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創造的な場から生まれるもの

 

最近、注目されている「創造的な場」。創造的な場というとそこからすごいアイデアが生まれそうなイメージをもたれる方が多いと思いますが、私自身の経験からいうと、イデア以外のものが生まれることの意味が大きいと感じていました。そんな感覚を覚えていた時に偶然に出会ったのが「創造性とは何か」。KJ法で有名な川喜田二郎先生の著書ということもあって、迷わず手にとりました。

 

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この本を読んで、全く異なる3つの場で体験してきたことの共通性とその意味するものが整理できました。3つの創造的な場の事例の紹介とともに創造的な場から生まれるものを考えてみたいと思います。

 

事例1:Motivation Makerのワークショップ

1つ目の事例は、NPO法人Motivation Makerが提供するプログラムの事例です。Motivation Makerは "未来の大人に学びのモチベーションを!" のキャッチフレーズのもと、動機づけに特化した教育プログラムを提供しています。私は数年間、サポーターとしてプログラム運営のお手伝いをしていました。

 

参加者は基本的に小学3年生から6年生の子どもです。半年間で5~6回のプログラムからなり、回によっては親子で恊働作業を行う場合もあります。一連のプログラムに規定回数以上参加すると、Motivation Makerの称号と修了証がもらえます。

 

現在、2016年度冬学期のワークショップ参加者を募集中です。

 

知識の習得でも学び方の習得でもなく、学ぶ動機の獲得をプログラム提供の目的にしていて、一般的な学習塾とは一線を画するものでした。開催場所が東京大学で行われることが多かったこともあってか、福岡からわざわざ参加する参加者もいたのには驚きました。

 

プログラムの流れはこんな感じです。

モチベーションリーダーが仕事内容やそこにいたるキャリアストーリーを話す

 ↓

参加者がモチベーションリーダーの仕事をワークショップで追体験する

 ↓

参加者がワークショップのアウトプットを発表する

 ↓

モチベーションリーダーがワークショップで伝えたかったことを話す

 

ワークショップは東大のi.schoolで学ぶメソッドに準じて設計されていて、創造的にものを生み出すプロセスになっています。私がサポーターをしながら最も注目したのは、ワークショップ中の子どもたちの集中ぶりでした。活発な子もおとなしい子も驚くほどにのめりこんでいました。一緒にワークをする保護者も同様に夢中になって絵を描いたり、ものを創ったり、ものを見つけたりしているのが印象的でした。

 

そんな状況だったので、修了証をもらった子どもが、子どもスタッフとして再びプログラムに参加することが珍しくありませんでしたこのプログラムに参加して変わったという子どももいたと聞きます。さらには、このプログラムのおかげで変わったという保護者やサポーターもいました。

 

楽しいプログラムだったことは確かですが、あののめりこみ具合や、プログラムに参加しての変容ぶりを説明する理論をその当時の私はもちあわせていませんでした。

 

 

事例2:TechShopでのものづくり講座

2つめの事例は、高知県の木材の認知を高めると同時に高知県のファンをつくるために、私自身が創った場づくりの事例です。参加者を一般募集して、TechShopというDIY工房で、土佐材とデジタルファブリケーションを組み合わせて高知をPRする作品をつくってもらいました。

 

プログラムの内容と言えばこれだけですが、実際には、限られた時間で良質なアウトプットが出るためにどうすればよいか、制作素材として何を準備するか、工作機械利用のルール決めなど、一緒に場づくりを行ったメンバー間で侃侃諤諤の議論の末にようやく組み上がったプログラムでした。一番難しかったのは、参加者のクリエイティビティを発揮して実際にものを作ってもらうための自由度と制約のさじ加減でした。

 

できる限り、考えられる限りのことは準備したつもりでしたが、当日どうなるかは全くの未知数でした。結果的には、作品自体も期待を超えたものができましたし、何より参加者が昼食も抜かんとばかりの勢いで夢中でつくり続けたことに驚かされました。

