絵画を通して流れを読む

f:id:n-iwayama:20191124203221j:plain

 

孫子女子勉強会に参加した後は、毎回、答えが得られてスッキリなどとは程遠く、言葉になる前の問いのようなものが渦巻くもやもやした感覚を抱えます。そして、渦巻いた問いのようなものを言葉にするまでが私にとっての学びの時間です。今回は孫子女子勉強会の講師である田中先生が見ているものを推測することにチャレンジしました。

 

 

フランス絵画の流れ

会計の世界史」が世に出て以来、世界の美術館をめぐり、絵画への造詣を深めている田中先生が、2019年最後の孫子女子勉強会に持ち込んでくれたテーマは「フランス絵画の歴史と人材育成」でした。

 

 フランスといえば、「芸術の都パリ」と言われるほどですから、活躍した画家が多いというイメージがあります。が、勉強会冒頭はこんなお話から始まりました。

 

「フランスが絵画での存在感を放ったのは一時期に集中しています。フランスにいた画家で天才と呼ばれたのは印象派の20人ぐらいです」

 

 フランスで後世まで残る名画が生まれたのは、ある時期に集中しておこったことに田中先生は着目しました。そして、その秘密を解き明かすべく、フランス絵画の歴史について教えてくれました。

 

 フランソワⅠ世がフランス国王となった1515年当時のフランスは、決して芸術が盛んな国ではなかったそうです。自国で絵描きを育てたいと考えたフランソワⅠ世がレオナルド・ダ・ヴィンチをイタリアからフランスに呼び寄せたことが、かの有名な「モナ・リザ」がルーヴル美術館所蔵に至った所以です。

 

 1648年に王立彫刻アカデミーが設立され、芸術家を育てる教育システムが整備されるとともに、芸術作品発表の場としてのサロンも開かれました。その後、ポンパドォール婦人を描いたフランソワ・ブーシェに代表される「ロココ」絵画が繁栄しました。

 

 1789年にはフランス市民革命が起こり、革命後の国有土地の売却によって小作農が増加しました。このことがフランソワ・ミレーが「落ち穂拾い」などの農民画を描くことにつながっています。

 

 1832年生まれのエドゥアール・マネは、王立彫刻アカデミーのサロンへの反発を「草上の昼食」「オランピア」といった作品に昇華させ、サロンへの出展に挑み続けました。マネの影響を受けて、新しい表現技法で描くモネ、ルノワール、バジールといった印象派の画家たちが現れました。

 

 

フランス絵画の流れと孫子の兵法

人間の成長プロセスの観点から見てみると、フランス絵画の流れから興味深いことが見えてきます。

 

 人間の成長プロセスは例外なく、

「模倣 → 反発 → 独創」

の3つのプロセスを踏むと言われます。日本で言えば、「守 → 破 → 離」

とも言いかえられます。

 

 フランス絵画の例で言えば、マネや印象派の画家たちもこのプロセスをたどっています。

模倣: 絵画の基本を身につける

反発: 保守的なアカデミーのサロンに反発

独創: 新しい絵画表現技法を生み出す

 

 マネや印象派の画家たちは、保守派から浴びた非難や酷評への反発をエネルギーに変えて、独創的な絵画を生み出しました。

 

 画家たちの成長プロセスを見るにとどまらず、フランス絵画の流れから孫子の兵法にもつなげるのが孫子女子勉強会たる所以です。今回の勉強会の孫子の兵法の一節はこれでした。

善く戦うものは、これを勢いに求めて、人に責めず

 

 フランス絵画の流れから学ぶべきは、勢い、すなわちエネルギーが満ちる場所に身をおくことの大切さです。つまり、怒りや落ち込む事態は決して悲観することではなく、むしろ新しいものを生み出すエネルギーに変えるチャンスと捉えることができるのです。

 

 

田中先生は絵画を通して何を見ているのか?

「美術の専門家が語るフランス絵画の話と田中先生が語る絵画の話は何が違うのか?」

これが、渦巻いていたもやもやの中から浮かび上がってきた問いでした。もっと端的に言うと、こうなります。

「絵画の専門家ではない田中先生は絵画を通して何を見ているのか?」

 

 フランス絵画の画家や表現技法についてであれば、絵画の専門家の方がより詳しく話してくれるでしょう。イタリア人であるダ・ヴィンチが描いた絵がなぜフランスのルーヴル美術館に所蔵されているのかについても話してくれるでしょう。

 

 けれども、フランソワ・ミレーが農民画を描いたことをフランス市民革命とつなげて語るのは、田中先生ならではの視点でしょう。さらに、フランスで天才と呼ばれる画家達が同時多発的に頭角を表した理由をアカデミーサロンへの反発と人間成長の3つのプロセスと関連づけて読み解くのは、田中先生の独創性に他なりません。

 

 田中先生は絵画を通して時代の流れを見ています。絵画はその時代を映す鏡とも言えます。なぜなら、その時代を象徴するもの、その時代に変化がおきたものが描かれるからです。

 

 田中先生は絵画表現技法の変化を通して画家の生き方の変化を見ています。絵画表現技法を生み出すのは画家という人間です。独創的な表現技法が生まれるのは、画家が保守派とは異なる道を進むことを選んだからです。

 

 田中先生は、絵画を通して、異国の異なる時代の流れを読むと同時に、国や時代を超えて普遍的な人間の生き方を読みとろうとしたのだと思います。

 

 これからは絵画を見る目が変わりそうです。教科書で見た有名な絵を確認するような見方ではなく、絵画を通して、この絵が描かれたのはどういう時代だったのか、この画家は絵画の歴史の中でどう位置づけられるのかなどに思いを巡らせながら見るようになるでしょう。絵画を見てもわからないではなく、絵画を見て、その国やその時代のことがもっと知りたくなることでしょう。

 

 今回から孫子女子勉強会の参加者はヒューストンだけでなく、シカゴにも広がりました。日本時間の19時から始まる勉強会は、ヒューストンやシカゴでは朝の4時から始まります。その時間からでも勉強会に参加したくなる理由は、田中先生の独創的な視点で世界の見方が変わる面白さがあるからです。