IoT化される社会の変化を読み解く

私たちは今、時代の転換点にいると言われます。それはおそらく間違いありません。色々な観点での転換点にありますが、情報通信技術に牽引される変化について、何がおこっているのかをまとめてみます。「IoTとは何か」に重要なポイントがほとんどつまっていましたので、ここに書かれている内容をベースにまとめました。

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第4次産業革命

時代の変化を象徴するキーワードとして「AI」がクローズアップされまずが、「IoT、ビッグデータ、AI」の3つがひとつにつながって第4次産業革命と呼ばれる大きな変化の流れを作り出しています。この3つが何を表しているのかを簡単に紹介しましょう。

 

(1) IoT: 現実世界のデータ化

「IoT=モノのインターネット」と言われますが、これでは何だかよくわかりませんよね。IoTは、 モノをインターネットにつなげて現実の世界を情報空間で扱えるようにするための技術です。

 

例えば、温度を測るセンサー機能のついたチップを洋服につけると、その洋服を着ている人の温度を自動的にデータ化することができます。温度を測るセンサー、センサーのついたチップからネットワークを経由してインターネット上のある場所にデータをためる仕組み全体のことをIoTと呼んでいます。

 

従来技術では、人の温度をデータ化しようとすると、体温計でその人の熱を測り、インターネットにつながったPCやスマホのアプリに温度を入力する必要がありました。IoTによって、体温計で測ることや温度を入力することが不要になります。赤ちゃんにこの洋服を着せるだけで、まだしゃべれない赤ちゃんの発熱に気づくこともできるようになります。

 

(2) ビッグデータ:現実世界を情報空間で表すデータ

IoTが様々な場面に適用されると、膨大なデータがインターネット上の情報空間に蓄積されるようになります。このデータをビッグデータと呼んでいます。

 

例えば、温度センサーで5分おきに熱を測るとすると、1日で288個の温度測定データが蓄積され、1年では105,120個にもなります。保育園に子どもが100人いるとすると、1年で10,512.000個の温度測定データが蓄積されることになります。

 

ビッグデータはデータの量だけでなく種類が多いことも含意します。温度だけでなく、他にも様々な種類のデータを蓄積することで、情報空間を現実世界にできる限り近づけることができるようになります。

 

(3) AI: 現実世界をどのように制御するかを判断

ビッグデータをもとに、状況に応じた最適な判断を行うものがAIです。AIの進歩はビッグデータを蓄積して処理できるようになったコンピュータ技術の進歩と連動しています。

 

ごく単純な例で言えば、保育園の子ども全体の温度があがれば部屋が暑くなっていると判断し、ある特定の子どもの温度だけが普段より高くなれば、発熱の可能性があると判断することができます。部屋が暑くなっていると判断すれば、その情報を空調機に送って空調を自動的にコントロールしたり、発熱の可能性があると判断すれば、その情報を保育士や保護者に知らせるといったことが可能になります。

 

この3つが連動することによって、入力、判断、出力のすべてを人手を介することなく機械的に処理することができるようになります。

 

AIで判断した先の制御の部分が、空調機のようにすでに現実世界にあるものであればこの3つで処理が完結します。制御部分が現実世界にまだないものの場合には、制御にロボットを使うことでAIの判断結果に従って現実世界を制御することになります。ロボットと言っても、必ずしも人型のものばかりではなく、制御の種類によってアーム型ロボットであったり移動型ロボットであったりとカタチは様々になります。

 

いずれにしても、今まで人が行っていた判断、制御が機械化されるというインパクトが第4次産業革命と呼ばれるものです。イメージ図で表すと下記になります。

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このインパクトの実例として、種をまく、水をやる、雑草を抜くといったことをすべて自動化するFARMBOTの事例がYouTubeにあがっています。この仕組みはたった2人で開発したそうです。世の中はここまで進んでいます。

 

www.youtube.com

 

 

第4次産業革命に対する見方

第4次産業革命と呼ばれるものが何かがわかったとして、どうしてそんなに機械化を進める必要があるのかという疑問がわいてきます。人が行っていたことが機械化されるということは人がいらなくなるということで、機械に仕事が奪われると話題になる所以もここにあります。

 

都市では2020年にオリンピックを控えていることもあり、第4次産業革命を都市サービスの高度化に活用しようという動きがあります。海外からやってくる外国人観光客向けに宿泊、移動、食事といったサービスを言語選択含めて個人の嗜好にあわせて行うことなどが目指されています。

 

一方、地方では第4次産業革命に対しては、仕事が奪われるかもという悲観論よりもこの変化の波に乗ることが必然と考えられています。なぜならば、人口減少による人手不足が深刻で、事業活動の維持のためには低コストや効率化が喫緊の課題だからです。今現在の人口がどうであるかよりも、この変化の波から逃げずに向き合うかどうかが地方の未来の明暗を分けると考えられます。

 

なぜプログラミグ教育か?