 

私自身は、このプロジェクトが始まるまで木材にも工作にもそれほど興味はありませんでしたが、できれば私も参加者になって一緒につくりたいと思いながら撮影を担当していました。誰も彼もの表情がいきいきと輝いていて、「あ、この瞬間」と思うシーンが至るところで生まれて、広い会場を走り回っての撮影になりました。

 

作品がほぼ完成した頃に参加者インタビューをした際、高知県出身で都内大学に通う学生の一言がとても印象的でした。

「自分は高知県出身で、高知県は田舎だと思っていたけど、ここにきて高知県も捨てたもんじゃないなと思った」

 

当日の様子の動画はこちらです。


 

事例3:孫子女子勉強会でのわいがや

3つ目の事例は、上の2つとはかなり趣の異なるもので、東京在住時に参加していた孫子女子勉強会の事例です。基本的に女性限定のクローズドな勉強会で、孫子の兵法をテーマにしていることから、いつしか孫子女子勉強会と呼ばれるようになりました。講師は、公認会計士と一言で片づけてしまえないくらいにいくつもの顔をもつ田中靖浩先生。東京で開催されているにも関わらず、沖縄、福岡、広島、大阪からも時々参加される方がいる人気の勉強会で、かくいう私も香川県に引っ越してからも参加したことがあります。

 

勉強会では、毎回、田中先生が孫子の兵法から一節を抜き出して、その意味するところと現代社会における事例を解説付きで紹介してくれます。これだけを聞くとごく普通の勉強会ですが、ここからがまあ大変な大にぎわいになります。先生の提示した事例をフックとして、次から次へと参加者が自分の身の回りでおこった事例を場に提供し、「あれはこういう意味だったのか。それに対して自分はこういう態度をとってしまったが、本来はこうすべきだったのか」というわいがやが始まります。自分だけが経験しているのかと思ったら、あちらでもこちらでも似たような事柄がおこっていることがわかり、なぜそういう現象がおこっているのかを大局的な視点で捉える議論に発展していきます。

 

単にわいわいがやがや言い合っているだけでなく、私たちが生きている時代背景をあぶり出す恊働作業を行っている感覚に近いものがあります。自分一人の経験からだけでは見ることのできない大きな絵図をみんなで創り上げていくような感覚でもあります。私が孫子女子勉強会を創造的な場の事例として挙げる理由はここにあります。

 

この勉強会の特筆すべき点が2つあります。1つ目は、メンバーの誰もが参加することを熱望し、欠席せざるを得ないことを悔しがることです。2つ目は、共同体感覚があることです。参加者同士は勉強会で何度も顔を合わせることで少しずつお互いのバックグランドを理解していきますが、基本的には相手のことをあまりよくは知りません。勉強会でわいわいがやがやしている関係でしかないにも関わらず、不思議と仲間意識を感じるのです。

 

創造的行為

ここでは「創造性とは何か」に書かれていた内容と照らし合わせながら、3つの事例がなぜ創造的行為であったかを読み解いてみたいと思います。

 

創造的な行為であるとは次の4つの条件をできるだけ高度にそろえていることだと書かれています。 

(1)「自発性」 自発的に行えば行うほど創造的
(2)「モデルのなさ」 モデルやお手本がなければないほど創造的
(3)「切実生」 切実であればあるほど創造的
(4) 実践を伴う

 

事例1のMotivation Makerのワークショップでは、それぞれにカタチの決まっていないアウトプットを生み出すので、(2)と(4)は十分にそろっています。(1)と(3)は提供されたプログラムに沿ってワークを行うので、完全とは言えませんが、全くないとも言えません。

 

事例2のTechShopでのものづくり講座でも同様に(2)と(4)は十分にそろっています。参加者は応募制になっていたので、(1)もそろっていると言えるでしょう。(3)は少し弱いかもしれません。

 

