本の読み方を選ぶ時代へ

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孫子女子勉強会仲間の柏原さんがファシリテーターデビューしたABD読書会に参加しました。この日の読書会の対象書籍は仲山進也さん著作の「組織にいながら自由に働く」でした。ABDは私にとって新しい読書体験でした。ABDを体験して得られた本を読むことに関する新たな気づきを記します。

 

 

ABDとは

ABDとは、アクティブ・ブック・ダイアログ®の略称で、1冊の本を複数人で分担して短時間で読む読書法です。

 

ABDが開催される会場に着くと、4人ずつのグループに席が分かれていてました。グループ分けはカードをひいて決まるくじ引き方式でした。

 

ABDの流れはこんな感じでした。

(1)ABDの紹介

(2)自己紹介(グループ)

(3)「はじめに」のパートでABD体験(グループ)

(4)担当パート決め(全体)

(5)担当パートを読み、指定枚数以内でA4白紙にKP法でまとめる(各自)

(6)各自のパートをKP法でまとめた用紙を使ってプレゼン(全体)

(7)読後の感想等シェアタイム(グループ)

 

(1)のABDの紹介で、ABDの特徴はKP法とジグソー法の組み合わせからなるとわかりました。

 

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   KP法とジグソー法をKP法で説明したもの 

 

KP法とは「紙芝居プレゼン」の略で、読んだ内容を思い切り削ぎ落し、A4白紙の用紙に要約する方法で、図やイラストもOKと説明がありました。白紙にイラストOKの表現と聞いた瞬間、私にはグラレコの4文字が浮かびました。 

 

ジグソー法は、協同学習を促すために編み出された方法で、1つの長い文を3分割して、3人がそれぞれに担当部分を学び、学びをもちよって紹介するものです。分担したものをもちよることによって、ジグソーパズルを解くように全体像を浮かび上がらせる方法です。これを応用して、ABDでは、1冊の本を参加者人数分に分割したパートをそれぞれが読み、それぞれの要約を全員でシェアすることで本の全体像がわかるという仕掛けになっています。 

 

ABD体験

ABDの紹介を聞いて、ABDの手法はだいたいわかりました。が、実際に体験してみると、色々な気づきを得られるのが体験することの面白さです。

 

 (3)のABD体験では、本の「はじめに」のパートを4分割した原稿がテーブルに置かれていて、4人それぞれが各自のパートを読んで1枚の白紙に要約をまとめます。私のグループには3人しかいませんでした。あらかじめ想定した人数分に分割されているので、人数が足りない場合は成立しないのがABDの難しいところです。そこは、運営スタッフが参加することで人数あわせを行うように調整されていました。

 

 2ページという短い文章を読んで1枚の白紙に要約するのですが、3分という短い時間制限の中で行うので、いつにない集中力を要しました。私は、読みながら要点部分に線をひき、自分のパートを読み終えた時点で線を引いた部分からさらに厳選した内容をA4用紙に書き出しました。その際、イメージしやすくなるように、下手ながらにもイラストを加えました。文字だけで書かれたパワポがいかに興味をそがれるかを実感していたからです。 

 

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             はじめの部分をKP法で要約した例 

 

本の「はじめに」の部分には、その本が書かれることになった背景が記されています。この部分をABD体験で全員で共有すると、その後の本文をジグソー法で読む下準備になります。 

 

「はじめに」の部分を除いた本文の原稿が、参加者人数分の担当パートごとに原稿が分割されていました。書籍をコピーして分割するのは準備が大変です。参加者に書籍購入や持参を要請すると、興味はあるけど購入には至っていない参加者への門戸が開かれません。そこで、「組織にいながら自由に働く」の出版社は、ABD開催向けにゲラを無償提供しています。こういう出版社の後押しがABD読書会の広がりを後押ししていくことになると思います。

 

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  目次と担当パートごとに分割されたゲラ

 

 (5)の各自の担当パートを読む際に、私が担当したページは13ページでした。13ページを読んで5枚以内に要約する制限時間は20分でした。仲山さんの文章は読みやすいとはいえ、かなりハードなワークです。時間が制限されていたので、まるでセンター試験の問題を解くかのような集中力で読みました。さらに、アウトプットする前提で読むので、短時間でも読み飛ばしでなく理解しようという意識が働きます。この部分は個人ワークなので、自宅で読む時にも使えそうな気がしますが、みんなでやるからできるという集団のパワーがあってこそだと感じました。

