ただいま瀬戸内国際芸術祭2016の秋会期の真っ最中とあって、高松のまちの至るところでポスターや旗が目に飛び込んできます。海外から訪れる人も多いこの芸術祭とは何かを考えてみたいと思います。
瀬戸内国際芸術祭を因数分解する
瀬戸内国際芸術祭を因数分解する前に、3年前に慶應SDMの公開講座で聞いた古田秘馬さんの「新しい世界のコンセプトを創造する」という講演のエッセンスを紹介します。
コンセプトとアイデアを混同している人がいるが、この2つは明確に違う。コンセプトは、Whyであり、プロジェクトの本質であり、哲学であり、意味づけである。アイデアは、Howであり、具体的な企画内容であり、演出であり、仕掛けである。
コンセプトとアイデアの関係は、(条件)×(アイデア)/(コンセプト)である。
人が最初に行く理由はコンセプトにあり、人が継続して行く理由はコンテンツ(アイデア)にある。
コンセプトはプロジェクトの大義である。どこに向かうかがコンセプトであり、どの道を通るかがアイデアである。
瀬戸内国際芸術祭にこの定義をあてはめて因数分解してみようと思います。
条件は「瀬戸内の島々」
コンセプトは「島が活力をとりもどす」
アイデアが「国際芸術祭の開催」
ということになるでしょうか。
国際芸術祭を開催すればアート作品を見るためにたくさんの人が訪れると考えて、アイデアだけに目を向けて、アーティストを呼んできて作品を作ってもらって芸術祭を開催しようとしてもきっと上手くいかないでしょう。
瀬戸内国際芸術祭で一番大切なことは、島民もアーティストと一緒になって芸術祭に参加することです。アーティストや来島者という外の力を借りて、島民の活力をとりもどすことです。それが島の活力をとりもどすということなのだと思います。
島の風景とアートのハーモニー
瀬戸内国際芸術祭の魅力は何といっても、島の風景とアートのハーモニー。美術館の中に展示される作品では表現しきれないものが島の風景の中で活き活きと表現されています。
例えば「カモメの駐車場」。ひとつひとつは単純でもこれだけの数のカモメが並ぶと圧巻です。海に浮かぶ島々を背景にすると本当に絵になるのです。
それから「20世紀の回想」。船に見立てたピアノから流れる旋律は波の音と呼応するように流れて、なぜこの場所にあるのかをも物語っています。
これらの作品は前回の瀬戸内国際芸術祭で制作された作品で、芸術祭が開催されていな期間もずっと島に残っています。芸術祭が開催されるたびに島に作品が増えてゆき、アートな島として育っていく仕掛けになっています。島の風景に溶け込むように作られた作品は、芸術祭が開催されていない期間に存在していても違和感がない島の風景になっていくというわけです。瀬戸内国際芸術祭は実によく練られた企画です。