Bモードを錆びつかせないための孫子女子勉強会

9月の孫子女子勉強会が開催されたのは、最大級の警戒が必要と言われた台風15号の影響で首都圏の交通網が麻痺した9月9日のことでした。台風で混乱した駅の様子を見た田中先生がこの日の勉強会に用意してくれたテーマのおかげで、私達が孫子女子勉強会を必要としているワケがまたひとつ明らかになりました。

 

 

不利を有利に変える

この日のレジュメに書かれた孫子の兵法の一節はこれでした。

「軍争の難きは、迂をもって直となし、患をもって利となすにあり」

 

 「遠回りに見えても実際には近道を行き、不利を有利に変えるところが難しい」という意味であり、これらが難しいということは、裏をかえせば、不利を有利に変えることに勝機ありということです。

 

 台風通過後の運転見合わせや駅への立ち入り禁止といった不利な状況を当日に経験した私達にとって、まさにドンピシャなテーマでした。

 

 この日は、いつ乗れるともわからない電車を待って駅でひたすら待つのではなく、在宅勤務に切り替えた仲間が多かったようです。在宅勤務に切り替えたメンバーは、突然の打ち合わせに呼ばれることもなく、したがって開始時刻に遅れることなく自宅から勉強会に参加していました。要するに、不利を有利に変えた好事例でもあったわけです。

 

 私はどうかというと、ここ数回は遅刻なく参加していたにも関わらず、この日に限って20分ほど遅刻してしまいました。不利を有利に変えられなかったのかというと、そういうわけではなく、不利を有利に変えたがための遅刻でした。

 

 この日、私は、午後からの所用のため、午後休暇をとることにしていました。朝起きたら、通勤電車が運転見合わせで再開の見込みは立たずの状態でした。迂回経路を調べてみると、間引き運転をしていて、平常時を超える異常な混雑ぶりであることがわかりました。殺人的に混雑した電車に乗って会社に向かうことをそうそうにあきらめて、1日休暇に切り替えました。

 

 午後からの所用の場所に向かう経路を調べてみると、そこに向かうのもこれまた難問でした。最寄り駅からの乗車はあきらめて他の路線がある駅まで徒歩で行くことを決め、午前中のうちに家を出発しました。歩き始めてバス停を通りすぎようとしたところに、たまたま目的の駅に向かうバスが来たので、とっさの判断で飛び乗りました。私が乗った時にはすでにバスも満員状態で、次のバス停からはバス停で待っていた人に「次のバスをお待ちください」とアナウンスして乗車ができないほどでした。道路工事の影響もあって、バスが目的の駅につくまでには予想以上に時間がかかってしまいましたが、それでも台風一過の高気温の中を歩くよりはバス移動の方が楽でした。到着した駅では、間引き運転はされていたものの、その駅が始発の電車に乗れたので、座って移動できました。そこからさらに電車を乗り継いで、予定時刻ぎりぎりに所用の場所にたどりつきました。

 

 所用をすませた後は、勉強会まで少し時間があったので、森美術館で開催されていた「塩田千春展:魂がふるえる」と「PIXARのひみつ展」に足を運んで、たっぷり楽しみました。塩田千春展は休日であれば相当混雑しているらしいとのことだったの、平日にゆっくり鑑賞できてラッキーでした。勉強会への参加が遅れたのは、作品鑑賞に没入して時間が過ぎるのを忘れてしまっていたためです。

 

 電車が動かないという不利な状況でしたが、午前中に休みをとって早めに移動したおかげで所用を予定通りの時間にすませられ、平日にゆっくりと美術館鑑賞をすることができました。遅れはしたものの勉強会にも参加できて、まさにその日の自分の経験と照らし合わせて、勉強会のテーマを実感をもって考えることができました。

 

不利を有利に変えるBモード

「不利を有利に変える」というテーマを掘り下げるトピックは、孫子女子勉強会では「どういう人が不利を有利に変えられるか」になります。間違っても「どうやって不利を有利に変えるか」にはなりません。なぜなら、不利な状況は千差万別で、どうすればよいかは状況次第としか言いようがないからです。

 

