コミュニティの力

 

4月7日(土)、高松駅近くに位置して瀬戸内海を一望できるNPO法人瀬戸内こえびネットワークの事務所にて、バースデーカードをつくる活動に参加しました。このアナログで地道な活動が地域力を高める大きな力になっていることは、参加したからこそわかったことでした。

 

 

島のお誕生会とバースデーカードづくり

2010年に開催された瀬戸内国際芸術祭の作品のひとつとして、豊島の集落の空き家を建築・再生して島キッチンが生まれました。島キッチンにはオープンなテラスがあって、イベントやワークショップが開催できるようになっています。

 

島キッチンのテラスなどを利用して2014年から毎月、「島のお誕生会」が開催されています。島のお誕生会は、ゲストを招いた催しと開催月生まれの人を参加者みんなでお祝いするというもので、豊島の人と島外の人の交流の場となっているそうです。島のお誕生会に参加した人のうち、その月に生まれた人に配られるバースデーカードは、こえび隊(瀬戸内国際芸術祭のボランティアサポーター)によって作られています。私はこえび隊として、このバースデーカードづくりに参加したというわけです。

 

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    今回つくったバースデーカードのデザイン

 

バースデーカードづくりは、これまで平日の夕方に行われていたそうですが、今回、新しい試みとして土曜日の10:00~16:00、途中参加/途中退室OK、飛び入り参加OKで行われました。途中参加の人も含めると最終的に8人が集まり、楽しくおしゃべりしながら和やかな雰囲気の中でのバースデーカードづくりになりました。

 

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      バースデーカードづくりの様子

 

この活動のリーダー的なこえび隊メンバーが2人いて、1人は小学校の先生を定年退職した方でした。白い画用紙、色画用紙、シール、マスキングテープ、メッセージカードを組み合せてつくるバースデーカードのデザインは、教室の飾り付け作成で培った専門的スキルをいかして、元先生がつくってくださったものでした。

 

私達は一通りのつくり方の説明を受けた後は、それぞれがシールやマスキングテープを貼り、カードを作成していきました。メッセージカードにメッセージを書く人が必要だったので、途中からは、私ともう一人がメッセージを書く担当になり、カードにマジックで文字を書き続けました。手書きすることがめっきり少なくなったこの頃、こんなに文字を書き続けたのは久しぶりで、ペンだこができそうになりました。

 

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         メッセージカード

 

1時間のランチタイムとおやつタイムをはさんで、約5時間近くの間、こえび隊メンバーでせっせとバースデーカードづくりに励みました。最終的に60枚近くのバースデーカードが出来上がり、2~3ヶ月先の島のお誕生会までの分のストックができました。

 

島のお誕生会がプラットフォームになる理由

今回、バースデーカードづくりに参加して、島のお誕生会はプラットフォームなのだとわかりました。

 

バースデーカードに参加したこえび隊は8人。遅れてきた人はいるけど、まあそれはおいといて、8人が5時間かけてつくったバースデーカードが60枚なので、1人あたり1時間につくったバースデーカードは1.5枚の計算になります。今はやりの生産性という観点では、ずいぶん生産性の低い活動と言えなくもありません。何種類ものシールやマスキングテープや画用紙の材料費コストも考慮に入れると、おそらくは100円ショップに売っていると思われるバースデーカードを買ってきた方が効率的かもしれません。参加者がボランティアとはいえ、募集をかけることだって手間なはずです。

 

バースデーカードづくりの活動をバースデーカードというアウトプットが目的と見ると見誤ります。参加者はバースデーカードをつくるという作業を行いましたが、それだけのために参加していたわけではないことは活動中の会話からわかりました。

 

参加者の2人は岡山県から船に乗ってやってきていました。1人は愛媛県から電車に乗ってやってきていました。香川県内からの参加者も高松市以外からそれなりの時間をかけてやってきた人がいるようでした。みんなで食べようとおやつも持ってきてくれた方がいました。活動の場にやってくるためにかかる時間と費用を負担してもなおその活動に参加するという意味を感じているからこそ、遠方からはるばるやってくるのでしょう。

 

