気持ちよく晴れてぽかぽか陽気になった土曜日。散歩のつもりで行った特別名勝「栗林公園」で先入観を解き放たれました。
美しさの正体は?
栗林公園は6つの池と13の築山を配した回遊式大名庭園で、千本もの松の木が植えられているそうです。紅葉にはまだ少し早く、どこを歩いても鮮やかな緑が広がっていました。一歩一景といわれるにふさわしく、飽きることなく散策を楽しめました。
とりわけ園内屈指のビューポイントといわれる飛来峰からの眺めは、ため息が出そうなくらいの美しさでした。誰も彼もが「きれい!」と感嘆の声をあげて写真撮影をしていました。
他にも美しい以外の表現が思い浮かばない景色に出会いました。
美しい景色を純粋に楽しみながら散策をすれば良かったのですが、誰も彼もに美しいと感じさせる美しさの正体は何だろう?という疑問がわきあがってきました。そこからは、美しさの正体を探す散策になりました。
まっすぐ伸びるが正解か?
美しさの正体を探って歩きながら、なぜかふと思い浮かんだのが湯川秀樹博士の言葉でした。
自然は曲線を創り、人間は直線を創る
すると、至るところに植えられている松の木の枝は驚くほどに曲がりくねっていることに気がつきました。けれども、それが独特の雰囲気を醸し出し、なぜか美しさを感じてしまうことにも気がつきました。
目標に向かって直線的に進むことを良しとしていたのはひょっとして違うのかもしれないと思いました。クネクネ曲がりながら進んだ軌跡を後から見返してみれば十分に美しく、回り道をすることは決して悪いことばかりではないのかもしれないと感じました。
上に伸びるが正解か?
もうひとつ、松の木を見て気づいたのが、上に伸びているものばかりではないということでした。ある地点からは地面と並行に伸びているものや、枝が下に向かって伸びているものすらありました。
誰もが上だと思う方向に進むことが当たり前と思っていたけれど、それとは違う方向に進んだものも十分に美しいのではないかと思わずにはいられませんでした。
周りと一緒が正解か?
栗林公園は南庭回遊コースがメジャーなようですが、時間があったので北庭回遊コースも回ってみました。すると、同じ1本の木なのにひとつの枝は真っ赤に染まり、他の枝は緑のままという紅葉の木がありました。赤く染まった枝がひと際目をひきました。
その紅葉の木に近づいて見てみると、色づいていない枝の中に1枚だけ赤く染まった葉っぱがあることに気づきました。周囲の葉っぱのことは気にもせずに先頭をきって赤く染まった葉っぱは、すべてが紅葉した枝の赤い葉っぱの1枚とは違う精彩をはなっていました。
周囲と一緒がいいことばかりとは限らないわけです。周囲と異なっているからこそ惹かれるものがあるわけです。
値段は売るためのものか?
栗林公園内にある商工奨励館にて香川漆器の実演と販売が行われていました。全国伝統工芸品展で内閣総理大臣賞受賞者の方が実演されていました。販売されていた工芸品についていた1,200,000万円の値段を見てビックリしていたら、職人さんが「この工芸品、10万でも誰も買いませんよ。賞をとった技法を使ったものなんでこの値段になってます」とおおらかに笑いました。
なるほど、値段は必ずしも売るためにつけるわけではないんだなと気づきました。これだけの値段がつく工芸品を創った職人というストーリーのための値段を見ると、販売用の工芸品についた数万円の値段に納得してしまうのもうなづけます。
栗林公園散策の短い時間の間に、いくつもの先入観にとらわれていたことを思い知らされました。時には、いつもとは違う場所に行って、ものごとを違う角度から眺めてみることが必要だと痛感しました。やわらかな秋の陽射しを浴びながら自然の中を歩き回って身体も気持ちもリフレッシュできました。