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身体の正しい使い方を学ぶ 〜ピラティスレッスンを体験して〜

考え方 学び

前回の東京滞在中にピラティスのプライベートレッスンを体験しました。友人の尾崎美香さんがピラティス指導者になるための指導実践期間中とのことで声をかけていただき、超お得に体験してきました。

 

私はこれまで整体やマッサージなどを一度も受けたことがありません。我慢できないほどの肩こりや腰の痛みを感じたことがないので、そういったものを受ける必要性を感じることなく今日まできました。今回はちょうどいい機会だと思って、ピラティスレッスンを体験することにしました。

 

ピラティスレッスン体験

土曜日の昼下がり、尾崎さんに指定されたレッスンスタジオに向かいました。レッスンのはじめに、尾崎さんから、骸骨の標本模型を見ながら、人間の骨について説明を受けました。わざわざ骸骨の標本模型を見た理由は説明を受けている時にはわかりませんでしたが、その後のレッスンでわかることになりました。

 

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体験レッスンの時間は60分。尾崎さんに言われるがままに身体を動かしました。何種類だったか覚えていませんが、色々なレッスンワークを行いました。それぞれのレッスンワークは身体の特定部分を動かすものだったように思います。激しい動きのものはなく、ゆっくりとした動作での動きを何度か繰り返すものでした。例えば、ベッドのような台の上に仰向けになって、上から吊り下げられているバーを手でもちながら腹筋のような動作をしたり、同じく仰向けになって足裏でバーを押したりゆるめたりするなど。

 

60分は長いなあと言うのが正直な感想でした。理由は、単調な動作を繰り返すだけで、それに対する効力感を感じられなかったからです。もともとピラティスを受けてなんとかしたいという課題を抱えていたわけではないので、当然と言えば当然なのですが。

 

ただし、今回、ピラティスを体験してみて、発見がいくつかありました。

 

普段の生活の中では、胴体、つまり、首から腰まではひとつの身体的パーツという認識をしていました。ところが、腹筋のような動作をするレッスンの時に、「背骨をひとつずつマットから離すようにゆっくり起き上がってください」と言われて、胴体でひとつのパーツじゃなくて、背骨のひとつひとつが動きのパーツなんだと初めて意識できました。頭の中に背骨のイメージを描けないと、背骨をひとつずつ意識して動かすことはできません。この時、骸骨の標本模型を見た意味がようやくわかりました。

 

手や足に関しては、言われた通りにすんなりと動かせたのですが、背骨や骨盤など、普段は意識していない身体的パーツに関しては、こう動かしてと言われても、どこにどう力を入れたら言われた通りの動きができるんだろうと混乱しました。自分の身体は自分で自由に動かせると思っていましたが、そういうわけではないことも発見でした。

 

すべてのレッスン動作は、呼吸とリンクさせるようになっていました。身体をまっすぐに伸ばした自然な体勢から曲げる動作の時には息を吐き、曲げた姿勢を伸ばしてもどる動作の時には息を吸うように指導がありました。普段、身体を動かす時に、呼吸と動作を合わせることは意識したことがありません。大きく息を吐くと、自然と身体の余計な力も抜けていきます。身体を曲げるという動作をする時に余計な力を入れると不自然な身体の使い方をしてしまうのだろうと思います。それを繰り返していると、おかしなクセがついて、つもりつもって身体の不調になるのかもしません。

 

ピラティスって何ですか?

体験レッスンが終わって、before/afterの変化はどうだったかというと、身体に関する知識的な発見はありましたが、身体感覚としての変化は感じることはできませんでした。ピラティスには興味をもったので、レッスン後に尾崎さんにいくつか質問をぶつけてみました。

 

私: ピラティスと整体ってどう違うんですか?

 

尾崎さん: いい質問ですねー。整体は不調をきたしている部分を治療して治すもので、ピラティスは身体の正しい動かし方を根本から身につけるものなんです。

 

私: 今日、レッスンを受けたけれど、正直言って、私は身体感覚としての変化は感じなかったなあ。

 

尾崎さん: たぶん2~3回受けると自分の身体感覚も変わってくると思います。

 

私: どんな変化がおきるんですか?

 

尾崎さん: 身体をより機能的、効率的に使えるようになります。

 

私: うーん、まだよくわからないなあ。

 

尾崎さん:  自転車に初めて乗る時とか、初めて泳ぐ時に似ていて、「こうするとうまく身体がつかえてる」という感覚がつかめると、身体の使い方の改善もよりスピードアップされます。

 

私: 書道で週1回のレッスンで指導を受けて、美しい字に修正する。どうすれば美しい字を書けるか言語化できるようにはならないけれど、感覚としてわかるようになるって感じですか?

 

尾崎さん: そんな感じです!テニスでサーブを入れる感じ、ピアノで左手右手で違う動きをする感じという例えもできそうですね。頭で何をするのか理解して、身体を使って正確にアウトプットするという一連の流れを繰り返すうちに、意識せずに身体感覚としてできるようになるという流れです。

 

私: なんとなくわかってきました。

 

私: 今回は尾崎さんが指導実践期間中ということで、超お得にレッスンを受けられましたが、実際のピラティスレッスンの料金って結構なお値段ですよね?

 

尾崎さん: おかしなクセがついたまま身体を動かして、故障を繰り返して整体や整骨院にお金を払うよりはいいと思っています。

 

私: あー、確かに。ところで、尾崎さんがピラティスを始めたきっかけは何だったんですか?

 

尾崎さん: 私がトライアスロンをやってることは知ってますよね?それから、足首を骨折したことも知ってますよね?

