自分らしく生きる

自分らしく生きたいというのは誰もが願うこと。実際は、理不尽なことにぶちあたったり、「これ、自分じゃなくてもいいよね」と思うことがあったりと、現実はなかなか思うようにはいかないもの。女性活躍推進が声高に叫ばれはするけれど、まだまだ働く女性が組織の中では少数派だったり、男性中心の古い慣習がはびこっていたりと、「働きながら自分らしく生きる」は特に女性にとっては切なる願い。

経営学習研究所の女性3人の理事によって企画され、11月5日(土)の午後に「女性活躍推進にロールモデルはいらない!? ー人生のリーダーシップを発揮してカラフルフロントランナーを目指すー」というイベントが開催されました。定員120名が満席になる盛況ぶりだったのは、このテーマがそれぞれの場所でモヤモヤを抱えながら生きている女性の琴線に触れたからではないでしょか。

f:id:n-iwayama:20161106153354j:plain

 

私はテーマもさることながら、勉強会でご一緒している板谷さんが企画したMALLの場づくりに強い関心があって参加しました。参加してわかったMALLが提供しているものを私なりに読み解いてみたいと思います。

 

ゲストスピーカーのインプット

MALLの紹介が終わった後は、多様な経験からキャリアを築いて企業の管理職として活躍する3人の女性ゲストのお話を聞くことからテーマの探求が始まりました。ゲストは、次の3つのフレームに沿って、それぞれのキャリア・ストーリーをお話されました。

  • 印象に残っている出来事
  • 私を変えた出来事
  • 今の私に繋がる出来事

今、企業の管理職になっているというプロフィールを見れば、もともと才能があったり運に恵まれたりした特別な人なんだろうなと思ってしまいがちです。3人から語られたキャリア・ストーリーは、こんな壁にぶちあたった、こんな挫折を味わった、こんな修羅場があったという、辛いエピソードの連続でした。

 

例えば、働く母親にとっての子どもの小1の壁。誰もが働く母親だった保育園から、働く母親ばかりではない小学校に環境が変わって、子どもが不登校になったエピソード。不登校まではいかなくても、何か子どもに問題がおこった時に、自分が働いていることが問題の原因かもしれないという罪の意識にさいなまれた経験をもつ母親は少なくないはずです。

 

例えば、経験のない部門への異動で途方にくれたこと。ほとんどいじめとも言える会議からの閉め出し。何のためにあるのかと疑いたくなるような理不尽な組織のヒエラルキー、などなど。

 

ゲストの具体的なエピソードの数々を聞きながら、参加者がうんうんと大きく何度もうなずいていたのは、それに類する自己の経験を引き出されたからだと想像できます。

 

エピソード自体は決して楽しいものではありませんでしたが、目の前に立ちはだかる問題から逃げずに向き合い、どう考えて、どう行動したのかを語るゲストスピーカーの背筋はぴんと伸び、目には力があり、表情はいきいきとしていました。

 

120名もの参加者とスタッフがいる会場は、ゲストスピーカーの張りのある声に集中してシーンと静まり返っていましたが、エネルギーが満ちているのが感じられました。


アカデミック・リフレクション

ゲストスピーカーのインプットの後は、 浜屋祐子さんからのアカデミック・リフレクションとして、アカデミックな研究結果を紹介してくれました。

 

1. ロールモデルの捉え方

「まるごと参照できるロールモデル」から、多様なモデルから自分で選び取り、「自分なりに構築するロールモデル」へとロールモデルの捉え方は変化してきている。

 

2. リーダーシップの発達を促す場

リーダーシップとは「共通の目標の達成に向けて個人が集団に与えるプロセス」である。リーダーシップ発達を促す機会は、仕事役割における経験のみならず、社会の中で担う様々な役割(家庭、地域、ボランティア、趣味など)の経験にも存在している。

 

ダイアローグ

f:id:n-iwayama:20161106222918j:plain

 

そして、いよいよ参加者が主役のダイアローグ。配られたワークシートで自己を省察する観点は、「ポジティブでいられること」「モヤモヤしていること」「ネガティブになること」の3つ。この3つの観点で言語化した後は、同じテーブルの人とのダイアローグ。

 