 どういう人が不利を有利に変えられるかに対する答えは、孫子女子勉強会の根幹をなすと言ってもいい「Bモード(面白がる)」です。不利を有利に変えるのは、起こっている事象そのものを変えることではありません。その事象の捉え方を変えることです。例えば、乗るはずの電車が動かないという事象があれば、なんとしても電車に乗ろうとするのではなく、電車に乗らなくても良くなったら何ができるかと考えることです。電車に乗って出社しなければいけないという前提をはずしたら、今までとは違った景色が見えるはずです。今まで見たことのない景色に出会えるわけですから、面白くなってきます。不利な状況だと思っていたことが、実は、新しい景色を見せてくれるきっかけになるわけです。

 

 こうすべき、こうしなければならないという枠に囚われている限り、新しい景色には出会えません。こうすべき、こうしなければならないという枠は、実際にはほとんどありません。自分でそういう枠をはめているだけのことがほとんどです。そういう枠をとっぱらった先には、見たことのない景色が待っています。

 

 不利を有利に変えると言うと、とても難しいことのように思えますが、たったこれだけのことです。特別な道具もスキルも必要ありません。自分の視点を変えるだけです。

 

 6年目に入った孫子女子勉強会では、不利を有利に変えるマインドと実践が根付きつつあります。

 

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     不利な地からZoomで参加する孫子女子達

 

 勉強会は東京の貸し会議室で行われます。東京に住んでいない人にとっては、東京開催の勉強会は不利とも言えます。が、アメリカや大阪、福岡に住む仲間は、東京にいなければ参加できないという枠をいとも簡単にはずして、毎回、Zoomで参加しています。

 

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              会議室でお抹茶を点てる越後屋さんと淹れたてのお抹茶 

 

 孫子女子勉強会はその名の通り、勉強会の参加資格は原則女性です。けれども、例外的に越後屋さんは男性でありながら、勉強会メンバーの一人になっています。女性参加者に混じって男性が参加するのは不利な状況かもしれません(実際には誰もそうは思ってないけれど)。そんな不利な状況を「越後屋さんがメンバーでいてくれて良かった」と有利な状況に変えてしまう気遣いができるのが越後屋さんの素晴らしいところです。例えば、今回の勉強会ではこんな嬉しい気遣いがありました。一人離れて後ろのテーブルに座っていた越後屋さんが、勉強会の途中で何やらガサコソし始めました。何かなと思って振り返ってみると、なんと参加者全員にお抹茶を点ててくれていたのです。貸し会議室で淹れたてのお抹茶をいただけるなんて誰が想像したでしょうか。Zoom越しの仲間も含めて参加者全員が、「越後屋さんが仲間でいてくれて良かった」と思ったことは言うまでもありません。

 

Bモードを錆びつかせないための孫子女子勉強会

こんな風に、孫子女子勉強会メンバーはすでに不利を有利に変えるBモードで生きています。だったら、もう勉強会は必要ないんじゃない?と思うところですが、Bモードを錆びつかせないためにはメンテナンスが必要だと気づかせてくれたのは、沖縄在住の参加者でした。

 

 最近、新しい事業をおこされた沖縄在住のOさんは、東京出張ついでに久しぶりに勉強会に参加してくれました。そして、勉強会参加の後、こんなコメントをくれました。

こうでなきゃ!とガチガチに固まりつつあった頭が、みなさんのおかげでだいぶ柔らかくなりました」

 

 おそらく人間は、自らがBモードであるかを常に自問していないと、いともたやすくDモード(ねばならない)になってしまうのだと思います。Bモードを錆びつかせないためには、定期的なメンテナンスが必要なのです。

 

 孫子女子勉強会は、私達がBモードであり続けるためのメンテナンスの場であったというわけです。私達はBモードで生きることの面白さを知ってしまったがゆえに、もうBモードであることを手放したくないと思っています。けれども、メンテナンスなしにはBモードであり続けることはできません。ですから、今月も来月も、そのまた次の月も孫子女子勉強会の場に足を運び続けるのです。そして、これからもずっと、どんな不利な状況に遭遇しようとも、Bモードで面白く生きていこうと思います。