 

 (6)のプレゼンタイムは、本の内容順に各自のパートを全員の前で90秒ずつで紹介します。これによって、自分が読むのは一部のパートだけでも全体像がわかるようになります。

 

 (7)の読後のシェアタイムでは、みんなで1冊の本を読んで終わりというだけでなく、気になったことや感想をシェアします。これはみんなで集まったからできる読書会の大きな利点です。

 

 ABDはワークショップ型の読書会で、個人ワーク、グループワーク、全体ワークがバランスよく混在していて、限られた時間の中で1冊の本を読むことと本を読んだ個人の感想をシェアすることまでができるようになっています。 今回の対象書籍は「組織にいながら自由に働く」で、この本はどこから読んでもわかるようになっていました。が、本によっては、前から順番に読んでいけば理解できるけれど、途中から読むとなんだかわからないというものもあります。例えば、小説などがそうでしょう。ですから、ABDに向く本とそうでない本があるように思います。ABD読書会がうまく機能するかは、そのプログラムの組み立てのみならず、どの本を対象にするかも大きな要因だと考えられます。ここは、ABDファシリテーターの力量が試されるところでしょう。

 

 広がる読書法

 

自己紹介をした時、同じグループになった人から読書に関して下記のような話を聞きました。 

・本を読むのが遅いので時間がかかってしまう

・最後まで読めずに途中でやめてしまう

  

読書が嫌いなわけではないけれど、なかなか本が読めない理由としてよく聞く話です。

 

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        様々に広がる読書法

 

読むのが遅いという課題に関しては、速読法やオーディオブックという読み方が開発されています。最後まで読み切れないという課題に関しては、みんなで分担して読む輪読や読書会という読み方が開発されています。 「1人読み」という読書法から、速く読むという方向性とみんなで読むという方向性の2つの方向に読書法が広がっているように思います。この中で、ABDは両方向への広がりをもった読書法と位置づけられます。最近、ワークショップ型の様々な読書会の開催案内を見かけますが、細かい手法の違いはあれ、おそらくはそれらも速くとみんなでの方向性に位置づけられるものと推測されます。 

 

本というメディア自体は変わらないのに(電子書籍という形態の変化はありますが)、その読み方のバリエーションがこれほどまでに広がっているのは、本には大きな価値があると認めているからでしょう。そして、その価値を様々な方法で引き出そうとしているからでしょう。本に変わる新しいメディアが次々に誕生しても、本というメディアの価値は他には置き換えられないものであることの証左であるとも言えます。 

 

本の読み方を選ぶ時代へ

ABDは1人読みに比べて、速くみんなで読めるという特徴があります。1人読みよりもいいことづくめのように見えますが、果たしてそう単純に片づけられるものでしょうか。ABDで確かに全体像はつかめますが、一言で言うと「目次以上全文未満」です。私達が本を読むことを通して吸収するのは本の内容だけではありません。文章の中に現れる珠玉の言葉や文体といったものも本を通して自分の中に取り入れていきます。ABDでは、自分が担当したパート以外は、要約はつかめても著者が魂をこめて精選した言葉や文章に触れることはできません。また、本を通してひとりでじっくりと自己と対話することもABD読書会の短時間の中ではできません。 

 

ABDを含んだ読書会は、他者を必要とします。そうなると複数人が集まる読書会の場所が必要になります。読む時間を自由に決められず、複数人の予定があう日程の調整が必要になります。一方、1人読みはひとりでじっくりと読む時間を要します。本を通じて徹底的に自分に向き合うことが必要になります。つまりは、ABDと1人読みはどちらが読書法として優れているかではなく、トレードオフなのです。だとすれば、どちらかをあきらめるというのではなく、まずはABDでざっくりと全体像をつかんでから、気に入った本はさらにじっくりと1人読みするという組み合わせもありです。 

 

新しい読書法が開発されたおかげで、私達は本を読むことに関して更なる自由を手に入れました。これからは、どの本を読むかだけでなく、どのように読むかも選べる時代になったのです。 

 

発見と学びの旅はこれからも続きます。