の話に絵画の話題が盛り込まれるようになってから、田中先生がパワーポイントのスライドをつくることが常態化しました。今回のタイトルスライドには虹の絵が貼られています。コロナ禍の雨があがった後に虹がかかった景色について語ろうの意味がこめられていました。
今こそ孫子の兵法
正々堂々と戦って負けるより、ずるくても負けないことが大切と説く「孫子の兵法」は、まさに今向きの教えであるというところから、この日の話は始まりました。この日とりあげた一説は、孫子の兵法の中でも基本中の基本のこれでした。
「彼を知り己を知れば、勝、乃ち殆うからず
天を知りて地を知れば、勝、乃ち窮まらず」
「彼」は相手のこと、「己」は自分のことは言わずもがなです。「天」は気象条件のこと、「地」は自分が立っている場所のことです。
1枚の絵で表すとこうなります。孫子女子勉強会仲間のひめさんがグラレコで描いてくれた絵です。
現状分析といえば、つい己の強みや弱みにフォーカスしがちですが、この4つ全部を把握し分析した上で戦うことが大切と、田中先生は強調しました。
さらに、孫子女子勉強会でも何度も出てきた一説があらためて紹介されました。
「勢にもとめて、人に責めず」
将たる者は、構成員個々人の能力に還元せず、集団としてのエネルギーが高まるようにもっていくものであるの意です。
「コロナ後にどんな勢を出していくかを今のうちから考えよう」と田中先生は呼びかけました。
ブレイクアウトルームでストレス談義
ここからいよいよ本題かと思ったところで、田中先生は急ハンドルを切るような展開を見せて、こう言いました。まるで新しいおもちゃを手にした子どものように目を輝かせながら。
「ここでグループに分かれて、コロナ禍でのストレスについて話してもらおうと思います。ブレイクアウトルーム機能を使ってみたくてしょうがないんですよ」
話の現在地がどこにあるかなどお構いなしに、私達はグループ分けされた部屋で、井戸端会議のようにわいわい楽しくおしゃべりしました。ストレスについて話すというより、ストレスを発散するかのように。
ブレイクアウトルームが終了して全員が集合した時、井戸端会議の裏でおこっていた出来事を聞いて、全員で大爆笑しました。Zoom上ではなく全員が同じ場所に集まっていたならば、あまりの笑い声の大きさに何事かと驚かれたことでしょう。
なんと、オンライン上で迷子になった人がいたのです。それが女子勉強会に特別に参加を許可されている男性の熊野(仮名)さんというのがまた笑えます。ことの顛末はこうでした。熊野さんは、音声状態があまりよくなかったので、いったんZoomから抜けました。そのわずかな時間に田中先生がグループ分けを実行しました。熊野さんがZoomに入り直した時には、すでにグループ分けが完了していて、熊野さんが1人とり残された状態になったというのです。
老人と若人の違い
ひとしきり大笑いした後で、またしても田中先生の変化球的な問いが投げられました。
「老人と若人の違いって何だと思います?」
孫子の兵法の一説とも、ストレスとも接点が見つからないじゃないかー!などと思う暇もなく、思考のペースをすっかり田中先生に握られて、考え始めてしまうのが毎回悔しいところです。
田中先生の説はこうでした。
老人マインド: 今は幸せだけど将来は不安
若人マインド: 今はダメだけど将来は明るい
田中先生は、今の日本のマインドは老人マインドで、不安な将来に備えようと貯金をしたり保険に入る人が多いこと指摘しました。さらに、若者マインドに目を向けると、足元が真っ暗な中で、迷わずに目指せる夜空の星をどう見せられるかが大事だと力説しました。
Zoomの登場が変えたもの
若者に遠くにある光を見せるのが教育だとすると、教育のあり方にも目を向けねばなりません。教室で教えていた時から、iPhoneに代表される個人情報端末の普及、そしてZoomの登場で、情報のやりとりが変わったと田中先生は言います。
教室での教育は、一人の先生が教室というスペースに入るだけの生徒に教えます。ハードウェアの進化によって個人が一台の情報端末をもつようになり、一人の先生から多数の生徒にネット配信型の教育ができるようになりました。そこにソフトウェアの進化でZoomが登場し、先生と生徒の間での双方向、生徒同士での双方向のやりとりができるようになりました。
コンテンツの変化
教育コンテンツの変化に目を向けてみると、こちらにも変化がおきつつあると田中先生は言います。その変化を表したスライドがこれです。
オンラインでn対nの情報のやりとりがなされる環境では、従来の専門的スキルを教えるアカデミックな学びは成立しないと田中先生は見ています。それに変わる新しい学びの形は、田中先生もまだ言葉にできていないので、仮の名前として「井戸端力」と今は呼んでいるそうです。
そういう、名前がまだついていない新しい概念をシェアしてもらえるのが孫子女子勉強会の特権です。それにしても、井戸端力とは女性がいかにも得意そうな響きでワクワクします。
リアルな教室であろうとオンラインのZoom会議室上であろうと場所的な違いに関係なく、コロナによってコンテンツの風向きが変わると田中先生は言います。井戸端力の方に風が吹き始めていて、これは質的な変化というより文化的な変化だというのが田中先生の見立てです。
田中先生、原点に帰る
講師として教える立場にもある田中先生が熱く語り出しました。
「オンラインだと1時間も講師が話すのは無理だと言われるんですが、本当かと思って『勇気の世界史』で試しているんです。実験が必要ですから。
キーワードは面白さだと思うんです。原点に返って、何を教えるかと考えた時に、面白さを教えたいと思ったんです。
絵画について話す資格が自分にあるのかと悩んだんですが、絵画が好きならいいと割り切りました。伝えたいことに惚れ込んでいることが大事だと思ったんです。惚れ込んでいないけど金儲けのために教えると、面白くないのが伝わってしまうんですね」
熱弁をふるった後、田中先生はこんな言葉で勉強会をしめくくりました。
「孫子女子勉強会始まって以来のまじめな話をしてしまいました。
新しい時代がやってきます。コロナによってやってくるというより、コロナによって少し早まっただけです。井戸端力を爆発させて、これからの時代の見本になりましょう」
孫子の兵法にこう学べ
ここまで書いて、さて、今回の勉強会をブログでどうまとめようかと全体を見返してみたところで、おぉ!と気づきました。
この日紹介された孫子の兵法の一説に忠実に、田中先生は「彼」と「己」と「天」と「地」の4つを把握分析し、それをこの勉強会で披露してくれたのです。
孫子の兵法の一説を聞いて、それを理解するだけでは、全くもって学んだとは言えなかったわけです。田中先生は、孫子の兵法にこう学べと、自らの実践をもって教えてくれたのです。
井戸端力爆発
リアル会場で勉強会が行われたならば、終了後にもれなく懇親会がセットでついてきますが、オンライン勉強会では、終了した時点から各自の生活にもどります。
となるはずが、この日は、終わった直後から、孫子女子勉強会のFacebookグループへの書き込みが止まりませんでした。誰かが書き込むと、あっと言う間にそれへの返信の書き込みがなされ、ほとんどリアルタイムチャットのようでした。
私達は田中先生の教えの通り、しっかり井戸端力を爆発させたのです。なんて素直な生徒たちなんでしょう!