第4次産業革命、言い換えるとIoT化された社会に向けての動きは世界的に進行していて、日本は出遅れていると言われています。IoT化された社会というのは現実社会をプログラムで動かすことができるようになるということを意味します。プログラミングの力がこれからやってくる世界を活かす鍵になります。日本でも学校教育でプログラミング教育が必修化されることになった背景はここにつながっています。

 

これから必要になるプログラミングは、従来のコンピュータエンジニアや研究者養成のための専門教育とは違って、国民の基礎的力としてのプログラミングだとされています。プログラミング環境も大きく進歩して、敷居はかなり低くなっています。しかも今の子どもたちは生まれた時からPCやスマホといった環境に慣れ親しんでいますから、小中学生でも無理なく学習することができます。それにしても全員に必要なのか?という疑問もありますが、それに対する答えは「IoTとは何か」に書かれている次の一説で理解できるでしょう。

 

世界ではコンピュータを利用したイノベーションが盛んだが、それをリードしているのは「プログラミングの専門家」でなく「プログラミングができるその分野の専門家」だ。例えば、農業分野。画期的な生産性を達成するコンピュータを駆使したスマート農場で、イノベーションを起こせるのは「プログラミングできる農民」だ。

 

イスラエルでは高校の教育改革によって2000年に高校でのプログラム教育を義務化したそうです。イスラエルがコンピュータ産業分野で急激に伸びて世界から注目を集めているのは、2000年からプログラム教育を受けた高校生が活躍をはじめたからだと考えられています。

 

これからの社会で必要になるのは、ある分野についての現実世界での経験や勘といった専門的知識をプログラミングを介して情報空間で扱えるようにすることです。例えば、情報空間で扱える状態をつくった農場では、農業の仕事内容が変わってきます。農地に出て農作業をすることがすべてなくなるわけではありませんが、生産物の品質を上げるためにプログラミングしたり、プログラムが出力するデータをもとに農作業の方法を変える指示を出したりすることが仕事になります。IoT化によって農業分野に新しい仕事が創造されることになります。こういった仕事が創造されることで、地方の農業法人に若い人の参入が増えている事例もあるそうです。

 

社会イノベーション

すべての情報がインターネットつながるIoT化によってもたらされる変化は産業の変革にとどまりません。国や地方の財政悪化によって公共サービスが行政だけで実現できなくなっていることを背景に、民間の力を借りて社会イノベーションをおこそうという動きにも関連しています。「IoTとは何か」のサブタイトルが「技術革新から社会革新へ」となっているのは、まさにこのことを指しています。

 

例えば、自動車のカーナビから集めたビッグデータを分析すれば、多くの車が止まったり、特定の天気において減速する箇所を特定できるようになります。定期的に点検車を走らせることなく、ビッグデータ分析結果にもとづいて、道路の保守点検や予防修理を行うことができるようになります。

 

道路点検にとどまらず、様々な課題への対応が考えられます。

  • エネルギー危機に対して、需要共有状況の正確に把握してエネルギーの安定供給を実現
  • 災害時の状況を把握して災害復旧を効率化
  • 医療機関と消防機関のスムーズな情報伝達による医療救急体制の整備
  • 高齢者の状態の情報把握による高齢者見守り
  • 食のトレーサビリティーによる安全な食の保証

 

こう列挙すれば、技術的な問題がクリアされれば明るい未来が待ち受けているように思えますが、技術以外に乗り越えるべき課題があります。道路の例でいえば、個々の自動車からのデータは誰のものか、誰が使っていいのかといったガバナンスの問題。人間のプライバシーにも関わる問題もあり、データを「適切に出す」「適切に使う」ことが必要になりますが、適切とはどういうことかを決める時には哲学が必要とされます。技術変革を社会変革に変えるためには、哲学のみならず、制度や法律の整備といった文系的な力も必要になってきます。

 

きたるべき社会で人が取り組むべきこと

これからおこるであろう情報通信技術をベースにした社会の変化については上記で一通り書き尽くせたと思います。産業においても公共サービスにおいても、今まで人が行っていたことのうちで機械化される部分が多くなることは間違いありません。

 

この流れの中で人が取り組むべきことは何でしょうか?

 

ひとつには、IoT化されていない領域をIoT化していく部分があります。プログラミングもそうでしょうし、公共サービス領域においては、哲学的な考えをもとに関係者間の調整を行って、制度を整えることも人にしかできないことでしょう。IoT化が進んだ領域にしても、何から何まですべてが機械化できるわけではないので、機械とうまく共存して課題解決を行う人も必要でしょう。そのためにも、簡単なものでも一度はプログラミングに挑戦して、どんなことができるのかを知っておくと良いと思います。

 

今のAIは、ある領域において最適な判断を行うことはできても、新しいものを生み出すことはできません。新しいものを生み出すことは人が取り組むべき領域です。創造的な人を育てること、創造的なものが生まれる場をつくることはこれからも人が取り組むべき重要なことであり続けるでしょう。

 

IoT、ビッグデータ、AI、ロボットが連動することによって現実世界への働きかけまでが自動化されますが、人に対して働きかけを行うものはこれらにとって代わられることはないと思います。一部にコミュニケーションロボットのようなものに置き換えられることはあるでしょうが。

 

なぜなら、人に向き合う時には論理的な処理を行うだけではないからです。向き合う人の感情、向き合う人に対する自分の感情をも含めた動きが必要になり、感情の理解や感情をもたない機械には決して真似ができない動きを人は行います。機械化が進む社会は、より人間らしいやさしさや思いやりが際立つ社会になるとも言えます。