作業をしてアウトプットするというだけの目的のためなら、一通りの説明を聞いた後に各自が持ち帰って自宅で作業した方がいいかもしれません。でも、参加者の目的はそうではありません。リーダー的存在の元小学校の先生はこんなことを言っていました。それはそれは嬉しそうに目を輝かせて。

「こえび隊の活動で私の第二の人生がひらけた。次はどんなバースデーカードにしようかと考えるのが楽しくて楽しくてしかたがない。バースデーカードに貼るための飾りを折り紙で家で折り続けて腱鞘炎になったこともあるの」

 

そして、次のバースデーカードの案もできつつあるようでした。介護施設の職員さんから教えてもらったという、開くと立体的に蝶が浮かび上がる飛び出すカードの見本を持ってきて見せてくれました。生活の中で常にカードづくりのネタを探していて、それが毎日の暮らしをいきいきとさせている様子が伝わってきました。

 

生産性を上げるためにもくもくと手を動かすのではなく、こんな会話が流れるあたたかい雰囲気の中でバースデーカードづくりは行われました。ありふれた事務所の真ん中におかれたテーブル代わりの卓球台の上でバースデーカードをつくるという作業でしたが、居心地の良さと不思議な達成感を味わいました。

 

岡山から参加した2人は30才とのことでした。土曜日なら遊びに出かけたり休養したりに時間を使いそうなところを、わざわざ船に乗ってやってきたのは、居心地のよい時間を求めてきたのかもしれません。モノを消費することからの価値観のシフトの表れなのかもしれません。

 

参加者の1人は中学の英語教師をしていてこの3月で定年退職された方でした。定年になったので、ずっとやりたいと思っていたこえび隊活動を始めたと言っていました。

 

島のお誕生会には20~100人ぐらいが集まるそうです。もちろん豊島の人も参加するし、島外からもこえび隊やその他の人が参加するそうです。こえび隊にはメールで島のお誕生会開催のお知らせが届きます。バースデーカードづくりもお誕生会参加のきっかけになるでしょう。こえび隊以外の島外の人にはFacebookページやウェブサイト、クチコミで情報が届いていると想像されます。そして、豊島の人には、毎月発行される「島キッチン新聞」がこえび隊によって、島の1軒1軒に手渡しで配られます。「島キッチン新聞」に次回のお誕生会のお知らせが掲載されています。適切な情報ルートを通じて、それぞれの人に島のお誕生会開催の情報が届けられています。

 

こうやって、島のお誕生会には様々な人が集まってきます。私はまだ参加したことはありませんが、おそらくは気持ちのいい人達が集まる島のお誕生会では、バースデーカードづくりと同じように心地よい時間を過ごせることでしょう。それが次の参加につながり、クチコミでの勧誘につながり、継続的な情報発信とあいまって、島のお誕生会がプラットフォームになっていったに違いありません。

 

コミュニティの力

バースデーカードづくりに参加して、コミュニティの力を感じました。今、世の中では人手不足が大きな問題になっています。そんな中でボランタリーで活動に参加しようという人がこえび隊には集まってきています。しかも元教師という専門的なスキルをもった人や若い人が。活動の場である香川県にとどまらず県外からも人が集まってきます。活動を通じて集まった人達の間につながりが生まれ、コミュニティに育っていきます。

 

バースデーカードづくりは一人で出来る作業内容ではあるけれど、おそらくは一人では続かないでしょう。みんなで集まってつくるから作り続けられます。島のお誕生会も沢山の人が集まってお祝いするから思い出深いお誕生会になります。コミュニティになるから持続できるということが確かにあります。

 

バースデーカードづくりのリーダーである元先生が興味深い発言をしました。

「健康診断で数値が悪くなったから、島キッチン新聞を配る活動に参加したの。1万歩くらい歩くのよ。一人でジムに行くよりよほど楽しいわ」

 

健康増進活動にいかに参加してもらうかも現在の課題のひとつにあげられますが、島キッチン新聞配りはポイントなんかもらえなくても参加する人がいて、おまけに歩いて健康増進になるという驚くべき解決策になっていたわけです。これもコミュニティの力のなせるわざでしょう。

 

こえび隊がコミュニティになって地域での地道な活動を続けることで、地域の力が高まっていることは間違いありません。瀬戸内国際芸術祭が地域にもたらした恵みの大きさははかりしれません。