事例3の孫子女子勉強会のわいがやでは、自由意志で参加しているので(1)はそろっています。(2)も特に決まったものがない中で進んでいくのでそろっていると言えるでしょう。(3)は3つの事例のうち一番強くあると言えるでしょう。なぜなら、参加者が自身の切実な経験をもちよって、その背後にあるものをつきとめようとしているからです。(4)も勉強会の場では話をしているだけですが、日々の生活の中で実践したことを勉強会にもちよっているので、そろっていると言えるでしょう。

 

3つの事例は、4つの条件の濃淡はあるものの、おおよそ条件をそろえているという点で共通しており、創造的行為であったと言えることがわかります。

 

 

創造的行為から生まれるもの

続いて、創造的行為から生まれるものによって、3つの事例でおこった現象を解き明かしたいと思います。「創造性とは何か」では、創造的行為の結果として生まれるものを次のように述べています。

(1)創造的行為の達成があると、その人は行ったことへの満足感や、心の高揚を得ることができる。

(2)創造的行為は、まずその対象となるものを創造するが、同時に、その創造を行うことによって自らをも脱皮変容させる。創造的であればあるほど、その主体である人間の脱皮変容には目をみはるものがある。

(3)人間というものは、自分が最も創造的に行動したそこーそこで何かビューティフルなことを達成したときには、そこが第二のふるさとになる。(ふるさと化)

(4)創造的行為に繋がった人々は、また顔を合わせたがる。(同窓会化)

 

事例1のMotivation Makerのワークショップで、参加者が夢中になっていたのは、創造的行為の達成によって心情的な高揚や陶酔に向かっていたためだと説明できます。一種のフロー状態にあったとも言い換えられるでしょう。さらに、子ども、保護者、サポーターがプログラムに参加して変わったというのは、(2)にあるように主体も脱皮変容したということでしょう。そして、子どもスタッフとして継続的に関わることは、(3)ふるさと化と(4)同窓会化によって説明できます。

 

事例2のTechShopでのものづくり講座参加者の集中度合いも事例1と同様に説明ができます。また、高知県出身学生の発言は、ふるさと化による故郷の再認識から出たものと考えられます。

 

事例3の孫子女子勉強会への参加願望や共同体感覚は(4)同窓会化そのものです。単にわいわいがやがやしているから楽しいというのではなく、創造的な営みがあるからこそまた一緒に場に参加したいと思えるのだと納得しました。

 

創造的な場の創造

3つの事例と創造的行為から生まれるもので見てきたことから、現代社会の課題解決へのヒントが浮かび上がってきます。

 

現代社会の課題のひとつにコミュニティをいかにつくるかという課題があります。同窓会化はコミュニティ化とも言い換えられます。つまり、創造的行為でつながるとコミュニティ化がおきるということです。コミュニティをつくりたいならば創造的な場を創造すれば良いということになります。伊藤園さんが行っている茶ッカソンから生まれているのは伊藤園ファンコミュニティと言えるでしょう。

 

地方の切実な課題のひとつは人口減少をどう食い止めるか、特に若者の定着です。事例2の大学生のインタビュー回答とふるさと化という現象から、創造的な場をつくることで若者の意識を地域に向けることができるのではないかという仮説が立てられます

 

創造的行為の結果としての主体の自己変容は教育の目的とするところと一致します。「創造性とは何か」の中でも、川喜田先生が始めた移動大学に参加した若い人々の変化が例として挙げられています。教育の中に創造的な場をつくることで本来の教育目的が達成されることになるのではないでしょうか。ただし、この本の中にも書かれているように、自己変革を目標にするのではなく、具体的なアウトプットを作り出すことによって結果的に自分という主体の方が脱皮変容すると考える必要があります。

 

創造的な場は、必ずしも何らかの新しいアイデアやものづくりを行うためだけに必要なのでなく、現在の課題解決につながるケースがありそうです。言い換えると、創造的な場をいかにつくれるか、それが現代における大きな問いであると言えるのではないでしょうか。