ダイアローグが始まると、各自の省察の時間の静けさから一転、会場中に内側からあふれ出てくる様々な思いの言葉が渦巻きました。ワイングラスを片手にリラックスして本音で語り、話し手の声に耳を傾け、時には相づちをうち、時には質問を投げかけ、それぞれが自分でも気づかないうちに何かが少しずつ変化していく時間になりました。

 

MALLの場づくり

ここではMALLの場づくりについて考察してみたいと思います。

 

ゲストスピーカーのコーナーをファシリテートしたのは板谷さん。タイトルスライドに合わせたコーディネートと思われるピンクのシャツは、場を明るい雰囲気にしてくれました。勉強会でお会いする時とは別モードのやわらかな語り口は、安心して本音を出せる場をつくり出してくれました。

f:id:n-iwayama:20161106222843j:plain

 

何の変哲もない大学の教室を対話の空間に変えるのに一役も二役もかったのが、ワインと上質なお菓子でした。そして、今回のテーマに沿った場のしつらえ。机の上にテープを貼った道がつくられ、ポストイットの形にもこだわりがありました。場のしつらえは、この場ではこういう気持ちになってほしいというメッセージなのだと気づきました。

f:id:n-iwayama:20161106223302j:plain

 

プログラムの流れは、人を動かす「Me We Now理論」にもあてはまるように感じました。
Me:  ゲストのインプットトーク(壁にぶちあたったエピソードでゲストと参加者との距離を縮める)

We:  アカデミック・リフレクション(ゲストの話と自分の共通項を見出す視点を提示し、連帯感を作り出す)

Now:  ダイアローグ(参加者自身が内省から自分のポジティブな気持ちを言語化する)

 

ゲストのインプットトークはストーリー・テリングで感情を揺さぶり、アカデミック・リフレクションでは論理で訴え、右脳と左脳の両方に働きかけるのも、インプットの質を高める仕掛けとしてとてもよくできていると思います。

 

よく言われるようにワークショップ系のイベントの最大の変数はなんといっても参加者です。私の後の席に座っていたのは福岡からの参加者でした。名古屋からの参加者もいると聞こえてきました。4,000円の会費によって、今回のテーマに切実な関心をもった人がフィルタリングされて、全国から参加者が集まりました。

 

MALLイベントが提供したもの

最後にMALLイベントが提供したものについて考察してみたいと思います。

 

ダイアローグが終了して会場から去る参加者の顔は、なんだかとても活き活きして見えました。同じテーブルになった人としかダイアローグしていないのですが、おそらくはどのテーブルでもモヤモヤやネガティブなことも語られたはずです。そして、その気持ちの原因となっている事象は、当たり前のことですが、このイベントに参加する前と後では何も変わっていません。それなのに、なぜ、イベントが終わった後の参加者に変化がおきたのでしょうか。

 

白井利明さんが書かれた「希望の心理学」の中にそのヒントがあるように思います。

私たちが絶望しても、なおも人生に何を期待できるのかではなく、反対に、人生が私たちに何を期待しているのかが問われる。

「いかに苦悩から逃れたり、死を避けるか」ではなく、「いかに苦悩や死を含めた全体の中に自分の人生の意味を見出すか」を問うべきだ。

 

参加者は、このイベントのプログラムを通じて、自分の置かれている状況に対しての意味を見出したということではないでしょうか。自分らしく生きることができるようになったとも言い換えられます。

これを図式化すると、こんな感じになるでしょうか。

f:id:n-iwayama:20161107014534p:plain

人間は意味を問う生き物であると言われます。他者との対話により視点の転換を行い、対話を経てのリフレクションにより意味を構築することによって、辛い現実をいかに乗り越えていくかを自分で考え、行動できるようになるということではないでしょうか。

 

MALLは、学びたいと願う人に学びの場を、変わりたいと願う人に変われる場の提供を目的としているそうですが、まさにその場を提供したといえるでしょう。

 

MALLは、モヤモヤを抱えながら走っている私たちにとっての給水場の役目を果たしているように感じました。MALLで給水して走り出しても、きっとまた、辛くなる時がくるでしょう。でも、次の給水地点まで走り続ければ仲間が走っていることも確認できて、給水することもできます。そう思うと走り続けられる気がするのです。