 

私: はい、知ってます。

 

尾崎さん: 整形外科ではとりあえず歩けるようになるところまでのリハビリはやってくれますが、足をまだひきずるような歩き方をしていても日常生活に支障がないところまでくると、それ以上のリハビリはやってくれません。私はトライアスロンの大会に出るために、自分の足を自由に思いのままに動かせるところまでリハビリが必要だったんです。そのためのリハビリとしてピラティスと出会ったんです。

 

私: なるほどー。アスリートや大会を目指して運動している人には良さそうということはわかりましたが、そうじゃない人がピラティスをやる意義って何かあるんですか?

 

尾崎さん: 例えば、床下に落ちているものを拾う時に、正しい身体の使い方をすればぎっくり腰になることを防げるんです。

 

私: ふむふむ。虫歯になってから痛い思いをして歯の治療を受けるより、定期的に歯科検診を受けて虫歯予防をしましょうというのと同じ考え方ですね。ピラティスについて、かなり理解が深まりましたー。

 

自分の身体の使い方のクセを知る

レッスン体験直後は、身体のbefore/afterをほとんど全く感じなかったのですが、その後の日常生活を送る中で、ひとつ大きな変化がありました。私は仕事でPCに向かうことが多いのですが、ピラティスレッスンで何度か「肩の力を抜いて」と言われたことを思い出して、意識を肩に向けてみるとPCに向かっている時に肩に力が入っていることに気づきました。特に、マウスで細かい位置合わせや線を描いている時に、右肩に異常に力が入っていました。

 

いつの間にか、PCに向かう時に肩に力を入れてしまうクセがついていたようです。これを続けていたら肩こりになってしまいまそうでした。自分自身で肩がこってるなあと感じることはあまりなかったのですが、実はこっていたのかもしれません。

 

無意識のうちに肩に力を入れてしまうクセはそう簡単には治りませんが、PCに向かう時に意識するようになったことで、徐々に肩の力を抜けるようになってきました。また、意識的に深く深呼吸して、余計な力を抜くことも行うようになりました。まずは、自分の身体の使い方のクセを知ることがいかに重要かを知りました。

 

正しい身体の使い方を学ぶ

高齢化を迎えるこれからの社会では特に、健康に生きるために正しい身体の使い方を誰もが身につける必要があると感じます。身体の不調を感じて医療費を使うように、マイナスのものをゼロにするのはわかりやすいお金の使い方です。けれども、自覚症状がないうちにゼロのものをマイナスにしないためにお金を使うという価値観の転換が必要なのかもしれません。

 

正しい身体の使い方を身につけることをきちんと学ぶ機会は、実は用意されてこなかったのではないでしょうか。子どもの体力低下が懸念され、身体を動かす機会提供のイベント等が行われています。誤った使い方で身体を動かすことは、身体にはむしろ悪影響を与える可能性もあることを考えると、正しい身体の使い方を学ぶ機会を提供した方が良いのではと思いました。その方法としてピラティスが最適なのかどうかは私にはわかりませんが。

 

残された課題

正しい身体の使い方を誰もが学ぶための課題として2つあげることができます。

 

一つ目の課題は、優秀な指導者をどう増やせるかです。優秀な指導者は、正しい身体の使い方の知識をもっているだけでなく、身体の動かし方を言語化して伝える高い能力をもっている必要があります。

 

優れた指導者とは何かを知ったこんなエピソードがあります。

 

娘が小学校1年生の時にピアノコンクールに出るための課題曲に取り組んでいた時のことです。スタッカート(はねるように鍵盤を叩いて音を短く表現する)の部分で、普段習っていたピアノの先生に「もっと軽く」と何度も指導されました。先生がその場で弾いてみせると、確かに娘よりももっと軽く聞こえます。けれど、その違いが何からくるのかについては言語化されませんでした。同じ課題曲の模範演奏のテープを借りて聞いてみると、やはり、その部分は娘のスタッカートとは明らかに違ってとても軽やかでした。違うことはわかるのですが、どうすればもっと軽くなるのかは私にもどうしてもわかりませんでした。

 

コンクールの前に音大の先生の特別レッスンを受けました。その時も同じくスタッカートの部分の指摘を受けましたが、音大の先生は、「もっと軽く」と言うだけでなく、「指を鍵盤から垂直に上げるのではなく、鍵盤をひっかくように指を動かして」と具体的に指の動きの違いを教えてくれました。それを聞いた娘がその場で言われたように指を動かすと、まるで別人が弾いているかのように軽い音が出て驚いたことを今もはっきりと覚えています。

 

身体の使い方は暗黙知の領域なので、それを形式知化して伝えられなければ指導にはなりません。指導者に言われた通りに身体を動かしているつもりなのに「違う」と言われても、どこをどう修正すればよいのかをわかるように伝えてもらわなければ、本人には修正できません。

 

どの領域でもそうですが、本当に優れた指導者はそれほど数多くはいません。優れた指導者をどうやって増やすか、あるいは、普通の指導者が優れた指導者と同じように指導できるように何で補うかは課題として残されています。

 

もう一つの課題は、身体を動かすレッスンをいかに楽しみに変えられるかです。どの領域でも基本を身につけるためのレッスンは同じことの繰り返しを避けては通れず、概して単調になりがちです。よほどの強いモチベーションをもった人でなければ、楽しいと思えないことは続けられません。楽しくレッスンを受けられる方法を是非とも考案してもらいたいと思います。

 

これらの課題が解決されて、誰もが正しい身体の使い方を学べるようになって、不必要な身体の不調をもつ人が減ることを期待したいと思います。